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3話 いつもの光景
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創作部に入って、早くも一週間が経過した。
先輩たちの活動を見せてもらったり、いろいろと話を聞かせてもらったり。
幸いなことに自分でも分かるほど溺愛してもらえて、後輩としてこれほど嬉しいことはない。
姫歌先輩の書く小説は、百合好きの一人として思わず熟読してしまう。
葵先輩のイラストは素人のレベルを凌駕していて、その実力は神絵師と呼ぶに値する。
アリス先輩は普段の態度に反して、録音した声劇や歌は私の心を大きく震わせた。
真里亜先輩が作るお菓子はまさしく絶品で、現役のパティシエと言われても驚かない。
とまぁ、これは表向きの感想だ。
嘆かわしいことに、彼女たちには部室の外で見せない裏の顔がある。
たとえばいま、私は姫歌先輩の定位置に座り、パソコンを借りて作品を読ませてもらっている最中なんだけど……。
「うふふ、悠理の使用済みティッシュ、まだほんのり湿ってる❤ 悠理の鼻水、舐めちゃおうかしら❤」
「そんな汚い物をわざわざゴミ箱から拾わないでくださいよ。あと、絶対に舐めないでくださいね」
狂人じみた言動をいなしつつ、続きを読む。
年齢制限はないけど、かろうじてガイドラインに引っかからないよう配慮された過激な百合。キャラがしっかり立っていて、文章は読みやすく、王道ながらも斬新なストーリーは読んでいて楽しい。
「できた! さっきチラッと見えたシーンを描いてみたよ~!」
満足気な声を上げつつ、葵先輩がタブレットを差し出してきた。
頬を染めて向き合う主人公とヒロイン。背景には夕暮れの公園が描かれている。
感情の機微を如実に物語る二人の表情、写真のような精巧さとデジタル特有の表現が織り成す幻想的な夕焼け。
なぜか二人が全裸であることを除けば、このままラノベの挿絵になってもなんら違和感はない。
「尋常じゃなく上手いとは思いますけど……この二人、葵先輩の中では露出狂なんですか?」
「あははっ、昔から人は裸でしか描けないんだよね!」
「さすがは葵ね❤ 気に入ったから、後でデータを送ってもらえるかしらぁ❤」
「もち! いまから送っとく~! 悠理、ちょっとおっぱい揉ませてね!」
タブレットを葵先輩に返すと、宣言通り姫歌先輩に画像のデータを送信する。ついでに胸を揉まれた。
「あ、そうだ。アリス先輩、告白のシーンを演じてくれませんか?」
「ふぁっ!? わ、わわ、分かった。ちょ、ちょっと、見せて」
パソコンの向きを変えて対面のアリス先輩に画面を見せると、「も、もう、大丈夫。あ、ありがとう」と目を伏せながらつぶやいた後、テーブルの下に潜り込んだ。
そして当然のように私のスカートに顔を突っ込み、大きく息を吸う。
普通に恥ずかしいけど、コミュ障なアリス先輩が人前で演技するのに必要なことらしいので、今回は我慢する。
『先輩……私、ずっと前から、先輩のことが大好きだったんです! 付き合ってください!』
『気持ちは嬉しいわ。けれど、私は貴女が思うほどきれいな人間じゃない。前にも話したでしょう? 私は昔、実の妹と――』
『知ってます! でも、そんなの関係ありません!』
『本当に、いいの? すでに汚れてしまった私を、受け入れてくれるの?』
『当たり前ですよ、先輩。私は先輩のいいところも悪いところも、過去もいまも、すべてを好きになったんですから』
『うぅっ、ありがとう……私も、愛しているわ。
瞳を閉じれば脳内でシーンが再現されるような、圧倒的演技力。
子どもっぽい主人公とクールビューティーなヒロインを、とても同一人物とは思えない声で演じ分けている。
惜しむらくは、私のパンツに顔を近付けた状態で発声してるため、音が若干くぐもっていることだ。
「……ど、どう、かな? あ、アリス、ちゃ、ちゃんと、できてた?」
アリス先輩が私の股間から離れ、席に戻る。
「ちゃんとできてたどころか、最高でしたよ」
「うぇへへ、う、嬉しい。あ、ありがとう」
文章だけでなく絵や芝居でも楽しませてもらい、パソコンと席を姫歌先輩に返して自分の定位置に戻る。
「悠理、これ食べなさい!」
「は、はい、いただきます」
席に着くや否や真里亜先輩にマカロンを貰い、パクッと頬張った。
手作りが難しいとされるお菓子なのに、生地の表面はひび割れがなく滑らかで、サクサクとした軽やかな食感が心地よく、甘さもほどよい。
バニラの香りが口いっぱいに広がり、飲み込む前からもう一個欲しくなってしまう。
「おいしいです! でも、なんで急に?」
真里亜先輩はいつもお菓子をくれるけど、今日はやけに唐突だった。
「姫歌の小説を読みながら葵の絵を見てアリスの芝居を聞いてたから、あたしも負けてられないと思ったのよ。文句があるなら遠慮なく罵倒しなさい!」
よく分からないけど、対抗意識を燃やしているようだ。
「文句なんてないですよ。おいしいマカロン、ありがとうございます」
「まだいっぱいあるから、どんどん食べなさいよね」
「あーしも食べる!」
「あ、アリスも、ひ、一つ、欲しい」
「わたしもお菓子が作れれば、とても人には言えない隠し味を入れて悠理に渡せるのに❤」
大量のマカロンが積まれた皿に葵先輩とアリス先輩が手を伸ばし、姫歌先輩はなにやら怪しげなことをつぶやいていた。
人に言えない物を混入しようとしないでいただきたい。
姫歌先輩の狂気を孕んだ発言、葵先輩の露骨なセクハラ、アリス先輩の変態じみた行動、真里亜先輩のドМな要求。これらに関して、部外者はなにも知らない。
この四人がこれほどまでの変態性を備えているなんて、誰も想像すらしないだろう。
ただ、なんだかんだで受け入れているあたり、私も同類なのかもしれない。
先輩たちの活動を見せてもらったり、いろいろと話を聞かせてもらったり。
幸いなことに自分でも分かるほど溺愛してもらえて、後輩としてこれほど嬉しいことはない。
姫歌先輩の書く小説は、百合好きの一人として思わず熟読してしまう。
葵先輩のイラストは素人のレベルを凌駕していて、その実力は神絵師と呼ぶに値する。
アリス先輩は普段の態度に反して、録音した声劇や歌は私の心を大きく震わせた。
真里亜先輩が作るお菓子はまさしく絶品で、現役のパティシエと言われても驚かない。
とまぁ、これは表向きの感想だ。
嘆かわしいことに、彼女たちには部室の外で見せない裏の顔がある。
たとえばいま、私は姫歌先輩の定位置に座り、パソコンを借りて作品を読ませてもらっている最中なんだけど……。
「うふふ、悠理の使用済みティッシュ、まだほんのり湿ってる❤ 悠理の鼻水、舐めちゃおうかしら❤」
「そんな汚い物をわざわざゴミ箱から拾わないでくださいよ。あと、絶対に舐めないでくださいね」
狂人じみた言動をいなしつつ、続きを読む。
年齢制限はないけど、かろうじてガイドラインに引っかからないよう配慮された過激な百合。キャラがしっかり立っていて、文章は読みやすく、王道ながらも斬新なストーリーは読んでいて楽しい。
「できた! さっきチラッと見えたシーンを描いてみたよ~!」
満足気な声を上げつつ、葵先輩がタブレットを差し出してきた。
頬を染めて向き合う主人公とヒロイン。背景には夕暮れの公園が描かれている。
感情の機微を如実に物語る二人の表情、写真のような精巧さとデジタル特有の表現が織り成す幻想的な夕焼け。
なぜか二人が全裸であることを除けば、このままラノベの挿絵になってもなんら違和感はない。
「尋常じゃなく上手いとは思いますけど……この二人、葵先輩の中では露出狂なんですか?」
「あははっ、昔から人は裸でしか描けないんだよね!」
「さすがは葵ね❤ 気に入ったから、後でデータを送ってもらえるかしらぁ❤」
「もち! いまから送っとく~! 悠理、ちょっとおっぱい揉ませてね!」
タブレットを葵先輩に返すと、宣言通り姫歌先輩に画像のデータを送信する。ついでに胸を揉まれた。
「あ、そうだ。アリス先輩、告白のシーンを演じてくれませんか?」
「ふぁっ!? わ、わわ、分かった。ちょ、ちょっと、見せて」
パソコンの向きを変えて対面のアリス先輩に画面を見せると、「も、もう、大丈夫。あ、ありがとう」と目を伏せながらつぶやいた後、テーブルの下に潜り込んだ。
そして当然のように私のスカートに顔を突っ込み、大きく息を吸う。
普通に恥ずかしいけど、コミュ障なアリス先輩が人前で演技するのに必要なことらしいので、今回は我慢する。
『先輩……私、ずっと前から、先輩のことが大好きだったんです! 付き合ってください!』
『気持ちは嬉しいわ。けれど、私は貴女が思うほどきれいな人間じゃない。前にも話したでしょう? 私は昔、実の妹と――』
『知ってます! でも、そんなの関係ありません!』
『本当に、いいの? すでに汚れてしまった私を、受け入れてくれるの?』
『当たり前ですよ、先輩。私は先輩のいいところも悪いところも、過去もいまも、すべてを好きになったんですから』
『うぅっ、ありがとう……私も、愛しているわ。
瞳を閉じれば脳内でシーンが再現されるような、圧倒的演技力。
子どもっぽい主人公とクールビューティーなヒロインを、とても同一人物とは思えない声で演じ分けている。
惜しむらくは、私のパンツに顔を近付けた状態で発声してるため、音が若干くぐもっていることだ。
「……ど、どう、かな? あ、アリス、ちゃ、ちゃんと、できてた?」
アリス先輩が私の股間から離れ、席に戻る。
「ちゃんとできてたどころか、最高でしたよ」
「うぇへへ、う、嬉しい。あ、ありがとう」
文章だけでなく絵や芝居でも楽しませてもらい、パソコンと席を姫歌先輩に返して自分の定位置に戻る。
「悠理、これ食べなさい!」
「は、はい、いただきます」
席に着くや否や真里亜先輩にマカロンを貰い、パクッと頬張った。
手作りが難しいとされるお菓子なのに、生地の表面はひび割れがなく滑らかで、サクサクとした軽やかな食感が心地よく、甘さもほどよい。
バニラの香りが口いっぱいに広がり、飲み込む前からもう一個欲しくなってしまう。
「おいしいです! でも、なんで急に?」
真里亜先輩はいつもお菓子をくれるけど、今日はやけに唐突だった。
「姫歌の小説を読みながら葵の絵を見てアリスの芝居を聞いてたから、あたしも負けてられないと思ったのよ。文句があるなら遠慮なく罵倒しなさい!」
よく分からないけど、対抗意識を燃やしているようだ。
「文句なんてないですよ。おいしいマカロン、ありがとうございます」
「まだいっぱいあるから、どんどん食べなさいよね」
「あーしも食べる!」
「あ、アリスも、ひ、一つ、欲しい」
「わたしもお菓子が作れれば、とても人には言えない隠し味を入れて悠理に渡せるのに❤」
大量のマカロンが積まれた皿に葵先輩とアリス先輩が手を伸ばし、姫歌先輩はなにやら怪しげなことをつぶやいていた。
人に言えない物を混入しようとしないでいただきたい。
姫歌先輩の狂気を孕んだ発言、葵先輩の露骨なセクハラ、アリス先輩の変態じみた行動、真里亜先輩のドМな要求。これらに関して、部外者はなにも知らない。
この四人がこれほどまでの変態性を備えているなんて、誰も想像すらしないだろう。
ただ、なんだかんだで受け入れているあたり、私も同類なのかもしれない。
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