私がガチなのは内緒である

ありきた

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4章 高校最初の夏休み

32話 実家で夜を共にする

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 九月が近付くにつれて、気候も少しずつ穏やかになってきた。
 昼間は外を歩けば汗が噴き出すほどの猛暑だけど、夜はもうクーラーに頼らなくても過ごせる。
 今日はお母さんに車を出してもらい、秋服を取りるため実家に向かう。
 昼過ぎにアパートを出て、萌恵ちゃんと一緒に車へ乗り込む。
 一部を除いてバッグに詰め込んだ夏服は、アパートに帰る頃には秋服へと入れ替わっていることだろう。
 家の前で別れた後は、各々の家で目的を果たす。
家が真隣なだけでなく部屋も向かい合っているので、スマホを使わなくても窓を開ければ普通に話せる。
用事を済ませたら私の部屋に集合し、ベッドに腰を落ち着ける。
 萌恵ちゃんは以前と同じように、私が愛用していた大きなアザラシの抱き枕を抱きしめている。

「萌恵ちゃん、昔からそれ好きだよね」

「うんっ、あたしのお気に入り! かわいいし、もちもちしてて抱き心地いいし、ほんとに癒されるよ~」

 嬉々として褒めちぎりながら、むぎゅっと抱きしめて頬ずりをする。
 幼い頃に買ってもらった当初から家に来るたびにこんな様子なんだけど、ハッキリ言って羨ましい。萌恵ちゃんに抱きしめられて頬ずりしてもらえるなんて、私物ながら嫉妬せずにはいられない。

「萌恵ちゃん、ちょっと横になって」

「ん? 分かった」

 私が促すと、萌恵ちゃんは一瞬疑問符を浮かべながらも素直に従ってくれた。
 抱き枕を抱いたまま、ベッドに身を投げ出す。
 すかさず私も寝転んで、背後から萌恵ちゃんを抱きしめた。

「あっ、もしかして真菜も抱っこしたかった? ごめんね、真菜の抱き枕なのにあたしが独占しちゃって」

「ううん、違う。萌恵ちゃんに抱っこしてもらえる抱き枕が羨ましかったの」

 口に出してみるとなんとも恥ずかしい理由だけど、れっきとした事実なので仕方ない。
 一拍置いて、萌恵ちゃんが「そっか~」と漏らしつつ抱き枕を手放す。

「えいっ」

 萌恵ちゃんは器用に体勢を変え、こちらを向くと同時に私を抱きしめる。

「も、萌恵ちゃん」

「んふふっ、抱き枕に嫉妬するなんてかわいいな~。真菜が離してって言うまで、ずっと離さないよっ」

「……うんっ」

 それからお母さんに夕飯ができたと声をかけられるまで、私たちはベッドの上で抱擁を交わした。
 仕事から帰宅した萌恵ちゃんのお母さんも招き、食卓を囲んで思い出話や近況報告に花を咲かせる。
 明日の朝にアパートへ戻る予定なので、今夜はこの家で萌恵ちゃんと過ごす。
 こういうときはそれぞれ久々に実家の自室で寝るのが普通なのかもしれないけど、私たちにそんな選択肢は存在しない。
 アパートでの生活と同じように二人でお風呂に入り、電気を消してベッドで身を寄せ合う。
 昨年までは、恋人として萌恵ちゃんとこの部屋で一夜を共にするなんて、叶わぬ夢だと思っていた。

「おやすみ」

「おやすみ~」

 いつものようにおやすみのキスをして、そっと手をつないで眠りに就く。
 ――つもり、だったんだけど。
 ついイタズラ心が芽生えて、萌恵ちゃんの胸を揉んでしまった。
 すると、萌恵ちゃんも対抗して私の胸を触る。
 お腹をツンツンと指で突いたり、太ももを撫でたり、スキンシップを重ねていく。
 日付をまたぐ時分には愛の営みと呼べるような行為に発展し、それは明け方まで続いた。

***

 ところで、お母さんが朝ごはんにお赤飯を炊いてくれたんだけど……もしかしなくても、声や物音が漏れてたってこと、だよね?
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