私がガチなのは内緒である

ありきた

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番外編

番外編 一年前の夏休み

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 二学期を目前に控えた日の夜中に、ふと一年前の記憶がよみがえる。
 中学三年生の夏休み、受験勉強の息抜きに私と萌恵ちゃんは家族ぐるみで海へ行き、近場のホテルに宿泊した。
 冷静に振り返ってみると、当時から私の思考回路はなかなかに変態的だったように思う。

***

 憧れの女子校へ入学するため、私と萌恵ちゃんは夏休みに入ってからも勉強漬けの日々を送っていた。
 今日はお母さんたちの計らいで、ちょっとした息抜きのために海水浴へ来ている。
 すし詰め状態というほどではないけど、さすがに八月頭の海水浴場は人が多い。

「真菜~、あっち行ってみようよ!」

 あぁ、美しい。
 太陽を浴びてキラキラと輝く髪は後頭部で束ねられ、ボンキュッボンという表現を体現した身にまとうのは私がオススメした純白のビキニ。
 薄地のパーカーを羽織って、頭にはおそろいで買った麦わら帽子。

「うん、行こうっ」

 萌恵ちゃんに手を引かれ、砂浜を走る。
 最高の親友と海で遊ぶことによる純粋な高揚感とは別に、真夏の陽射しよりも遥かに熱い感情が体の奥底で煮え滾っている。
 いますぐ抱きしめたい。パーカーを剥ぎ取って肌と肌を密着させて、人目なんか気にせずに唇を重ねたい。
 一度口に出せば取り返しがつかなくなるような願望を胸のうちに留め、日が暮れるまで海水浴を楽しんだ。
 サッとシャワーを浴びて着替えを済ませたら、予約していたホテルに車で移動する。
 朝早くから運転を頑張ってくれたお父さんたちには、感謝しかない。
 部屋割りは私と萌恵ちゃん、私の両親、萌恵ちゃんの両親という形になっている。

「んふふっ、ベッドふかふかだ~っ。ほらほら、真菜もこっち来て!」

 荷物をソファに置いてすぐさまベッドに体を投げた萌恵ちゃんが、満面の笑みで私を呼ぶ。
 私は歓喜のあまり心の中で派手に暴れ回り、表面上ではふふっと微笑みながら萌恵ちゃんの元へ向かう。
 スリッパを脱いでベッドに上がり、萌恵ちゃんの隣に寝転ぶ。
 なるほど、確かに家のベッドとは明らかに違う。

「このホテルの大浴場って、いろんなお風呂があるらしいよっ。楽しみ~っ」

「せっかく来たんだから、全部入らないとね」

「うんっ!」

 萌恵ちゃんは元気のいい返事と共に、私をギュッと抱きしめた。
 深い意味のない日常的なスキンシップとはいえ、私の理性は激しく揺さぶられる。
 中学生にして大人顔負けに育ったおっぱいがむぎゅっと押し付けられ、かすかに残った潮の香りが気にならないほどのいい匂いがふわっと漂う。
 大好きな人に抱きしめられる幸せは、筆舌に尽くしがたいものだ。
 私がいまどれほどドキドキしているか、萌恵ちゃんは知らない。
 高校生になったら、この気持ちを伝えることができるのだろうか。
 もし奇跡が起きて恋人になれたら、妄想の中だけじゃなく、現実でもキスできるのかな……。
 あわよくば、エッチなことも……!
 ダメだ、想像しただけで変な気持ちになってしまう。

「萌恵ちゃん、そろそろ準備しないと」

「あっ、そうだね!」

 準備と言っても特にやることはないけど、お母さんたちと集合する時間が近い。
 最上階のレストランでビュッフェ形式のディナーが待っている。

「……あ」

 ベッドから離れる際、とあることに気付いて動きが一瞬止まった。
 エッチな妄想を繰り広げていたせいか、身じろぎしてハッキリと分かる程度には、下着が湿っている。
 思春期真っ盛りとはいえ、我ながら自分の性欲に呆れてしまう。
 今夜は萌恵ちゃんが寝た後に、トイレでこっそり自分を慰めないと。

***

 ……うん、やっぱり私は中学生にして性欲の権化みたいな思考回路だった。
 心から旅行を楽しんでいたのは確かだけど、基本的にエッチなことばかり考えていたのもまた事実。
 人間として仕方のない欲求とはいえ、思わず失笑が漏れる。

「ん……真菜、どうしたの?」

「ごめん、起こしちゃった? 去年の海水浴を思い出してたんだけど、自分に呆れて笑っちゃった」

「すごく楽しかったよね~。ベッドがふかふかで、ご飯がおいしくて、大浴場でバラのお風呂を見て大はしゃぎして怒られたりして」

「いまだから言えるんだけど、実はあの時、ずっとエッチなことばかり考えてたんだよね。萌恵ちゃんとキスしたいとか、萌恵ちゃんとエッチしたいとか」

「え、そうなのっ?」

 かなり驚いているらしく、ふにゃふにゃの寝起き声が一気にシャキッとなった。

「軽蔑、するよね」

「するわけないじゃん。むしろ、まったく気付かなかったあたしの鈍感さに呆れちゃうよ~。ごめんね、真菜」

「も、萌恵ちゃんが謝ることじゃないよっ」

 萌恵ちゃんの優しすぎる反応に慌てつつ、以前なら絶対に言えなかったようなこともあっさり打ち明けられる関係になったのだと実感する。

「年中発情期な私だけど、これからもよろしくね」

 そう言いもって不意打ちでチュッとキスをすると、萌恵ちゃんは「こちらこそ」と微笑みながらキスを返してくれた。
 すっかり目が覚めてしまった私たちは、唇同士はもちろん、頬や額、首筋や鎖骨にもキスをし合う。
 こんな風にイチャイチャできる日が来るなんて、一年前は妄想の中だけの話だと思っていた。

「萌恵ちゃん、大好きっ」

「んふふっ、あたしも真菜のこと大好き~っ」

 笑顔を浮かべ、ぎゅう~っと熱い抱擁を交わす。
 以前はどれだけ強く想っても、無理やり心の奥に仕舞っていた。
 こうして素直に愛の言葉を伝えられる幸せは、キスやエッチに勝るとも劣らない。
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