私がガチなのは内緒である

ありきた

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3章 一線を越えても止まらない

14話 愛の営みからは目が離せない

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 言い出したのがどっちだったのか、よく覚えていない。
 湯船の中、ちょっと熱いぐらいのお湯とほんのり上気した萌恵ちゃんの肢体により身も心も癒されながら、ふとしたきっかけで話題に上がった。
 運動会で親がしてくれるように、一度映像に残してみよう、と。
 なにを撮るのかと言えば、いわゆる夜の営み。

「う~ん、この辺かな?」

「もうちょっと上の方がよさそう」

 布団を敷いて枕を置き、一歩分ほど離れたところにバッグやポーチを積み木のように重ねていく。スマホを設置するための土台作りだ。
 パジャマ姿で賑やかに、けれど近所への迷惑を考慮して小声に徹して盛り上がる。
 スマホが滑り落ちたり、高さが微妙に合わなかったり。二人で試行錯誤しながら、どうにか完成にこぎつけた。
 カメラを起動して映り具合をチェックしたら、ビデオモードに切り替えて録画を開始する。
 パジャマを脱いで下着姿になり、布団に寝転ぶ。

「んふふっ、ドキドキするね~」

「うん、ちょっと緊張してきた」

 二人きりの空間。撮影した動画を目にするのも、当然ながら私たちだけ。
 それでもやはり、いつもと同じようにとはいかない。
 映像として残るんだと思うと、緊張で鼓動が速まる。
 キスをして気持ちを高め、合間に相手の名を呼び合い、愛を囁く。
 最初こそ頭上のスマホに意識が向いていたけど、すぐさま萌恵ちゃんのことで頭がいっぱいになった。

***

 本日何度目か分からない絶頂を二人同時に迎えたとき、ふと撮影中であったことを思い出す。
 スマホに手を伸ばし、録画を停止して保存する。
 知らぬ間に脱ぎ散らかしていた下着を拾い集め、せっかくだから明日じっくり見ようなんて話しながら着衣を行う。
 電気を消して布団に潜り、おやすみのキスをして瞳を閉じた。
 クリスマスプレゼントを心待ちにする子どものように、ワクワクした気分を抱きながら眠りに就く。

***

 翌朝。萌恵ちゃんの口付けで目を覚まし、カーテン越しに朝日を浴びる。
 先に目覚めた方が相手にキスをして起こすというルーティンは、何回繰り返しても刺激や喜びが色褪せない。

「真菜~。昨日のやつ、いつ見よっか?」

「昼前ぐらいかな? 買い物から帰った後とか、ちょうどよさそう」

 布団を片付けて顔を洗い、運動用の服に着替えて靴を履く。
 土日恒例の早朝散歩。朝の爽やかな空気を取り込み、軽い運動で体を起こす。
 まだ梅雨は明けていないけど、今日は珍しくいい天気だ。
 近所をぐるっと歩き回り、うっすらと汗ばんだ体で家に入る。
 ササッとシャワーを浴びたら、萌恵ちゃんは朝食の準備、私は部屋を換気しつつアイロンがけを始めた。

***

 一つ一つやることをこなして時間が経つにつれ、心の中にある期待がどんどん膨らむ。
 我慢はもう終わりだ。
 ショッピングモールでの買い物を済ませて帰宅し、要冷の商品は冷蔵庫に収納した。
 折り畳みのテーブルを設置し、萌恵ちゃんと一緒にスマホの画面を覗き込む。
 録画ボタンを押した時点では二人ともパジャマを着ているけど、この後どうなるのかは既知の事実だ。
 一抹の不安と、それを遥かに凌ぐ高揚感を胸に、ムービーを再生する。

『ぁむっ……ちゅっ……ちゅるっ……』

 開幕で下着姿になった私たちが、画面の中で濃厚なキスを交わした。
 まだまだ序盤、始まったばかりに過ぎない。
 この先には、もっともっと過激な光景が控えているんだけど……。
 私も萌恵ちゃんも、顔を真っ赤にして絶句する。
 自分たちのキスを客観的に見る機会なんて、そうそう訪れるものではない。
 第三者の視点で眺めるとはいえ、映っているのは自分たち。新鮮な気分ではあるけど、さして驚くようなことはないだろうと、心のどこかで油断していた。
 考えが甘かった。もちろん萌恵ちゃんとのキスほどは甘くないけど、そういう話ではなく。
 画面の中では、私と萌恵ちゃんが体を密着させ、唇を重ねている。最近のスマホは画質がよく、目を凝らせば唇がわずかに離れた際に舌が絡んでいるのが見える。
 キスをしながら、相手を強く抱き寄せ、胸を擦り付け合う。
 行為が進むにつれて、二人の息はどんどん荒く、艶めかしくなっていく。
 すでに羞恥心で爆散しそうなのに、まだまだ本番がこれからということは言うまでもない。
 二人そろって視線をスマホから外せず、全神経を集中させて視聴を続ける。
 やはりというか、そういう行為なのだから当然というか……とんでもなく、えっちだ。
 自覚してなかったけど、私ってあんなに喘いでたの?
 うわ、恥ずかしいぐらいいやらしい声が出てる。
 あぁ、萌恵ちゃんは画面越しに見てもやっぱり素敵!
 萌恵ちゃん、すごいえっちな顔してる!
 し、下着に手を――ひゃあぁっ、さすがにヤバいよ!
 そんなことまで!?
 え、えっちすぎる……っ!

***

 ムービーが終了して画面が止まると同時に、私たちの時間は動き出した。
 錆びた機械のようにぎこちなく顔を動かし、耳まで真っ赤になったまま向き合う。

「す、すごかった、ね」

「あたしたちって、こ、こんなすごいこと、してたんだね~」

 笑顔を取り繕って、必死に平静を装って感想を述べる。
 ドキドキという表現では足りないぐらい心臓が脈を打ち、いろんな感情が混ざり合って頭が爆発しそう。
 しばらくして落ち着きを取り戻してから話し合い、今回撮ったムービーはスマホから消すという結論に至る。
 ただ……せっかくの思い出だからもったいないという意見を尊重し、パソコンにデータを移して保管することになった。
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