私がガチなのは内緒である

ありきた

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2章 私と萌恵ちゃんは恋仲である

19話 季節外れのお鍋②

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「お待たせ~」

 わずかな無駄もないテキパキとした動きに見惚れていると、萌恵ちゃんがリビングに姿を現した。
 カセットコンロの上に土鍋が置かれ、立ち上る湯気と共においしそうな香りが広がる。
 お汁を作ったり具材を切ったり灰汁を取ったり、なにからなにまで萌恵ちゃんがやってくれた。

「萌恵ちゃん、いつもありがとう。こんな素敵なお嫁さんをもらえて、私は世界一の幸せ者だよ」

 ちょっと大胆な冗談も混ぜつつ、日頃の感謝も含めてお礼を言う。

「あたしの方こそ、いつもありがと! でも、お嫁さんはちょっと恥ずかしいな~。結婚してないし」

 照れ臭そうに笑う萌恵ちゃん。
 いま、『まだ』って言ったよね?
 ということは、いずれ結婚してくれるってこと、だよね?

「そうそう、よかったらこれも使ってね~」

 いろいろ妄想してうっとりしていると、萌恵ちゃんからポン酢と大根おろしが入った器を渡された。
 口をサッパリさせたいときに使わせてもらうとしよう。

「いただきます」

 空の器を手に取り、適当に具材をよそう。
 見るからに熱そうな白菜に何度か息を吹きかけ、湯気が出なくなったのを確認してから口に運ぶ。

「あふっ」

 ちょっと冷ました程度では足りなかったようで、はふはふと口の中で熱さと戦う。
 シャキシャキとした食感を残しつつもしっかりと火の通った白菜は、噛むごとに豊かな風味と野菜の甘みが口いっぱいに広がる。
 次は豆腐。これは今日新たに買った物ではなく、冷蔵庫にあった絹ごし豆腐だ。
 萌恵ちゃんが用意してくれた大根おろし入りのポン酢に浸してから口に入れる。

「真菜、おいしい?」

「うん、すごくおいしいっ」

 素直な感想を伝えると、萌恵ちゃんは嬉しそうに天使のような笑顔を向けてくれた。私の恋人、いくらなんでもかわいすぎでは?
 味付けや火の通り具合、見栄えに至るまで非の打ちどころがない。
 加えて、ほのかに感じる生姜の香り。お鍋の中をよく見ると、すりおろした生姜が入っていた。
 全体のバランスを崩さず、むしろ味の段階を一つ上げていると言っても過言ではない絶妙な量が投入されている。
 生姜に体温を上げる効果があることは有名であり、萌恵ちゃんの心遣いが身に染みる。
 大好きな人とお鍋をつつき、身も心もポカポカと温まってきた。

「ちょっと暑くなってきちゃった~」

 萌恵ちゃんは服の胸元を少し引っ張り、反対の手で扇いで風を送る。
 チラリと覗く谷間につい視線が行ってしまうけど、食事中に失礼だと思い、首を振って煩悩を振り払おうと試みる。
 でも――

「だ、ダメだ……萌恵ちゃんの胸がえっちすぎて、他のことなんて考えられない……っ!」

「ふぇっ!? よ、よく分からないけど、えっちな胸でごめん」

 うっかり心の声が口を滑り、萌恵ちゃんを動揺させてしまった。
 悪いのは時間も場所も選ばず発情しているド変態な私だと説明してから、タオルを取りに行って萌恵ちゃんに渡す。

「はい、これ使って」

「ありがと~。さすが真菜、気が利くね!」

 実は胸の谷間をチラ見どころか凝視していたから汗ばんでいるのが分かった、とは言えない。
 タオルを胸に押し当て、汗を拭う。
 使い終えたタオルは隣に置かれ、萌恵ちゃんは食事を再開した。
 あのタオルは必ず奪取しようと固く決意し、私もお鍋から新たに具材を器によそっていく。
 時に談笑を挟みながら食べ進め、満腹感を覚え始めたところで具材がなくなった。味や調理法だけでなく、量まで完璧だ。

***

 夕飯は残ったスープにご飯と玉子を入れて雑炊にし、刻んだネギと海苔を散らして食べた。
 食後の運動として日が落ちる前に近所を散歩して、仲よくシャワーを浴びて汗を流す。
 いつの間にか昼に使用したタオルがなくなっていて萌恵ちゃんが不思議そうにしていたけど、夜中に秘密のオカズとして使わせてもらった後で洗濯機に入れておいたから、私がこっそり盗んだことは気付かれていない。
 萌恵ちゃんの無邪気な寝顔にキスをしてから布団に潜ると、ほどよい疲労感と幸福感のおかげでぐっすり眠れた。
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