私がガチなのは内緒である

ありきた

文字の大きさ
上 下
27 / 121
1章 私がガチなのは内緒である

27話 萌恵ちゃんとの日々

しおりを挟む
 休日の過ごし方について、これと言って特筆することはない。
 早朝の散歩から始まり、土日のどちらかは買い物のためショッピングモールへ赴く。
 遠出したりカラオケに行ったりはしないけど、不思議と退屈だと感じたことはない。
 どうやら私にとって、萌恵ちゃんとの生活がなによりの娯楽のようだ。

「それにしても、まさか美咲と芽衣が付き合うとはね。今頃デートしてるのかな~」

 床に寝そべってスマホをいじりながら、萌恵ちゃんが話を振ってきた。
 私は読んでいた雑誌をテーブルに置き、それとなく質問してみる。

「萌恵ちゃんも恋愛に興味出てきた?」

「あたしはまだ分かんないや。みんなとワイワイやってる方が楽しい。ただ……」

「ただ?」

 言うのを躊躇っているようだったけど、気になったので追求してしまった。

「真菜が誰かと付き合うことになったら、寂しくて泣いちゃうかも」

「……え?」

「だって、こうして二人でまったり過ごしたり、放課後話したりできなくなるんでしょ? 物心ついたときからずっと一緒だったし、耐えられないんじゃないかな~。だから笑ってお祝いできないだろうけど、勘弁してね」

 心のどこかでは、私が誰かと付き合ったところで、萌恵ちゃんはなんとも思わないんじゃないかって思っていた。
 私の好きな人が自分だって微塵も気付いてない辺りは萌恵ちゃんらしいけど、意外な答えだ。

「大丈夫だから、安心して」

「ほんと? まぁ、そもそも真菜にそんな相手いないよね!」

「もしかして煽ってる?」

「ごめんごめん、ちょっとふざけただけだよ~」

 と言いながらウィンクをして、萌恵ちゃんは立ち上がってトイレに向かう。
 相も変わらず、細かな仕草ですら尋常じゃなくかわいい。
 ちなみに私はウィンクができない。
 
「ふぅ」

 読みかけの雑誌に目もくれず、テーブルに頬杖をついて溜息を吐く。
 漠然としか決めていなかった告白の日程は、四月最後の日曜日――つまり明日にしようと思っている。
 だから今日は、萌恵ちゃんとの時間を最大限に楽しむつもりだった。
 そう、過去形だ。
 どうしても強く意識しすぎてしまい、いつも通りの心境ではいられない。
 明日告白する相手の前で普段の態度を取り繕えているだけ、自分を褒めてあげたい。
 萌恵ちゃんとのやり取りはどんなに単純で簡素なものでも胸が躍り、萌恵ちゃんが同じ空間にいるというだけで絶大な安心感がある。
 記憶を遡ってみれば、浮かぶのは萌恵ちゃんとの思い出ばかりだ。
 命を救われたとか劇的な出来事を経験したとか、そういう派手なエピソードはない。
 髪や瞳の色とか周りと違うことはあるけど、至って普通に生きてきた。
 幼なじみとして、親友としてずっとそばにいた。
 いつから萌恵ちゃんに恋愛感情を抱き始めたのか、正確な時期は分からない。
 気付いたときには、周りが見えなくなるぐらい好きになっていた。

「お~い、起きてる?」

「ぴぇっ!? もっ、萌恵ちゃん、驚かさないでよっ」

 知らぬ間に瞬間移動でも会得していたのか、トイレに行ったはずの萌恵ちゃんが対面に座っている。

「いやいや、驚かされたのはこっちだよ。無言で虚空を見つめてるから気になって声をかけたら、『ぴぇっ!?』って――ぴぇっ、ふふっ、ぴっ、ぴぇって、なに? ぴっ……あはっ、あはははははははっ!」

 ツボったようで、お腹を抱えて笑い転げ始めた。
 ビックリして変な声出ちゃったけど、そんなに面白かったかな?
 しばらくこの状態が続き、ようやく落ち着いて話ができるようになると、私のせいで笑いすぎてお腹が痛くなったと文句を言われた。知らないよ。

***

 昼過ぎに買い物に出かけて、晩ごはんを食べ、お風呂に入り、いまは電気を消して布団の中。
 いつも通りに生活しながらも、心の奥では告白についてずっと考えていた。
 この期に及んで未だに悩みや不安は拭い切れていないけど、それはもう仕方がない。
 決意を取り消していままでのように幼なじみで親友という立場を維持すれば、きっと高校生活があっという間に終わったと感じられるほど楽しい日々が続くのだろう。
 悪い言い方をすれば、本当に伝えたい気持ちを内緒にしたままの日々が続くということだ。

「萌恵ちゃん、起きてる?」

「うん、起きてるよ~」

 小声で呼びかけると、同じく小声で返事が来た。
 萌恵ちゃんは「どうしたの?」と訊きながら体を私の方に向ける。

「私、萌恵ちゃんと出会えてよかった。この先なにがあっても、萌恵ちゃんとの思い出は一生の宝物だよ」

「きゅ、急にどうしたの? さすがのあたしも照れちゃうよ。あたしだって真菜と出会えてよかったし、思い出もこれから増えていく分も含めて宝物だよ。おばあちゃんになっても親友だからね」

 戸惑った様子を見せながらも、優しい言葉と笑顔をくれた。
 雲間から覗く月明かりが、カーテン越しに萌恵ちゃんの顔を照らす。
 わずかに眠気を感じさせる柔らかな微笑みは可憐さと色っぽさを兼ね備えており、あまりに魅力的で息をするのも忘れてしまう。
 強引にでも奪いたいと思わせる、ぷるんとした唇。
 だけど、一方的に愛を押し付けるだけのキスなんて虚しい。
 年中発情期だと自負しているぐらい日頃からムラムラしてえっちなことばかり考えているとはいえ、嫌がる萌恵ちゃんに手を出すぐらいなら迷わず死を選ぶ。
 肉体関係を持つぐらいに進展したなら、照れて拒む萌恵ちゃんを襲うこともあるかもしれないけど……。
 信頼を裏切るような行為だけは、絶対にしたくない。

「ありがとう。寝る前にごめんね。おやすみ」

「おやすみ~」

 萌恵ちゃんが眠りに落ちてからも、私はしばらく起きていた。
 最愛の人の寝顔を見る機会は、これが最後になるかもしれないのだから。
 大切な思い出を振り返り、いまの楽しさを噛みしめ、このままでも充分に幸せだと実感させられた。
 最悪の場合を想像したら息苦しくなり、全身から嫌な汗が噴き出す。
 それでも、決意は揺るがない。

 ――私は明日、萌恵ちゃんに告白する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

処理中です...