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1章 私がガチなのは内緒である
19話 芽衣ちゃんと例の件について
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普段話している内容から、萌恵ちゃんが料理上手だということはクラス内でそこそこ知られている。
放課後、クラスの子たちが料理のコツを聞きたいと言ってきた。
これまでにも何度かあったし、べつに嫉妬したりはしない。
まったく気にしていないと言えば嘘になるけど、それを表に出さない程度の度量はある。
私も同伴しようかなと思っていたところ、教室の外にいた芽衣ちゃんが手招きしているのが見えたのでそちらへ向かうことにした。
「ちょっと相談したいことがあるんだけど、いいかしら?」
「うん、もちろん。そう言えば、今日は美咲ちゃん一緒じゃないの?」
「用事があるって先に帰ったわ。で、こっちに来たらあんただけ呼び出せそうな様子だったから、好都合と思ったのよ」
「ということは、例の件だね」
「ええ、話が早くて助かるわ」
私たちは廊下の端へと移動し、周囲に人目がないのを確認しながら話を始める。
例の件とはつまり、いわゆる恋バナだ。
この話は芽衣ちゃんと二人のときにしかできない。
熱くなりすぎると二人とも好きな人のことでマシンガントークしてしまうので、ほどほどのところで区切りを付けるようにしている。
「芽衣ちゃんはなにか進展あった?」
「悲しいほどないわね。まだ手を握ったことすらないわ」
ハキハキとした口調ながら、どこか物寂しい雰囲気を滲ませていた。
「そっか……」
気持ちは痛いほど分かる。
萌恵ちゃんがあの性格じゃなかったら、私だって未だに指一本触れられていなかっただろう。
「あんたは? なにかあった?」
「大きな進展はなかったけど、変態としての道を着実に進んでるって感じかな」
同居してから二人の仲は一層深まっている。それが友情の意味しか持たないとしても、喜ばしいことだ。
嘆くべきは、私が日に日に性癖をこじらせているという事実。
以前より親密になっているはずなのに、伝えられないことも段々と増えている気がする。
「女の子が女の子を好きな時点で、世間一般からは変態扱いされるわ。あんまり気にしなくてもいいんじゃないかしら?」
「悲しいけど、確かにそうだね。ただ、私の場合はちょっと……同じ枠にすると、ピュアな百合趣味の人たちに怒られるかも」
「というと、後ろの席からこっそり髪の匂いを嗅いでたりするわけ?」
え、ちょっと待って。それって変態行為に分類されるの?
こっそり、という点がダメなのだろうか。
自分の中での基準が揺らぎつつあるけど、貴重な意見として今後の参考にしよう。
「ううん、それどころじゃないよ。最近だと――」
そして、私は包み隠さず暴露した。
実際にやってしまったこと、妄想したこと、すべてを。
「あー、それはド変態ね。想像の斜め上過ぎてビックリしたわ」
そりゃそうだよね。
予想通りの反応だったので、逆にホッとした。
「芽衣ちゃんはどうなの?」
「芽衣は普通よ。美咲と関節キスできるってときに尻込みしたり、相合傘で帰るチャンスなのに照れ隠しでずぶ濡れになりながら帰ったり、夜道で危ないから手をつなごうとして勇気が出ずに諦めたり。特に変な気を起こすってことはないわね」
「いやいやいやいや、超が付くほどのヘタレじゃん。私の変態ぶりには自分でもドン引きしてるけど、芽衣ちゃんのヘタレ具合はもはや呆れを超越して憐れみさえ覚えるよ」
フォロー不可能なほどのヘタレエピソードを述べ立てられ、少しばかり辛辣なツッコミを入れてしまった。
さっきは同調したけど、さすがにいまのはチャンスを棒に振りすぎだよ。
「へ、ヘタレじゃないわよ! ちょっとその、冷静かつ慎重な判断を下して仕方なく次の機会を待つことにしただけなんだからね!」
「うん、人はそれをヘタレと呼ぶ」
「うるさいわね! 恥ずかしいんだから仕方ないじゃない!」
「私が言えることじゃないけど、もうちょっと積極的になってもいいんじゃないかな。偶然に生まれたチャンスなんだから、べつに怪しまれたりしないよ。私なんて、萌恵ちゃんの胸を揉んだこともあるし」
助言を呈しつつ、サラッと自慢話を織り交ぜる。
成り行きでの出来事なので、威張れることではないけれど。
「そ、そうよね、もったいないわよね。というか、あんた何気にすごいわね。いま告白しても成功するんじゃない?」
「ふっ、甘いよ芽衣ちゃん。萌恵ちゃんが恋愛に興味がないことは、嫌というほど思い知らされてる。仮に好きだって言っても、普通に友情的な意味だと受け取られて終わりだよ」
だからこそ、ごくまれにとはいえ『好き』という言葉を萌恵ちゃんに伝えられる。
真意は届かなくても、声に出して本人に言えるのはそれだけで嬉しいことだ。
「負けてられないわね。芽衣も次からは勇気を出して、積極的に行動するわ」
「私も、もっと自分から踏み込んでみようかな」
これまでは受動的に萌恵ちゃんからのスキンシップを享受していたけど、恋人になるには能動的な姿勢で攻めていかなくてはならない。
分かり切っていたことだけど、改めて心に強く刻んでおこう。
「それじゃ、芽衣はそろそろ帰るわね」
「私も教室に戻るよ。芽衣ちゃん、また明日」
こうして、私たちはそれぞれの帰るべき場所へ向かって歩き出した。
ただ、まぁ。
実のところ似たような会話はこれまでにも何度かしていて、さっきあれだけ偉そうに言った私もヘタレなのは同じなわけで。
積極的になるぞと意気込んで、大事なところで一歩引いてを繰り返している。
私たちが前進するには、まだ時間がかかりそうだ。
放課後、クラスの子たちが料理のコツを聞きたいと言ってきた。
これまでにも何度かあったし、べつに嫉妬したりはしない。
まったく気にしていないと言えば嘘になるけど、それを表に出さない程度の度量はある。
私も同伴しようかなと思っていたところ、教室の外にいた芽衣ちゃんが手招きしているのが見えたのでそちらへ向かうことにした。
「ちょっと相談したいことがあるんだけど、いいかしら?」
「うん、もちろん。そう言えば、今日は美咲ちゃん一緒じゃないの?」
「用事があるって先に帰ったわ。で、こっちに来たらあんただけ呼び出せそうな様子だったから、好都合と思ったのよ」
「ということは、例の件だね」
「ええ、話が早くて助かるわ」
私たちは廊下の端へと移動し、周囲に人目がないのを確認しながら話を始める。
例の件とはつまり、いわゆる恋バナだ。
この話は芽衣ちゃんと二人のときにしかできない。
熱くなりすぎると二人とも好きな人のことでマシンガントークしてしまうので、ほどほどのところで区切りを付けるようにしている。
「芽衣ちゃんはなにか進展あった?」
「悲しいほどないわね。まだ手を握ったことすらないわ」
ハキハキとした口調ながら、どこか物寂しい雰囲気を滲ませていた。
「そっか……」
気持ちは痛いほど分かる。
萌恵ちゃんがあの性格じゃなかったら、私だって未だに指一本触れられていなかっただろう。
「あんたは? なにかあった?」
「大きな進展はなかったけど、変態としての道を着実に進んでるって感じかな」
同居してから二人の仲は一層深まっている。それが友情の意味しか持たないとしても、喜ばしいことだ。
嘆くべきは、私が日に日に性癖をこじらせているという事実。
以前より親密になっているはずなのに、伝えられないことも段々と増えている気がする。
「女の子が女の子を好きな時点で、世間一般からは変態扱いされるわ。あんまり気にしなくてもいいんじゃないかしら?」
「悲しいけど、確かにそうだね。ただ、私の場合はちょっと……同じ枠にすると、ピュアな百合趣味の人たちに怒られるかも」
「というと、後ろの席からこっそり髪の匂いを嗅いでたりするわけ?」
え、ちょっと待って。それって変態行為に分類されるの?
こっそり、という点がダメなのだろうか。
自分の中での基準が揺らぎつつあるけど、貴重な意見として今後の参考にしよう。
「ううん、それどころじゃないよ。最近だと――」
そして、私は包み隠さず暴露した。
実際にやってしまったこと、妄想したこと、すべてを。
「あー、それはド変態ね。想像の斜め上過ぎてビックリしたわ」
そりゃそうだよね。
予想通りの反応だったので、逆にホッとした。
「芽衣ちゃんはどうなの?」
「芽衣は普通よ。美咲と関節キスできるってときに尻込みしたり、相合傘で帰るチャンスなのに照れ隠しでずぶ濡れになりながら帰ったり、夜道で危ないから手をつなごうとして勇気が出ずに諦めたり。特に変な気を起こすってことはないわね」
「いやいやいやいや、超が付くほどのヘタレじゃん。私の変態ぶりには自分でもドン引きしてるけど、芽衣ちゃんのヘタレ具合はもはや呆れを超越して憐れみさえ覚えるよ」
フォロー不可能なほどのヘタレエピソードを述べ立てられ、少しばかり辛辣なツッコミを入れてしまった。
さっきは同調したけど、さすがにいまのはチャンスを棒に振りすぎだよ。
「へ、ヘタレじゃないわよ! ちょっとその、冷静かつ慎重な判断を下して仕方なく次の機会を待つことにしただけなんだからね!」
「うん、人はそれをヘタレと呼ぶ」
「うるさいわね! 恥ずかしいんだから仕方ないじゃない!」
「私が言えることじゃないけど、もうちょっと積極的になってもいいんじゃないかな。偶然に生まれたチャンスなんだから、べつに怪しまれたりしないよ。私なんて、萌恵ちゃんの胸を揉んだこともあるし」
助言を呈しつつ、サラッと自慢話を織り交ぜる。
成り行きでの出来事なので、威張れることではないけれど。
「そ、そうよね、もったいないわよね。というか、あんた何気にすごいわね。いま告白しても成功するんじゃない?」
「ふっ、甘いよ芽衣ちゃん。萌恵ちゃんが恋愛に興味がないことは、嫌というほど思い知らされてる。仮に好きだって言っても、普通に友情的な意味だと受け取られて終わりだよ」
だからこそ、ごくまれにとはいえ『好き』という言葉を萌恵ちゃんに伝えられる。
真意は届かなくても、声に出して本人に言えるのはそれだけで嬉しいことだ。
「負けてられないわね。芽衣も次からは勇気を出して、積極的に行動するわ」
「私も、もっと自分から踏み込んでみようかな」
これまでは受動的に萌恵ちゃんからのスキンシップを享受していたけど、恋人になるには能動的な姿勢で攻めていかなくてはならない。
分かり切っていたことだけど、改めて心に強く刻んでおこう。
「それじゃ、芽衣はそろそろ帰るわね」
「私も教室に戻るよ。芽衣ちゃん、また明日」
こうして、私たちはそれぞれの帰るべき場所へ向かって歩き出した。
ただ、まぁ。
実のところ似たような会話はこれまでにも何度かしていて、さっきあれだけ偉そうに言った私もヘタレなのは同じなわけで。
積極的になるぞと意気込んで、大事なところで一歩引いてを繰り返している。
私たちが前進するには、まだ時間がかかりそうだ。
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