甘美な百合には裏がある

ありきた

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13話 バレたら危険?

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 真里亜先輩に教わりながら作ったわらび餅を食べていると、ちょっとした疑問が頭に浮かんだ。


「先輩たちの変態行為って、学校側にバレたら問題になりますよね?」


 疑問と言っても、ほとんど確信している。

 先輩たちが自覚しているかどうかを確かめる意味合いが強い。

 無自覚だったら、可能性の話だけど部の存続すら危うくなる。


「うふふ❤ バレないわよぉ❤」


 盗撮・盗聴の常習犯であり誰にも気取られず家の二階によじ登る一流の変態こと姫歌先輩は、わずかばかりの不安も感じさせない余裕の笑みをたたえている。


「それに、あーしたちはなにも悪いことしてないよ~。初めての後輩である悠理をかわいがるのは、部活の先輩として当たり前のことだもん」


 などと供述するのは、ペンを握る反対の手で私の胸を揉み続ける葵先輩。

 確かに程度や加減というものを考慮しなければ、女子校におけるスキンシップとして許容できる行為かもしれない。


「あ、アリスも、コミュ障克服のために、ひ、必要なこと、だから、仕方ない」


 アリス先輩は私のスカートの中という定位置に顔を埋め、鼻息を荒くしながら断言した。

 ハッキリ言わせてもらうと、一番危ない行為をしているのは間違いなくこの人だ。


「あたしは悠理に焦らされ続けてるから、仮に部内での行いが発覚しても関係ないわね」


 否定はできないけど、要求内容が最も過激なのは真里亜先輩である。

 わらび餅の材料をゴムベラで混ぜている際も、口にするのを憚られるような、ドン引きせずにはいられない行為を求められた。即答で拒否したのは言うまでもない。

 それにしても、真里亜先輩が片手間で作った抹茶風味の黒蜜が絶品すぎて困る。これがお店で売られていたら、リピーターが絶えないだろう。


「さすがというか、予想を裏切らないというか、まったく動揺しませんね。どんな屁理屈をこねても、私が先生に告げ口したら、厳重注意は免れないですよ」


 もちろん万が一にも有り得ないことだけど、先輩たちをからかうつもりで言ってみる。


「悲しいけれど、そうなっても文句は言えないわねぇ❤」


「うんうん。悠理が判断したことなら、甘んじて受け入れるしかないよ」


「あ、アリスも、そ、そう思う」


「悠理を追い込んだあたしたちが咎められるは、当然の結果だわ」


 ほんの少し慌てる様子を見たかっただけなのに、みんな深刻そうな声を上げてうつむいてしまった。


「ご、ごめんなさい、責めるつもりじゃなかったんです。それに、よく考えたら部の外で自重している以上は四人ともきちんと時と場合をわきまえているわけですから、そもそも最初に言ったような心配は無用ですよね。もちろん、告げ口なんて絶対にしませんよ。たまに呆れることはありますけど、構ってもらえて嬉しいと心底思ってますから!」


 雰囲気を悪くした自責の念と先輩たちを落ち込ませてしまった罪悪感から、慌てて弁解する。


「……じゃあ、これからもストーキングさせてくれる?」


「もちろんですよ! 姫歌先輩のお好きなようにしてください!」


「おっぱいとかお尻、触ってもいい?」


「はい! 私なんかの体でよければ、葵先輩が飽きるまで触りまくってください!」


「む、蒸れた腋とか、へそも、嗅いでいい?」


「私とアリス先輩の仲じゃないですか、遠慮は無用ですよ!」


「胃の中身を全部吐いてしまうぐらい、ボコボコに殴ってくれる?」


「それはさすがに無理ですけど、真里亜先輩の要望に少しでも応えられるよう善処します!」


 いつになく気弱な態度で発せられる質問の数々に、声を張り上げて答えていく。

 私にできることなんて限られているけど、先輩たちが喜んでくれるなら多少の――ん?

 多少、の……?

 冷静になって、直前のやり取りを思い返してみる。

 もしかして私、とんでもないこと言っちゃった?


「うふふ❤ これからも毎日楽しく過ごせそうだわぁ❤」


「優しい後輩を持って幸せだよ~!」


「ゆ、悠理、ありがとう」


「ゆくゆくはハードなプレイも頼むわよ」


 一斉に元気を取り戻し、喜びを露わにする。意気消沈した姿が嘘のようだ。

 うん、私だってバカではない。

 先輩たちをからかう流れに持ち込んだつもりが、逆にハメられてしまった。


「ちなみに、さっきの言葉は録音させてもらったわよぉ❤」


 かわいい顔と声でとんでもないことを言ってくれる。

 後悔先に立たずとはこのこと。


「あと、仮にバレても先生方の秘密を握っているから心配はいらないわ❤ ……ふふっ、鍵をかけているからって、保健室なんてベタな場所を選んじゃダメよねぇ❤」


 意地悪な笑みを浮かべながら、姫歌先輩が意味深なことを漏らす。

 もしかすると、彼女は無敵の存在なのかもしれない。
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