私がガチなのは内緒である

ありきた

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1章 私がガチなのは内緒である

26話 意思を固めて

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 五限目が終わった休み時間、芽衣ちゃんを廊下に呼び出した。
 一組の教室は校舎の端にあるので、廊下の角は内緒話に最適だ。

「芽衣ちゃん、おめでとう。勇気を出して頑張ったんだね。この前はヘタレとか言ってごめん」

 同じ秘密を抱えて共通の悩みに試行錯誤してきた同志として、短文で申し訳ないけど素直な祝辞を送り、先日の非礼を詫びる。

「え、ええ、ありがとう。面と向かって祝われると、なんだか照れるわね」

「それでね、私も近いうちに告白しようって思ってるの」

「……本気?」

「うん。具体的な日付は決めてないけど、連休前にはするつもり」

 決してヤケクソになったわけじゃないし、先を越されて焦ったがゆえの行動でもない。
 私なりに、ちゃんと考えた結果だ。

「水を差すようで悪いけど、一つだけ質問させてもらうわね。真菜は、どうしても萌恵と恋人になりたいの?」

「え? もちろんなりたいよ。ずっと片想いのままなんて、つらいから。でも、なんで?」

 質問の意図が分からず、気の抜けた声で返してしまう。
 萌恵ちゃんと付き合いたいという願望は、芽衣ちゃんしか知らない。
 この集まりにおいては常識と言っても過言ではないのに、なぜいまさら訊ねられたのだろうか。

「付き合いたい気持ちは痛いほど分かる。だけど、あんたと萌恵の仲は、悔しいけど芽衣と美咲よりもずっと親密に見えるわ。無理してすぐに行動しなくてもいいんじゃないかしら」

 相手の決意を否定するようにも取れる意見、さぞかし言いづらかったはずだ。
 自分の心を痛めてまで私の心配をしてくれる優しさには、ただただ感謝しかない。

「芽衣ちゃん、ありがとう」

 彼女になら、親戚として安心して美咲ちゃんを任せられる。
 私が逆の立場だったら、休み時間が終わるまでのろけ話を聞かせ続けていたかもしれない。

「それでも、告白するよ。確かにいまのままでも私と萌恵ちゃんの絆は世界一だし、一緒に住んでお風呂にも二人で入ってる。だけど、恋人としてそばにいたい」

 恋人になったところで、いきなり生活が大きく変わるなんてことはない。
 何度も妄想していることとはいえ、実際にキスやその先の行為に踏み込むのはしばらく先になるはずだ。
 ただ、付き合えたら、当たり前のように本当の気持ちを伝えられる。大好きだと言える。

「サラッと自慢してきたわね」

「ご、ごめん」

「冗談よ。意思は固いみたいだし、芽衣はもうなにも言わないわ。応援してるから、頑張りなさい」

「うん、ありがとう。わざわざ呼び出してごめんね」

 芽衣ちゃんと美咲ちゃんが交際を始めた以上、片想いしているのは私だけ。
 作戦会議のために集まるのは、もう終わり。
 勝手なワガママだけど、同志として決意を聞いてもらいたかった。

「健闘を祈るわ」

 激励を飛ばして立ち去るその後ろ姿は、スラリとした体躯からは想像もできないほど大きく見える。
 ボソッと「かっこつけすぎた……恥ずかしい」ってつぶやいたのは気付かなかったことにしておくね。

「よし、頑張ろう」

 私は自らの頬を叩き、喝を入れる。
 四月が終わる前にケリを付けよう。
 ゴールデンウィークは、恋人として一緒に過ごすんだ。
 失敗する可能性なんて、いまは考えなくていい。
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