私がガチなのは内緒である

ありきた

文字の大きさ
上 下
46 / 121
2章 私と萌恵ちゃんは恋仲である

18話 季節外れのお鍋①

しおりを挟む
 ある休日のこと。
 明け方に大雨が降り、昼前になってもまだ肌寒い。
 二人で一枚のブランケットを羽織り、淹れたての熱いお茶をすする。
 ふと目を閉じると、ぐつぐつ煮えたお鍋が浮かんだ。
 春にお鍋ってどうなんだろう。
 梅雨に入るかもって時期だし、体を温める食事として考えれば妥当なのかな?
 やっぱりまだ早いかもしれない。
 いや、でも……ダメだ、頭の中が鍋のイメージに支配されてしまっている。

「ねぇ、真菜。今日のお昼なんだけどさ、お鍋とかどう?」

「えっ?」

 ビックリして湯呑みを落としそうになるも、間一髪のところで阻止できた。

「ご、ごめんっ、そんなに驚かれると思わなかった! いくら寒くても、さすがに時期外れだったかな~」

「ううん、謝らないで。というか私の方こそごめん。実はまったく同じこと考えてたから、萌恵ちゃんの口からお鍋って単語が出てビックリしちゃった」

「おぉ~、やっぱりあたしたちって気が合うね! それじゃあ今日はお鍋に決定~!」

 明日に予定していた一週間分の買い物も、今日ついでに済ませてしまおう。
 私たちはブランケットを畳み、いつもより少しだけ厚着して家を出た。

「二人きりでお鍋って、何気に初めてだよね~」

 萌恵ちゃんが私の右腕に腕を絡ませながら言う。
 複数枚の衣類に阻まれてなお感じる柔らかさを堪能しつつ、私は確かにそうだとうなずいた。
 お互いの家で食べることはあっても、そのときは当然ながら家族も同伴している。

***

 信号に一つも引っかからず、お鍋について話している間にショッピングモールに到着した。
 カートにカゴを乗せ、まずは入り口付近の野菜売り場を物色する。
 ピーマンやニンジンなど普段の食事で使う物をカゴに入れてから、お鍋の具材として使う品を選ぶ。
 ……まぁ、私は素材の良し悪しとかよく分からないから、萌恵ちゃんの隣で呑気に眺めているだけなんだけど。
 白菜、ネギ、セリ、しいたけが追加され、鮮魚コーナーへ移動する。
 話し合った結果、今日は魚介がメインということになり、エビ、あさり、ベビーホタテを手に取った。
 調味料やお菓子のコーナーも一通り見て回った後、必要な物がそろっているか二人で確認してからレジへ向かう。
 フードコートで一息ついてからドラッグストアに寄り、ショッピングモールを後にする。
 家に着くと、きちんと手洗いうがいをして、すぐに使わない食材を冷蔵庫に仕舞う。
 いくら萌恵ちゃんが炊事担当とはいえ、お鍋をするときまで全部やってもらうわけにもいかない。
 周りをうろちょろしても邪魔になるので、テーブルにカセットコンロを設置し、食器を準備しておく。
 台所の方から、おいしそうな匂いが漂ってくる。よく分からないけど、醤油とかかつお節とか、そういう感じの香りだ。
 チラッと覗いてみれば、私の実家から持って来た土鍋が使われている。
 日の目を見るとしても冬だろうと思っていたけど、半年ほど早く出番が来た。

「真菜~、ちょっと味見してくれない?」

「はーい」

 萌恵ちゃんに呼ばれ、飼い主の帰宅を喜ぶペットのように駆け寄る。
 小皿に注がれたスープを口に含む。あっさりとしながらも薄すぎることのない、絶妙な味加減だ。
 あと、これは味と無関係だけど、私に手渡す前に萌恵ちゃんが「ふー、ふー」と息を吹きかけて冷ましてくれたことにキュンとした。
 もちろん不満などあるはずもなく、グッと親指を立てる。

「よかった~。それじゃ、もうしばらく待っててね」

「うん、楽しみにしてる」

 頬に軽くキスをして、私はリビングに戻る。
 本音を言えば手伝いたいところだけど、我が家の台所はそんなに広くない。ここは素直に甘えさせてもらおう。
 トントンとテンポよく響く包丁の音が、萌恵ちゃんの鼻歌と一緒に聞こえてくる。
 萌恵ちゃんが料理する際の後姿は何度も見ているのに、一向に飽きが来ない。
 ただひたすらに幸せを感じながら、私は愛する萌恵ちゃんを眺め続けるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

犬猿の仲だけど一緒にいるのが当たり前な二人の話

ありきた
青春
犬山歌恋と猿川彩愛は、家族よりも長く同じ時間を過ごしてきた幼なじみ。 顔を合わせれば二言目にはケンカを始め、時には取っ組み合いにまで発展する。 そんな二人だが、絆の強さは比類ない。 ケンカップルの日常を描いた百合コメディです! カクヨム、ノベルアップ+、小説家になろうにも掲載しています。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

処理中です...