私がガチなのは内緒である

ありきた

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4章 高校最初の夏休み

8話 運動するなら曇りの日に

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 動きやすい服装に着替えて、髪をポニーテールに結い、タオルとスポーツドリンクをバッグに入れ、バドミントンのセットとフリスビーを持って家を出る。
 朝から曇り空が続いている日の昼下がり、私と萌恵ちゃんは運動のため近所の公園へ向かった。
 カラッと晴れた日に体を動かすのも気持ちいいけど、日射病の危険は無視できない。
 やや薄暗く感じる程度の曇り空、湿度はそれほど高くなく、肌を撫でるそよ風が心地いい。今日はまさに絶好の運動日和と言える。

「萌恵ちゃんはどんな髪型も似合うよね。思わず見惚れちゃうぐらいかわいい」

「んふふっ、ありがと~! 真菜の方こそ、すっごくかわいいよ!」

 腕を組んでピッタリと密着しながら、同じ歩調で住宅街を進む。
 気温が低いとはいえ夏場であることには変わりないけど、私たちはたとえ猛暑であっても離れない。
 それほど遠い場所ではないので、額にうっすらと汗が滲み始めた頃に目的地へと辿り着いた。ここまでの道のりは、ちょうどいい準備運動だ。

「よーし、頑張るぞ」

 バドミントンのラケットを取り出し、意気込みを口にする。
 萌恵ちゃん相手だと善戦すら難しいけど、全力は尽くしたい。

「負けないよ~。真菜にかっこいいところ見てもらいたいからね!」

 ラケットを握って軽く素振りをしながら、爽やかに微笑む萌恵ちゃん。
 その姿がすでにかっこよく、まだ始まってもいないのに『来てよかった』と強く感じてしまった。

「それじゃ、始めようか」

「うん!」

 適度に距離を取り、ラケットを構える。
 サーブ権をもらった私は左手でシャトルを軽く宙に放り、タイミングを見計らって右手を勢いよく振り抜く。
 ヒュンッとラケットが空を切る音が聞こえた直後、シャトルが地面に落ちた。

「ふっ、さすが萌恵ちゃん。やるね」

 シャトルを拾いつつ、賞賛の言葉を贈る。

「へ? いや、真菜が空振りしただけ――」

「行くよっ」

 萌恵ちゃんの言葉を遮りつつ、再びラケットを振るう。
 ポトッ。まるで先ほどのリプレイ映像を流しているかのように、シャトルはラケットにかすりもせず足元に転がる。

「……えっと、真菜? もしよかったら、あたしがサーブ打とうか?」

「うん、お願い」

 萌恵ちゃんは平然とサーブを成功させ、しばらく打ち合いが続いた。
 ラリーが途切れないのは、萌恵ちゃんが私の打ちやすいところに返してくれているから。
 始める前は勝負を意識した会話を交わしたものの、いざ始めてみると勝敗なんて気にならなくなっていた。
 しばらくすると私の体力が底を突き、ベンチに座って休憩する。
 持参したスポーツドリンクでのどを潤しつつ、荒くなった息を整える。もし快晴だったら確実に倒れていた。
 隣に座る萌恵ちゃんは私と同じぐらい汗だくだけど、まだまだ余裕といった様子だ。

「レモンのはちみつ漬け作ってきたんだ~。真菜、食べて食べて」

 萌恵ちゃんはウェットティッシュで手をきれいにしてから、バッグからタッパーを取り出す。
 蓋を開けて中から輪切りのレモンを一つつまみ、私の口元に運んでくれた。

「はい、あ~んっ」

「あーん」

 パクッとレモンを頬張り、どさくさに紛れて萌恵ちゃんの指に付着したはちみつも舐め取る。
 うん、甘酸っぱくておいしい。一瞬とはいえ萌恵ちゃんの指も咥えさせてもらったし、あっという間に気力がみなぎってきた。
 私もきちんと手を拭いてから、萌恵ちゃんの口にレモンを運ぶ。
 しばらく休憩したら、今度はフリスビーを楽しむ。
 萌恵ちゃんは私の暴投を難なくキャッチし、正確無比なコントロールで私の胸元に放り返してくれる。
 満足するまで遊んだので、軽く汗を拭いて公園を後にした。
 家に着き、物置にバドミントンのセットとフリスビーを仕舞う。
 改めて水分補給をしてから、全身にまとわりつく汗を流すべくシャワーを浴びる。
 運動中に密着できなかった分を補填するかのように、泡まみれの体で抱き合ったりキスをしたり、たくさんイチャイチャした。
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