甘美な百合には裏がある

ありきた

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23話 サンダルかブーツか

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 葵先輩とアリス先輩が、対角線上で視線をぶつけて論争を繰り広げている。
 葵先輩は私の胸を揉み、アリス先輩は私のパンツを顔に被りながら。

「絶対にサンダルの方がいいよ!」

「ブーツの方がいいっ」

 慣れたとは言いたくないけど、パンツを提供してお股がスースーするのも、ちょっとしたアクシデント程度に思えるようになってきた。
 姫歌先輩は執筆を続けながらも二人の言い争いに耳を傾けているようで、たまにしみじみと納得したように頷く。
 真里亜先輩は園芸部の人にもらった野菜を使って、キッチンで軽食を作ってくれている。

「露出が多いから素肌に触りやすいし、悠理のかわいい指とか爪だって見放題なんだから!」

「あらゆる履物の中で特に蒸れやすくて臭いがこもりやすいから、熟成された濃厚な香りが楽しめるもん!」

 サンダルか、ブーツか。
 私に履かせるなら、という話題で二人の主張が反発し、次第に口論へと発展してしまった。
 その流れで、面と向かって意見をぶつけたいという理由からパンツのレンタルを要請されたわけだ。
 二人ともいつになく必死で、互いに一歩も引かない。
 私に関することで言い争っているものの、正直なところ私としてはどうでもいい。
 暑ければサンダル、寒ければブーツでいいんじゃないだろうか。

「ブーツなんて邪道だよ! 肌が見える面積が大幅に減っちゃうし、ふくらはぎのぷにぷに感も楽しめないじゃん!」

「サンダルこそ間違ってると思う! 通気性がいいから蒸れにくいし、脱いだときのムワッとした熱気も味わえない!」

 古典的な表現だけど、二人の間で火花が散っているようだ。
 不毛な争いだと呆れながら聞いていると、不意に私の意見を求められる。
 こういうときに『どっちでもいい』という曖昧な返答が最も困るというのは重々承知しているものの、どちらにも特に思い入れやこだわりがないから、二人が望むような答えは口にできない。
 私にできるのは、逃げ出さずに話を聞き続けることだけ。

***

 どうでもいい言い争いは、真里亜先輩が用意してくれたサラダとバーニャカウダを食べ終わった後も続いていた。
 野菜でお腹が膨れて心にゆとりが生まれたのか、先ほどと比べて単に反発し合うだけでなく、相手の言い分を認めて肯定した上で自分の意見を主張している。
 さすがに冷えてきたので、パンツは返してもらった。
 アリス先輩はテーブルの下に潜らず、視線を泳がせながらも葵先輩と顔を向き合わせて話している。

「サンダルが最高だって考えは変わらないけど、ブーツの魅力もよく分かったよ~。ちょっとギスギスしちゃったけど、有意義な話し合いだったね!」

「う、うん。アリスも、ぶ、ブーツへのこだわりは譲れないけど、サンダルも、す、素敵だって思う。貴重な意見を交換できて、う、嬉しい」

 張り詰めた雰囲気が緩み、争いの終局を感じさせる。
 二人は晴れやかな笑顔を浮かべ、どちらからともなく手を差し出し、グッと固い握手を交わした。
 仲違いに発展するどころか絆がより強固になって、もしかしたら感動する場面なのかもしれない。
 ただ、自分でも不思議なほどに心が揺れない。いや、きっとこれが普通なのだろう。
 とにかく、不毛極まりない議論が終わってなによりだ。

「あっ、そうだ! 片方の足でサンダル、もう片方でブーツを履いてもらえばいいんだよ! うわ~っ、自分でも驚くほどヤバい名案閃いちゃった! ねっ、アリスもそう思わないっ?」

「た、確かに……っ! も、盲点、だった。相反する二つの魅力を、ど、同時に楽しめる、なんて」

 それだけは勘弁していただきたい。
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