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5話 小さなことから
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入学からしばらく経って、高校生活にも創作部にも少しは慣れてきた。
姫歌先輩の神出鬼没ぶりにも落ち着いて対処できるし、葵先輩のセクハラに対しても迅速な対応ができる。
アリス先輩は基本的には部室の隅で収録していて、真里亜先輩は向こうからなにかしてくるわけではない。
いつまでもただ見学して雑談に混ぜてもらうだけというわけにもいかないので、私もいろんなことに手を出し始めた。
たとえば、今日は葵先輩にイラストのコツを教えてもらっている。
授業じゃないから描きたい物を描くのが一番だと言われ、いずれ自分好みの百合イラストを描く第一歩として、女の子を描くことにした。
姫歌先輩は隣で執筆に集中していて、アリス先輩と真里亜先輩は親戚の集まりで今日はいない。
「線はゆっくり時間をかけるんじゃなくて、ある程度勢いをつけてシュッとやった方がいいよ! あんまり丁寧にやりすぎても線がだる~んってなるし、無意識のうちに手元ばかり見ちゃって全体像が把握できなくなったりするからね!」
「なるほど、やってみます」
葵先輩に借りたタブレットを前に、気合いを入れ直す。
あらかじめ顔の輪郭を描いてもらって、その上にレイヤーを重ねて顔のパーツや髪の毛を描くという形でやらせてもらう。
最初はきれいな線を引こうとして過剰すぎるほど丁寧に手を動かした結果、逆に汚くなってしまった。
消しゴム機能で線を消し、アドバイスを元に髪の毛を描いてみる。
「お~っ、いいね! 迷いのない動き!」
「あ、ありがとうございます。でも、やっぱり難しいですね……」
どう見ても、下手くそと言わざるを得ない。
前髪を描いたんだけど、内側にコップでも収納してるのかと思うほど大きく膨らんでしまっている。
「あははっ、そんなすぐに上手く描けたらあーしの立場がなくなっちゃうよ~。いつでも教えるから、一緒に腕を上げていこう!」
葵先輩は思わずキュンとなってしまうようなことを言いながら、私の背後から胸を揉み始めた。
「堂々とセクハラしないでください」
「やっぱ悠理のおっぱいは最高だね!」
「このペン、突き刺しますよ」
「わっ、ごめんごめん!」
もちろん冗談だけど、葵先輩は潔く手を離してくれる。
あいさつ代わりに胸とかお尻を触ってくるとはいえ、決してしつこくはない。
「それじゃ、続き描いてみよっか」
「いいんですか? 私は助かりますけど、先輩の作業が進みませんよ」
「大丈夫! あーしだって描きたくて描いてるだけで、べつにノルマとかないしね~。悠理に教えるのが楽しいから、いまはこのやり取りが最優先!」
「わ、分かりました」
こんなことを言ってもらえるなんて、後輩冥利に尽きる。
「そうだ! 感覚を掴むために、っと――」
なにかを思い付いたらしい葵先輩は、ペンを持つ私の手に自分の手を重ねてきた。
「あーしが実際に軽く描いてみるから、どういうふうに手を動かしてるのか意識してみてね!」
「了解です。でも、葵先輩って左利きですよね?」
「右でも同じように描けるから、安心して任せてよ!」
いや、もう、すごいとしか言えない。
***
手を動かしながら要所では説明もしてくれて、あっという間に時間が過ぎた。
目の前には、とても自分の手で描かれたとは思えない美少女のイラストがある。もちろん、葵先輩がいなければ子どもの落書きにしかならなかっただろう。
すぐに同じレベルで描けと言われても無理だけど、なんとなくコツというか、感覚の片鱗ぐらいは掴めたような気がする。
見聞きするのも勉強になるけど、実際に手を取って教えてもらうとより分かりやすい。
「うんうん、悠理は素質あるよ! スキルアップ目指して、コツコツ頑張っていこう!」
「はいっ。葵先輩、今日はありがとうございました!」
先輩につられ、私まで声が大きくなる。
というより、先輩への敬意で自然と声が弾んだ。
ちなみに……この後リクエストで描いてもらった百合イラストは、当然のごとく二人とも裸だった。
姫歌先輩の神出鬼没ぶりにも落ち着いて対処できるし、葵先輩のセクハラに対しても迅速な対応ができる。
アリス先輩は基本的には部室の隅で収録していて、真里亜先輩は向こうからなにかしてくるわけではない。
いつまでもただ見学して雑談に混ぜてもらうだけというわけにもいかないので、私もいろんなことに手を出し始めた。
たとえば、今日は葵先輩にイラストのコツを教えてもらっている。
授業じゃないから描きたい物を描くのが一番だと言われ、いずれ自分好みの百合イラストを描く第一歩として、女の子を描くことにした。
姫歌先輩は隣で執筆に集中していて、アリス先輩と真里亜先輩は親戚の集まりで今日はいない。
「線はゆっくり時間をかけるんじゃなくて、ある程度勢いをつけてシュッとやった方がいいよ! あんまり丁寧にやりすぎても線がだる~んってなるし、無意識のうちに手元ばかり見ちゃって全体像が把握できなくなったりするからね!」
「なるほど、やってみます」
葵先輩に借りたタブレットを前に、気合いを入れ直す。
あらかじめ顔の輪郭を描いてもらって、その上にレイヤーを重ねて顔のパーツや髪の毛を描くという形でやらせてもらう。
最初はきれいな線を引こうとして過剰すぎるほど丁寧に手を動かした結果、逆に汚くなってしまった。
消しゴム機能で線を消し、アドバイスを元に髪の毛を描いてみる。
「お~っ、いいね! 迷いのない動き!」
「あ、ありがとうございます。でも、やっぱり難しいですね……」
どう見ても、下手くそと言わざるを得ない。
前髪を描いたんだけど、内側にコップでも収納してるのかと思うほど大きく膨らんでしまっている。
「あははっ、そんなすぐに上手く描けたらあーしの立場がなくなっちゃうよ~。いつでも教えるから、一緒に腕を上げていこう!」
葵先輩は思わずキュンとなってしまうようなことを言いながら、私の背後から胸を揉み始めた。
「堂々とセクハラしないでください」
「やっぱ悠理のおっぱいは最高だね!」
「このペン、突き刺しますよ」
「わっ、ごめんごめん!」
もちろん冗談だけど、葵先輩は潔く手を離してくれる。
あいさつ代わりに胸とかお尻を触ってくるとはいえ、決してしつこくはない。
「それじゃ、続き描いてみよっか」
「いいんですか? 私は助かりますけど、先輩の作業が進みませんよ」
「大丈夫! あーしだって描きたくて描いてるだけで、べつにノルマとかないしね~。悠理に教えるのが楽しいから、いまはこのやり取りが最優先!」
「わ、分かりました」
こんなことを言ってもらえるなんて、後輩冥利に尽きる。
「そうだ! 感覚を掴むために、っと――」
なにかを思い付いたらしい葵先輩は、ペンを持つ私の手に自分の手を重ねてきた。
「あーしが実際に軽く描いてみるから、どういうふうに手を動かしてるのか意識してみてね!」
「了解です。でも、葵先輩って左利きですよね?」
「右でも同じように描けるから、安心して任せてよ!」
いや、もう、すごいとしか言えない。
***
手を動かしながら要所では説明もしてくれて、あっという間に時間が過ぎた。
目の前には、とても自分の手で描かれたとは思えない美少女のイラストがある。もちろん、葵先輩がいなければ子どもの落書きにしかならなかっただろう。
すぐに同じレベルで描けと言われても無理だけど、なんとなくコツというか、感覚の片鱗ぐらいは掴めたような気がする。
見聞きするのも勉強になるけど、実際に手を取って教えてもらうとより分かりやすい。
「うんうん、悠理は素質あるよ! スキルアップ目指して、コツコツ頑張っていこう!」
「はいっ。葵先輩、今日はありがとうございました!」
先輩につられ、私まで声が大きくなる。
というより、先輩への敬意で自然と声が弾んだ。
ちなみに……この後リクエストで描いてもらった百合イラストは、当然のごとく二人とも裸だった。
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