甘美な百合には裏がある

ありきた

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17話 複雑な心境

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 先輩たちの都合から、少しの間だけアリス先輩と二人きりになった。
 せっかくだから話したいんだけど……ロリな見た目でド変態な先輩は、今日も変わらずテーブルの下で私のスカートに顔を突っ込んで息を荒げている。

「アリス先輩、たまには面と向かって話しませんか?」

 姿の見えない相手に向けて、率直に提案する。

「ぱ、パンツ、か、貸してくれる、なら」

「脱いで渡せってことですよね?」

「う、うん」

 普通なら考えられないことだけど、創作部で同じ時間を過ごすうちに難なく理解できるようになってしまった。
 仲よくなれて嬉しいような、悲しいような。

「仕方ないですね。きれいな物じゃないんですから、あんまりベタベタ触っちゃダメですよ」

 自分が身に着けている物をハッキリ汚いとは言いたくないけど、衣類として最も汚いのは確かだ。
 渋々ながらパンツを脱ぎ、アリス先輩に渡す。

「ひゃっほ~うっ! ありがとう悠理! ハァハァ、とってもいい匂い!」

 パンツをマスクのように装着した正真正銘の変態が、テーブルの下から元気よく飛び出した。
 イスに座って私の方に体を向け、パンツ越しにも分かる屈託のない笑顔を浮かべている。
 きれいじゃないからベタベタ触るなと忠告したはずなのに、鼻と口に当たっているのは先ほどまで私の陰部に密着していた部分だ。

「ねーねー、舐めていい? 悠理のアソコを優しく包んでたところ、ペロペロしてもいい?」

「舐めたら舌を引っこ抜きますよ」

「ご、ごめんなさい」

 もちろん冗談で言ったんだけど、予想以上に委縮させてしまった。
 とはいえ、衛生面を考慮すればここは決して譲れない。

「アリス先輩って、休日はどんなことをしてるんですか?」

「本屋さんとか雑貨屋さんを見て回ったり、カラオケに行くことが多いかな」

「へぇ、意外ですね。失礼ですけど、人が多そうなところって苦手だと思ってました」

「うん、苦手だよ。店員さんに話しかけられたら、一目散に逃げちゃうもん。カラオケも事前に予約しておいて、最小限のやり取りで済むようにしてる」

「見たことないのに、ものすごく鮮明に想像できます」

「いまみたいに悠理のパンツを被った状態だったら、人混みの中でも平気で歩けそうなのになぁ」

「パンツを被ったまま人混みを歩いてたら通報されますよ」

「あはは、確かに。それで悠理は? 一週間履き続けた靴下の臭いを楽しんだりしてるの?」

「考え得る限り最低最悪の過ごし方ですね。だいたい、ちゃんと毎日履き替えてますから」

 人として当然だけど、この部に入ってからはどこぞのロリな先輩が頻繁に嗅ごうとするから、ことさら清潔感を気にかけている。

「私は友達と出かけたり、家事を手伝ったりしてます」

「え……悠理、友達いるの?」

 アリス先輩は目を見開いて驚愕し、ガクガクと体を震わせる。
 そんなに驚くことじゃないとツッコミを入れたいところだけど、パンツを被ったまま愕然とする様子がシュールすぎてどうでもよくなった。

「まぁ、多くはないですけどね」

「そ、その子にも、パンツとか靴下を嗅がせてるの?」

「まるで私が強要してるみたいな言い方しないでください! まったく……そんなの、アリス先輩しか嗅がないと思いますよ」

「アリスだけ……うぇへへ、やったぁ」

 にへらっと緩みきった笑みを浮かべ、小さくガッツポーズをする。
 なにこのかわいい生き物。
 だけど悲しいかな、笑顔の理由とパンツを被る姿が、すべてを台無しにしている。

***

 半時間ぐらい二人で談笑していると、他の先輩たちが続々と部室に帰ってきた。
 未だにパンツを被ったままなのに、誰一人として驚かない。
 細かいこと――いや、細かくはないけど――諸々はともかく、今日はアリス先輩といろいろ話せてよかった。
 今度はぜひ、演技や歌の話も聞いてみたい。
 しばらくして部活が終わる時間にようやく下着が返却され、スースーして落ち着かない気持ちともお別れとなる。
 当然と言うべきか、いまのいままでアリス先輩の顔に密着していたので、ほんのり温かい。
 あと、ちょっとだけ湿っていた。
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