私がガチなのは内緒である

ありきた

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4章 高校最初の夏休み

26話 歯ブラシを新調したら

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 前に買い替えてからひと月ほど経ったので、食材のついでに歯ブラシを購入した。
 使い古した歯ブラシは、水回りの掃除などで役に立つ。

「うーん……」

 洗面所で一人、眉間にしわを寄せて小さく唸る。
 視線の先にあるのは、鏡に映る自分の姿ではなく、新調したばかりの歯ブラシでもない。
 捨てる前に掃除道具として活用する予定の歯ブラシ。
 つまり、毎日萌恵ちゃんが使用していた歯ブラシだ。一緒に私のもあるけど、当然そっちはどうでもいい。

「むむむ……うぅん……」

 視線は逸らさないまま、目をスッと細めて凝視する。
 唇が触れ合った回数は私の方が上とはいえ、この歯ブラシは萌恵ちゃんの口内にこれでもかというほど触れている。
 率直に言えば、いますぐ咥えて味わい尽くしたい。

「でもなぁ…………」

 いくらなんでも、歯ブラシを舐め回すのは変態すぎないかな?
 洗濯前のパンツを拝借しておいてなにをいまさら、と言われてしまえばそれまでだけど。
 萌恵ちゃんだって、自分が使った歯ブラシをじっくり味わわれるのは嫌なはず。
 あ、でも、パンツを堪能するのは許してくれたよね……。
 私は無意識のうちに萌恵ちゃんの歯ブラシを手に取り、顔に近付けた。
 いきなり口の中に入れたりはしない。まずは鼻に寄せ、歯ブラシに染み込んだ微かな思いっきり吸い込む。

「ぁ、はぁっ……い、いい匂い……っ」

 歯磨き粉の香りとは別の、萌恵ちゃんの口が放つ甘い匂い。
 背徳感による相乗効果も加わり、ほんの一呼吸で信じられないほどに発情してしまう。強力な媚薬を使うと、こんな感じになるのだろうか。
 この上なく変態的かつ気持ち悪い行為だということは、きちんと自覚している。
 分かってる。分かってはいるけど……!
手にした歯ブラシを元の位置に戻せない。戻すべきだと良心が訴えても、体が言うことを聞かない。
 いつの間にか口がわずかに開き、口の端からは物欲しさの表れとばかりに唾液がだらしなくこぼれていた。
 私は己の欲望に敗北し、歯ブラシのヘッドを口の中へ――

***

 リビングに戻ると、萌恵ちゃんがテーブルの横で雑誌を読んでいた。
 テーブルの上には、冷たい麦茶が注がれたグラスが二つ置かれている。なにも言わなくても私の分まで用意してくれたんだと感激し、さりげない優しさに胸がキュンとなる。

「萌恵ちゃん、肩凝ってない? よかったら揉むよ?」

「ん~、いまは大丈夫かな。ありがと。でも、急にどうしたの?」

「せめてもの罪滅ぼしというか、なんというか……とにかく、私にしてほしいことはない?」

「それじゃあ、これ一緒に読もうよ。水着の特集ページ見てたんだ~」

 萌恵ちゃんはニコッと笑い、雑誌を広げる。
 純粋にして無垢な笑顔はあまりに美しく、つい見惚れてしまった。
 慌てて返事をしつつ、隣に座る。
 この水着がかわいいとか、これが似合いそうなんて話で盛り上がる。
 途中で罪悪感に耐えられなくなって歯ブラシの件を懺悔したところ、萌恵ちゃんは苦笑しながら許してくれた。
 しかも、それだけでは終わらない。

「歯ブラシなんか舐めなくてもいいぐらい、たくさんキスしようよ!」

 と言われたので、グラス内の氷が解けるのも気にせずひたすらにキスをした。
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