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2章 私と萌恵ちゃんは恋仲である
16話 リズム
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とある休日。私と萌恵ちゃんはテーブルを挟み、それぞれ自分のスマホを注視していた。
左右の親指に神経を集中させ、タイミングに合わせて画面をタップする。
私たちが興じているのは、学校でも流行っているリズムゲーム。
フレンド登録している相手とスコアを競えるマルチ機能があり、いままさに白熱した勝負を繰り広げている最中だ。
遊びとはいえ、緊張感から手汗が滲む。
「――やったっ、あたしの勝ち~!」
「うぐぅ、負けたぁ」
勝鬨を上げる萌恵ちゃんと、テーブルに突っ伏す私。
萌恵ちゃんは運要素が絡む勝負なら無双を誇るけど、実はゲームがあまり得意ではない。
とはいえ歌が抜群に上手く、絶対音感と卓越したリズム感を持つ。
対する私は音感がなくリズムゲームもほとんど目押しだけど、ゲーム自体はそれなりに得意だ。
互いの得手不得手が絡み合った結果、私たちの戦績はほぼ五分五分となっている。
「次は真菜が曲選んでいいよ~」
「よし、萌恵ちゃんが苦戦しそうな曲にしよう」
難易度が高めの曲を選択し、気合いを入れて臨む。
一分弱の演奏時間が終わり、今度は僅差で私が勝利。
小さくガッツポーズして喜びを露わにしつつも、頭の中は別のことでいっぱいだ。
というのも、演奏中に萌恵ちゃんが小声で歌っていて、それが筆舌に尽くし難いほど素晴らしい。
「ゲームはこれぐらいにして、一曲歌ってもらってもいい?」
「えっ、ここで!?」
私の提案に、萌恵ちゃんは驚く。
「うん、お願い」
「あたしも歌いたいけど、さすがに近所迷惑じゃない?」
「ふふーん、抜かりはないよ。耳元で歌ってくれれば、私は間近で楽しめるし音も周りに響かない」
「お~っ、確かに名案かも! いいね、そうしよう!」
「ただ、問題は大きな声を出せないから、萌恵ちゃんが不完全燃焼になるってことなんだけど……」
私の要望が叶って近所への迷惑もかからないとはいえ、声量を制限された萌恵ちゃんは少なからずストレスを感じるはず。
「真菜がいいなら、たくさん歌わせてほしいな~。大声出せなくても、いっぱい歌えば満足できるし」
「もちろんっ」
むしろ大歓迎だ。なんなら永遠に聞いていたい。
余計なストレスを感じさせてしまわないように一曲だけで我慢しようと思っていたけど、その考えは間違っていたらしい。
予期せぬ提案に感謝しつつ、私は最初の曲をリクエストする。
せっかくだからアカペラで聞きたいとお願いしたら、快く承諾してくれた。
萌恵ちゃんは私の隣に移動し、耳元に顔を近付ける。
「それじゃ、歌うね」
吐息が耳にかかり、ウィスパーボイスが鼓膜を微かに震わせた。
ゾクッとした快感が体を駆け抜け、始まる前から悦に浸ってしまう。
俗に言うASMRを体験し、この先の本番にさらなる期待を抱く。
「~~~~♪」
最初はしっとりとしたバラード曲。
恋心を歌ったものであり、『好き』や『愛してる』といった単語が発せられるたびに体が反応してしまう。
可憐でいて美しい歌声が紡ぐ旋律は、心に癒しと安らぎをもたらす。
至高の芸術を堪能している最中だというのに、ド変態な私は感動と共に性的快感をも覚えていた。
「真菜、大好き❤」
「っ!?」
歌の最後に、とんでもないサプライズをプレゼントされる。
歌詞の一部を私の名前に変えただけと言えばそれまでだけど、実際はそう単純ではない。
感情を込めて歌い上げた後の甘えるような声音はいい意味でギャップがすごく、ほんのわずかに滲む照れが魅力を一層強めている。
「さぁさぁ、次行くよ~っ」
「ひゃ、ひゃい」
一曲目から骨抜きにされるも、楽しみはまだまだ終わらない。
次は最近いろんなところで流れているアイドルソングだ。
全体的に明るい雰囲気の曲調であり、先ほどのような状態になる心配はないはず。
***
――と、思っていた私がバカでした。
か、かわいすぎるっ!
かわいい声質が存分に活かされ、声量は抑えられているのに聞き手を元気にさせるエネルギーを秘めている。
こういう明るい曲は伴奏がないと魅力が伝わりづらいかと思っていたけど、断じてそんなことはなかった。
むしろ萌恵ちゃんの歌声があれば、他はいらない。
「萌恵ちゃん最高!」
「んふふっ、ありがと!」
***
その後も次々にリクエストを出し、期待を遥かに凌駕する感動を味わう。
トイレ休憩や水分補給を挟みつつ、かれこれ数時間ほど楽しませてもらった。
実は五曲目ぐらいから、あまりの快感で触れてもいないのに何度も達してしまい、恥ずかしながら下着が大変なことになっている。
下の方はどうにか気付かれずに済んだけど、感極まって溢れた涙はさすがに隠せなかった。
晩ごはんを食べてから再びリズムゲームで対戦したら、さっき歌ってもらった曲でかなりの高得点を取れた。
一時的とはいえ、萌恵ちゃんの歌が私のリズム感にまで好影響をもたらしたらしい。
左右の親指に神経を集中させ、タイミングに合わせて画面をタップする。
私たちが興じているのは、学校でも流行っているリズムゲーム。
フレンド登録している相手とスコアを競えるマルチ機能があり、いままさに白熱した勝負を繰り広げている最中だ。
遊びとはいえ、緊張感から手汗が滲む。
「――やったっ、あたしの勝ち~!」
「うぐぅ、負けたぁ」
勝鬨を上げる萌恵ちゃんと、テーブルに突っ伏す私。
萌恵ちゃんは運要素が絡む勝負なら無双を誇るけど、実はゲームがあまり得意ではない。
とはいえ歌が抜群に上手く、絶対音感と卓越したリズム感を持つ。
対する私は音感がなくリズムゲームもほとんど目押しだけど、ゲーム自体はそれなりに得意だ。
互いの得手不得手が絡み合った結果、私たちの戦績はほぼ五分五分となっている。
「次は真菜が曲選んでいいよ~」
「よし、萌恵ちゃんが苦戦しそうな曲にしよう」
難易度が高めの曲を選択し、気合いを入れて臨む。
一分弱の演奏時間が終わり、今度は僅差で私が勝利。
小さくガッツポーズして喜びを露わにしつつも、頭の中は別のことでいっぱいだ。
というのも、演奏中に萌恵ちゃんが小声で歌っていて、それが筆舌に尽くし難いほど素晴らしい。
「ゲームはこれぐらいにして、一曲歌ってもらってもいい?」
「えっ、ここで!?」
私の提案に、萌恵ちゃんは驚く。
「うん、お願い」
「あたしも歌いたいけど、さすがに近所迷惑じゃない?」
「ふふーん、抜かりはないよ。耳元で歌ってくれれば、私は間近で楽しめるし音も周りに響かない」
「お~っ、確かに名案かも! いいね、そうしよう!」
「ただ、問題は大きな声を出せないから、萌恵ちゃんが不完全燃焼になるってことなんだけど……」
私の要望が叶って近所への迷惑もかからないとはいえ、声量を制限された萌恵ちゃんは少なからずストレスを感じるはず。
「真菜がいいなら、たくさん歌わせてほしいな~。大声出せなくても、いっぱい歌えば満足できるし」
「もちろんっ」
むしろ大歓迎だ。なんなら永遠に聞いていたい。
余計なストレスを感じさせてしまわないように一曲だけで我慢しようと思っていたけど、その考えは間違っていたらしい。
予期せぬ提案に感謝しつつ、私は最初の曲をリクエストする。
せっかくだからアカペラで聞きたいとお願いしたら、快く承諾してくれた。
萌恵ちゃんは私の隣に移動し、耳元に顔を近付ける。
「それじゃ、歌うね」
吐息が耳にかかり、ウィスパーボイスが鼓膜を微かに震わせた。
ゾクッとした快感が体を駆け抜け、始まる前から悦に浸ってしまう。
俗に言うASMRを体験し、この先の本番にさらなる期待を抱く。
「~~~~♪」
最初はしっとりとしたバラード曲。
恋心を歌ったものであり、『好き』や『愛してる』といった単語が発せられるたびに体が反応してしまう。
可憐でいて美しい歌声が紡ぐ旋律は、心に癒しと安らぎをもたらす。
至高の芸術を堪能している最中だというのに、ド変態な私は感動と共に性的快感をも覚えていた。
「真菜、大好き❤」
「っ!?」
歌の最後に、とんでもないサプライズをプレゼントされる。
歌詞の一部を私の名前に変えただけと言えばそれまでだけど、実際はそう単純ではない。
感情を込めて歌い上げた後の甘えるような声音はいい意味でギャップがすごく、ほんのわずかに滲む照れが魅力を一層強めている。
「さぁさぁ、次行くよ~っ」
「ひゃ、ひゃい」
一曲目から骨抜きにされるも、楽しみはまだまだ終わらない。
次は最近いろんなところで流れているアイドルソングだ。
全体的に明るい雰囲気の曲調であり、先ほどのような状態になる心配はないはず。
***
――と、思っていた私がバカでした。
か、かわいすぎるっ!
かわいい声質が存分に活かされ、声量は抑えられているのに聞き手を元気にさせるエネルギーを秘めている。
こういう明るい曲は伴奏がないと魅力が伝わりづらいかと思っていたけど、断じてそんなことはなかった。
むしろ萌恵ちゃんの歌声があれば、他はいらない。
「萌恵ちゃん最高!」
「んふふっ、ありがと!」
***
その後も次々にリクエストを出し、期待を遥かに凌駕する感動を味わう。
トイレ休憩や水分補給を挟みつつ、かれこれ数時間ほど楽しませてもらった。
実は五曲目ぐらいから、あまりの快感で触れてもいないのに何度も達してしまい、恥ずかしながら下着が大変なことになっている。
下の方はどうにか気付かれずに済んだけど、感極まって溢れた涙はさすがに隠せなかった。
晩ごはんを食べてから再びリズムゲームで対戦したら、さっき歌ってもらった曲でかなりの高得点を取れた。
一時的とはいえ、萌恵ちゃんの歌が私のリズム感にまで好影響をもたらしたらしい。
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