甘美な百合には裏がある

ありきた

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19話 高校生なら当然

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 部室の棚に置かれたトランプを見ると、この間のゲームを思い出す。
 なにかと恥ずかしい目に遭ったけど、姫歌先輩の罰ゲームによって受けた流れ弾のダメージが最も大きい。
 常識人を気取っている私が毎日オナ――もとい、自らを慰める行為に耽っていることが知られてしまったのだから。
 せめてもの救いは、先輩たちをオカズにしているのがバレなかったことだ。さすがにこれが発覚すれば、いたたまれなさで死んでしまう。

「あらあら❤ また罰ゲーム有りで遊びたいのかしらぁ❤」

 音もなく背後に現れた姫歌先輩が、私の肩を優しく掴みながら艶めかしく囁く。
 驚きはしないけど、刺激が強いから困る。

「違いますよ。姫歌先輩が自分の罰ゲームなのに私を辱めたことを思い出していたんです」

「あ、あのときは本当にごめんなさいね❤ 深く反省しているわ❤」


 わずかに焦った様子で、素直に謝罪してくれた。
 真面目な態度のときでも息遣いが異様にエッチなのは、もはや一種の才能と言える。

「まぁ、紛れもない事実ですからね。責めるつもりはないですよ」

 本音ではあるけど、どうしても気落ちしてしまう。
 改めて考えたら、私の性欲は相当強いのかもしれない。
 なんか急に恥ずかしくなってきた。

「落ち込まないで❤ 多感な時期だし、高校生なら当然よぉ❤」

 落ち込んでいるのが伝わってしまったらしく、姫歌先輩は後ろからギュッと抱きしめながら優しく慰めてくれた。
 二つの柔らかい塊が背中に押し付けられ、甘い香りが鼻孔をくすぐる。
 女子校――少なくともこの学校では珍しくもないスキンシップだと分かっていても、胸の高鳴りは止められない。

「せ、先輩は、どうなんですか?」

 好奇心に勝てず、つい口を滑らせてしまった。
 この手の話題は創作部において最も広がりやすいということを熟知していながら……。

***

 五人がそれぞれの席に着き、真里亜先輩が用意してくれたレモンティーとクッキーを手元に置いて顔を見合わせる。
 アリス先輩がきちんと着席しつつも視線を泳がせていないのは、先ほど半ば強引に提供させられた私のパンツを被っているからだ。おかげでお股がスースーする。

「それじゃあ、第一回創作部員のオナニー事情暴露大会を始めましょうか❤」

 いや、もう、シンプルに題名が酷い。

「いぇ~いっ! 盛り上がっていこ~っ!」

 さすが葵先輩。内容がアレなのに、いつも通りテンションが高い。

「ハァハァ、今日は体育があったのかな? 悠理のパンツ、いつもより――」

「その先は言わないでください!」

 余計なことを口走ろうとするアリス先輩を、寸でのところで制止する。

「何気にこういう情報を共有する機会って貴重よね。楽しみだわ」

 恥ずかしがる素振りも見せず純粋な期待感を露わにする真里亜先輩。

 タイミングを逃して言えなかったけど、レモンティーもクッキーもめちゃくちゃおいしいです。

「最初は責任を持って、部長のわたしから行かせてもらおうかしら❤」

 姫歌先輩が右手を頬に添え、ニコッと微笑む。
 私がやっても『なにやってんだ?』って思われそうな仕草だけど、この人がやると写真に収めたくなるほどの魅力を放つ。
 部長の心意気に一同が拍手で称え、場を盛り上げる。
 こんなに楽しげな雰囲気を出していいのかと不安になるけど、筋トレの頻度や内容を話しているようなものだと考えることにしよう。そうじゃないとやってられない。
 私の頻度が高いというだけで、高校生という年頃を考慮すれば至って健全かつ当然な行為に過ぎないのだから。

「回数は二日に一回程度ぐらい❤ オカズは前にも言った通り、悠理を盗撮した動画よ❤」

 世間一般の基準がよく分からないから多いのか少ないのか判断できないけど、予想していたよりは少ない。
 盗撮に関しては明らかな犯罪とはいえ、先輩が警察のお世話になるのは嫌なので、合意の上であると認めよう。

「次はあーしの番! 三日に一回ぐらいで、悠理のおっぱいとかお尻の感触を思い出しながらしてるよ~!」

 なるほど、葵先輩は三日に一回、と。
 先輩たちの貴重な情報、しっかり記憶しておかなければ。
 他意はないよ? ただ純粋に、後輩として尊敬する先輩についての見聞を深めようとしているだけ。

「アリスは毎日してるかな。いま嗅いでるパンツの濃厚な香りも、脳に焼き付けて今夜のオ――えっと、その、ごにょごにょ」

 途中まではパンツ効果で堂々と話していたのに、いきなり頬を真っ赤にして顔を伏せてしまった。
 そう言えば、アリス先輩は下ネタが苦手なんだっけ。
 説得力の欠片もないし信憑性皆無だと思っていたけど、どうやら本当だったらしい。
 疑ってしまったことは後ほど謝るとして、下ネタの基準が意味不明すぎる。
 パンツの感想は嬉々として語れても、直接的な単語はダメなのだろうか。

「あたしは傷が残らないような自虐行為なら毎日やってるけど、オナニーは滅多にしないわね」

 ということは、部内で最も低頻度なのは真里亜先輩ということになる。
 勝手な思い込みだけどドМの人は回数が多そうなイメージだったから、少し意外だ。
 見た目の幼さに反してアリス先輩が私と同等だったり、予想と異なる点が多い。
 品性のある会話とは言えないけど、有益な情報が得られてよかった。おかげでいろいろと捗――いや、なんでもない。

「せっかくだから、この場で悠理が実際にしてるところを見せてもらえないかしらぁ❤」

「いーねいーね! あーしも見たい!」

「大賛成! アリスも興味あるっ!」

「羨ましいほどの羞恥プレイ、鑑賞する側として楽しませてもらうわよ」

 姫歌先輩が楽しそうに提案し、葵先輩は陽気に同調し、アリス先輩はパンツ越しに鼻息を荒げ、真里亜先輩は腕を組んで不敵な笑みを浮かべる。

「絶対に嫌です」

 私はスッと目を細め、断固として拒否した。
 期待してくれる先輩たちには悪いけど、さすがに人前でそんなはしたないことはできない。
 高校生として当たり前の行為とはいえ、話すのと見せるのとではハードルの高さがまるで違う。

「そうよね、無理もないわ❤ ここは一つ、妥協案として比較的ソフトな秘蔵ムービーの鑑賞会を開くことにしようかしら❤」

 この後、私が死力を尽くして妨害したのは言うまでもない。
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