私がガチなのは内緒である

ありきた

文字の大きさ
上 下
80 / 121
3章 一線を越えても止まらない

27話 梅雨明けと手巻き寿司

しおりを挟む
 梅雨明けが発表されたものの、私たちが住む地域では威勢よく雨が降っている。
 夕飯は手巻き寿司ということで、萌恵ちゃんは学校から帰ってすぐに準備を始めた。
 まずはお買い得価格で陳列されていたサク売りのマグロを、とても同い年の女の子とは思えない流麗な包丁さばきで切り分けていく。
 少し離れて見学する私は、思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
 それと同時に、ただ傍観していることに罪悪感を覚える。
 いくら炊事が萌恵ちゃんの担当とはいえ、今回はお鍋のとき以上に手間が多い。
 酢飯を用意したり、イカと納豆を混ぜたり、シーチキンマヨネーズを作ったり、他にもいろいろ。

「萌恵ちゃん、私もなにか手伝うよ」

「えぇっ!? べ、べつにいいよ~」

 異様なまでに驚かれてしまった。
 普通に話しかけたつもりだったんだけど、よっぽど集中していたのかな?

「お願い! 今日はさすがに黙って眺めてるだけなんて申し訳ないよ。足手まといかもしれないけど、少しでいいから手伝わせて」

「真菜は足手まといなんかじゃないよ! でも、う~ん……じゃあ、かにかまをほぐしてお皿に盛り付けてくれる?」

「うん、任せて。酢飯も作ろうか? お酢でご飯を炊けばいいんだよね?」

「……今度手取り足取り教えるから、今日はかにかまに全力を注いでほしいな~」

 て、手取り足取り!? どど、どうしよう。酢飯の作り方を教わるだけなのに、とんでもなくえっちに聞こえてしまう。
 とにかく、いまは萌恵ちゃんに託された仕事を完璧にこなすとしよう。
 邪魔になってはいけないので、かにかまとお皿を持ってリビングに移動する。
 改めて念入りに手を洗ってから、丁寧にかにかまをほぐしていく。
 チラッとキッチンに目をやると、萌恵ちゃんが冷蔵庫から納豆を取り出すところだった。
 イカ納豆って居酒屋で人気のメニューらしいけど、子どもが食べてもすごくおいしい物だよね。体にもいいし、クセのある臭いを除けばいいこと尽くめだ。
 さてと。ほぐす作業が終わったので、盛り付けに移ろう。
 せっかくだから気合いを入れて、かにかまの色合いを活かして花をモチーフにしてみようかな。

「なにそれかわいい! 真菜すごいよ!」

 お皿や小鉢をリビングに運ぶ際に、萌恵ちゃんが瞳を輝かせて絶賛する。
 どうせ食べてしまうのだからそこまで凝る必要はないんだけど、頑張ってよかった。

「えへへ、ありがとう。萌恵ちゃんに褒められるなんて、人間国宝に選ばれるより嬉しい」

「それは喜びすぎだよ~」

 と、苦笑する萌恵ちゃん。当然ながら、私にとっては紛れもない本心である。
 私がかにかまと戯れている間に萌恵ちゃんは他の工程をすべて終わらせ、陽が沈む前に食事の準備が整う。
 気付けば雨もすっかり上がっていて、きれいな夕焼けが町を包んでいる。

「萌恵ちゃん、あーん」

「あ~んっ」

 せっかくの機会ということで、私たちはお互いに相手のために具材を巻く。たまにワサビを忍ばせたりもしつつ、食事を楽しんだ。
 食べきれるか心配な量だったけど、数十分後には米粒一つ残さず二人のお腹に収まっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

犬猿の仲だけど一緒にいるのが当たり前な二人の話

ありきた
青春
犬山歌恋と猿川彩愛は、家族よりも長く同じ時間を過ごしてきた幼なじみ。 顔を合わせれば二言目にはケンカを始め、時には取っ組み合いにまで発展する。 そんな二人だが、絆の強さは比類ない。 ケンカップルの日常を描いた百合コメディです! カクヨム、ノベルアップ+、小説家になろうにも掲載しています。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...