甘美な百合には裏がある

ありきた

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25話 鋼の自制心が欲しい

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 今現在、部室には私と姫歌先輩の二人しかいない。
 聞けば、葵先輩たちはちょっとした用事で十数分ほど遅れるとのこと。

「二人きりだなんて、ドキドキしちゃう❤」

「あはは、私だって同じですよ」

 柔和な笑みを浮かべる姫歌先輩の頬は、ほんのりと赤らんでいる。
 嬉しそうな声音には一抹の緊張が感じられて、発言の内容が事実であることを物語っていた。
 ただ、ちょっと待ってほしい。
 表情に出さないよう気を付けつつ自然に会話をつなげたけど、一つだけ、心の中で叫ばせてもらう。

 ――私の方がドキドキしてますよっ!!

 創作部に慣れたとはいえ、実は常日頃から先輩たちの魅力に当てられて理性を失いそうになっている。
 委縮しすぎてコミュニケーションの機会を逃すのはもったいないと思って平静を装っているけど、胸の高鳴りだけはどうすることもできない。
 いまだって、姫歌先輩の美貌に見惚れてしまっている。
 何気なく髪を触る仕草すら、神秘的なまでに美しい。
 他愛ない会話を繰り広げながらも、私は本能の赴くままに獣欲を解き放とうとする己自身を抑制するのに必死だ。

「ねぇ、悠理❤ 創作部は楽しい? 入ったこと、後悔してない?」

「楽しいですよ。感謝することばかりで、後悔なんて一つもありません」

 先輩たちは四人とも変態だしセクハラなんて日常茶飯事だけど、百合趣味の私にとって絶世の美少女に囲まれる生活は宝くじに当選するより何倍も嬉しい。
 それに、みんな外見に勝るとも劣らないほど内面も素敵だ。
 後輩である私の面倒を見つつも上下関係ではなく友人のように接してくれるし、優しさや思いやりの心が発言や行動の節々から伝わってくる。
 セクハラにしても私が本当に嫌だと感じるようなことはせず、やや過激なスキンシップとして受け入れられる範疇に留めてくれている。
 二次元に匹敵するかわいさとプロ級の技術を備えているのに決して鼻にかけない慎ましさも、人として尊敬できるポイントだ。もちろん、技能そのものに対しても敬意しかない。
 先輩たちの美点は枚挙にいとまがなく、家にいるときも食卓を囲みながら先輩たちのことばかり話している。

「よかった❤ 実はちょっと不安だったんだけど、これで安心できるわ❤ これからも末永くよろしくね❤」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 末永く、か。
 まだ当分先のこととはいえ、先輩たちは私よりも一年早く卒業してしまう。
 きっと寂しくて泣いちゃうだろうけど、永遠の別れというわけじゃない。
 願わくは、大人になっても、年老いても、いつまでも良好な関係でありたい。

「ふふっ、言質取っちゃった❤」

「へ?」

「ううん、こっちの話よ❤」

 よく分からないけど、まぁいいか。
 それにしても、姫歌先輩ってなんでこんなにいい匂いなんだろう。
 シャンプー? 柔軟剤? 香水?
 うーん……どれもしっくりこない。やっぱり、姫歌先輩自身から発せられている香りだよね。
 特殊な細胞を備えているんじゃないかって突飛な発想をしてしまうほど、甘美な芳香だ。
 葵先輩、アリス先輩、真里亜先輩も、それぞれ違った素敵な匂いを身にまとっている。
 我ながら気持ち悪い願望だけど、先輩たちの匂いを香水にして使いたい。
 人工的に作り出すのは不可能だと分かっているからこそ、余計に望んでしまう。

「わたし、悠理の匂い大好きなのよねぇ❤ 二人きりだといつもよりハッキリと感じられて、いやらしい気持ちになっちゃうわ❤」

「い、いやいや、姫歌先輩の方がよっぽどいい匂いですよ」

 ちょうど匂いについて考えていたところだったから、心を読まれたみたいで動揺を禁じ得なかった。
 後半部分については、聞かなかったことにしておく。
 ただでさえ油断すれば理性が崩壊しかねないのだから、あんまり刺激的なことを言われると自分を抑えられなくなる。
 ついでに、姫歌先輩が身じろぎするたびにぷるぷる揺れる豊満な乳房がことさら私の情欲を掻き立てる。
 なまじ直接拝ませてもらったことがあるだけに、衣服を剥ぎ取る妄想は容易い。
 頭より大きな爆乳が重力に逆らってツンと上を向く様は、思い出しただけで生唾を飲んでしまう。
 煩悩を拭い去ろうと首を左右に振っていると、不意に扉の向こうから足音が近付いてきた。

「あらあら❤ 二人きりの時間は終わりね❤」

「ですね」

 姫歌先輩と顔を見合わせて、ふっと微笑む。

「あ~っ、なんかいい感じの雰囲気になってる! 悠理っ、あーしともイチャイチャしてよ~!」

「きょ、今日、蒸し暑かったから、汗かいてる、よね? く、靴下、嗅がせて」

「とりあえず、遅れた罰として腹パンしなさい。葵とアリスの分もあたしが受けるわ!」

 葵先輩に背後から胸を揉みしだかれ、床に這いつくばったアリス先輩に上履きを脱がされ、真里亜先輩が制服をめくってお腹を露出させる。
 呆れて大きな溜息を吐くと、姫歌先輩が急に顔を近付けてきてそれを吸い込んだ。
 全員がまったく別々の行動を取っているのに、タイミングは完璧なまでに一致している。
 甘んじて受け入れているとはいえ、仮に回避しようとしても困難を極めるだろう。

「まったく……ほどほどにしてくださいね」

 やれやれといった態度を取りつつ、先輩たちに体を委ねる。
 こうしている間にも私が密かに自分の劣情と死闘を繰り広げているのは、もちろん秘密。
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