私がガチなのは内緒である

ありきた

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3章 一線を越えても止まらない

20話 疲れも吹き飛ぶ

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 精根尽き果てるとは、まさにこのこと。
 五限目の体育で萌恵ちゃんにいいところを見せようと張り切り過ぎた結果、次の授業内容が頭に入ってこないほど疲弊した。
 生まれたての小鹿みたいに両脚が震えている。筋肉痛になるのは想像に難くない。
 余計な汗をかきたくないと、ブレザーを脇に抱えて帰宅する。
 梅雨明けはまだだけど、最近は気温も高い。制汗グッズのお世話になる機会は、これからどんどん増えていくことだろう。

「うぅ、疲れた。萌恵ちゃんは平気?」

 極めて短い帰り道をゆっくりと進みながら、ふと漏れた弱音をごまかすように質問を投げる。

「うん、あたしはまだまだ動き回れるよ~。体力だけが取り柄だからね!」

「あはは、さすがだね。でも、萌恵ちゃんの取り柄を語り始めたら三日三晩じゃ足りないよ」

 謙遜だとは思うけど、『体力だけ』という発言に引っかかってしまった。
 萌恵ちゃんの魅力は整った容姿や抜群のスタイル、優しくて思いやりのある性格などの大まかな分類から、さらに無数の項目につながる。短く箇条書きでまとめたとしても、ページ数は六法全書を軽く凌駕する。

「んふふっ、ありがと~っ。あたしも真菜の素敵なところ、いくらでも言えるよ!」

 身に余る喜びに、うれし涙が滲む。往来で泣き出しては萌恵ちゃんにも迷惑がかかるので、慌てて制服の袖で拭う。
 いますぐにでもキスしたいけど、帰るまでは我慢しないと。
 家に着いて玄関で靴を脱いだ後、ピタリと立ち止まって萌恵ちゃんの正面に回り込む。

「萌恵ちゃん、キスしてもいい?」

 汗でべたつくブラウスを着替える時間も惜しい。
 廊下を塞ぐような位置取りで、キスをねだる。

「真菜に上目遣いでかわいくおねだりされたら、断るわけにはいかないよね~。なんて、最初から断るつもりなんてないけど――」

「んっ」

 上目遣いなのは、単に私の背が低いせいなんだけど……。
 間髪入れずに唇を奪われ、説明する必要性は霧散した。
 すがるように抱き着くと、萌恵ちゃんは優しく背中に手を回してくれる。
 あんなに疲れていたのが嘘みたいに、体の奥から力が沸いてくる。

「ちゅぷっ……んはぁっ、あむっ……」

 気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい……!
 言ってしまえば唇を重ねているだけなのに、幸福と快感が止めどなく溢れてくる。
 なにもかもが愛しくて、貪るようにキスを楽しむ。
 疲労とは違う理由から、息が荒くなっていく。
 体育の疲れなんて、もうとっくに吹き飛んでしまった。
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