甘美な百合には裏がある

ありきた

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1話 入学初日の創作部①

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 高校入学初日は、あっという間に放課後を迎えた。
 中学生の頃に仲よくなった友達が同じクラスだったこともあって、一抹の安心感を覚えている。
 ホームルームで配られた部活案内の小冊子を見て気になった部活を見学するため、私は部室棟に足を運んだ。

「ここ、だよね?」

 部室棟一階の最奥。プレートには『創作部』と書かれている。
 部員は二年生の先輩が四人。活動内容は、個々人が自分の望む創作を行うとのこと。
 これといった趣味を持たない私にとって、一つのジャンルに縛られないのはありがたい。

「し、失礼します」

 ドアをノックしてから、恐る恐る扉を開ける。
 中は想像していたより広い。さすがに教室ほどではないけど、本棚やテーブルなどを置いてなお余裕を感じるほどの面積だ。
 中央には二つの長テーブルが隙間なく並べられ、一つの大きなテーブルとして機能している。
 背もたれ付きのパイプイスに着席する先輩方の視線が、突然現れた私へと集まる。

「け、見学させてもらっても、いいですか?」

 緊張感もさることながら、四人の圧倒的な存在感に気圧されてしまう。
 童顔なのに大人びた雰囲気の先輩、ギャルっぽい先輩、西洋人形みたいな先輩、お姫様のような先輩。
 私も年頃の女子としてかわいくなりたいという気持ちはあるけど、どう足掻いたところでこの人たちの足元にも及ばないだろうと本能的に確信させられる。

「ええ、もちろん。わたしは二年の春名はるな姫歌ひめか。あなた、お名前は?」

 春名先輩が立ち上がり、入り口で立ち尽くす私のところに来てくれた。
 近寄ると甘い香りがふわっと漂ってきて、思わずうっとりする。
 細身の体と対照的な爆乳に目が行ってしまうけど、失礼だと気付いて視線を先輩の顔に向ける。
 うわ、睫毛長い。肌もきれいで、唇も見るからにぷるぷる。
 目を合わせているだけで、心を奪われてしまいそうだ。
 それに、かわいらしい声なのに、そこはかとない色気も感じる。

「一年一組、露原つゆはら悠理ゆうりですっ」

 中学時代は帰宅部だったから、先輩との接し方はいまいち分からない。
 とりあえずクラスと名前だけ伝えたけど、これでよかったのかな?
 そもそも、自分から先に名乗るべきだった。
 礼儀をわきまえない後輩だと、いきなり嫌われたらどうしよう。

「はぁ、かわいい……これが一目惚れというものなのかしら❤」

「ひ、一目惚れ!?」

 私に? こんなかわいくてきれいで胸も大きい先輩が? いや、胸は関係ないけども。
 すごく嬉しいけど……なんだろう、目が怪しい。

「うふふ❤ あなたはわたしが幸せにするわ❤ あ、そうそう、連絡先を教えてね❤ なにかあればすぐに駆け付けるから❤」

「は、はい、ありがとうございます」

 なぜだろう。絶世の美少女に迫られているのに、背筋がゾクッとした。
 頬を冷や汗が伝い、表情が引きつる。

「あらあら、汗をかいているわね❤ ぺろっ……ん、おいしい❤」

「ひゃっ! あ、汗なんて舐めたら、汚いですよ」

 いきなり頬に舌を這わされ、動揺で体も声も震えた。
 突飛な行動に驚愕を隠せないけど、不快感はない。
 こんな美少女に頬を舐められるなんて、私の人生において最も自慢できる経験だ。
 でも、やっぱり、ちょっと怖い。

「汚くないわよぉ❤ 悠理の体はもちろん、分泌物や排泄物に至るまで、汚いところなんて一つもないわ❤」

 いつの間にか、息がかかるほどの距離に詰められていた。
 嬉しいことを言われているはずなのに、本能が危険だと訴えている。
 わずかに後ずさると、背中が扉にぶつかった。

「悠理は、誰かと付き合ったことある?」

「な、ないです」

「よかったぁ、わたしも悠理が初めてなの❤ これは運命ね、そうに違いないわ❤」

「は、はひ」

 付き合うのが初めて? え、私たち付き合ってるの? 運命って――というか顔が近い!
 先輩が両手を扉に伸ばし、ドンッという音が鳴る。

「脅える姿もかわいい❤ 大丈夫よ、痛くしないから❤」

「は、春名先輩ストップ! ちょっと待ってください!」

「苗字じゃなくて、名前で呼んで❤」

「姫歌先輩、と、とりあえず落ち着いてください。会ったばかりですし、付き合うのはまだ早いというか、いくらなんでも急すぎますよ」

「それもそうねぇ❤ これからは部室で毎日会えるんだもの❤ ゆっくり、じっくり、愛を深めていきましょう❤」

「ま、まだ入部するって決めたわけじゃないんですけど……。とっ、とりあえず、見学させてもらいますね」

 姫歌先輩の勢いがすごくて、動揺を隠せない。
 もしかして、他の三人にも意外な一面があったりするのだろうか。
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