私がガチなのは内緒である

ありきた

文字の大きさ
上 下
71 / 121
3章 一線を越えても止まらない

18話 残り香

しおりを挟む
 布団に寝転んだまま、天井を見る。いつもと変わらない、すっかり見慣れた景色だ。
 ついさっきまで隣で寝ていた萌恵ちゃんは、いま用を足している。
 わずかな間とはいえ、この場にいるのは私だけ。

「……萌恵ちゃん」

 口腔内で掻き消えてしまいそうなほどの小さな声で、ポツリとつぶやく。
 萌恵ちゃんが寝ていた場所に移動し、うつ伏せになって枕に顔を埋める。
 洗濯前の下着を拝借するのと比べればかわいらしい行為なのに、心臓が騒々しく脈を打つ。
限界まで息を吸い込む。私と同じシャンプーの香りと、この世で萌恵ちゃんだけが放つ特別な甘い匂いが鼻孔をくすぐった。
お腹の奥がキュンと熱を持つのを感じる。
素敵な芳香に胸が高鳴り、興奮が抑えられないのに……なぜか満たされない。
大好きな人のことを感じられて嬉しい反面、ここには存在しないのだと思うと切なくなる。
 夜中に自分を慰めるときの気持ちに似ていると、ふと思った。
 顔を離すと視界の端に小さな染みが映り、よだれを垂らす萌恵ちゃんの寝顔が脳裏によぎる。
 唾液なんて、普通は自分の物だとしても決してきれいな印象は持てないだろう。
 でも、私にとって萌恵ちゃんのそれは、どんなにおいしいジュースよりも魅力的だ。
 はしたない行為だと分かりながらも、わずかに湿り気の残る場所に唇を軽く当てる。
 萌恵ちゃんなら許してくれるはずだと、彼女の優しさに甘えて己の欲求を満たす。

「ごめんね、萌恵ちゃん」

 罪悪感から、自然と謝罪の言葉が漏れる。
 誰の耳にも届かない、ただの自己満足だ。
 無意識のうちに手が胸に向かい、パジャマの上から貧相な乳房に指を食い込ませる。
 大した快感が得られないのは、服越しだからという理由ではない。萌恵ちゃんに触れられていないからだ。
 衝動を堪え切れず自慰行為に耽るときだって、半ば強引に快楽を得ているに過ぎない。
 同じ行為でもこれが萌恵ちゃんの手であれば、簡単に絶頂を迎えてしまう。

「真菜~、お待たせ!」

「萌恵ちゃんっ」

 足音と共に声が聞こえた瞬間、私は跳ねるようにして起き上がり、リビングに戻った萌恵ちゃんに思いっきり抱き着く。

「んふふっ、どうしたの? あたしがいなくて、寂しくなっちゃったのかな~?」

「うん、すごく寂しかった。ちゅっ、ちゅっ」

 ぎゅう~っと抱きしめながら、喉や首筋にキスの雨を降らせる。
 柔らかくて、温かくて、いい匂い。
 顔も声もかわいくて、存在そのものが愛おしい。
 こうして抱擁を交わしているだけで、なにも食べなくても、寝なくても、ずっと生きていけそうな気がする。

「そ、そんなに長かった? 寂しい思いさせてごめんね、よしよし」

 萌恵ちゃんに優しく頭を撫でられ、ふにゃっと頬が緩んでしまう。
 ちなみに私が一人だった時間は、ほんの一分弱だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

犬猿の仲だけど一緒にいるのが当たり前な二人の話

ありきた
青春
犬山歌恋と猿川彩愛は、家族よりも長く同じ時間を過ごしてきた幼なじみ。 顔を合わせれば二言目にはケンカを始め、時には取っ組み合いにまで発展する。 そんな二人だが、絆の強さは比類ない。 ケンカップルの日常を描いた百合コメディです! カクヨム、ノベルアップ+、小説家になろうにも掲載しています。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...