私がガチなのは内緒である

ありきた

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1章 私がガチなのは内緒である

14話 秘密

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 この瞬間、人生の中でも類を見ない窮地に立たされている。

「えっと……なにか言った?」

 苦肉の策として、不自然な耳の遠さを発揮してみた。
 一言一句漏らさず聞き取れているけれど、凌げる可能性があるなら試してみる価値はある。
 というより、あらゆる手を使ってごまかさなければならない。今後の高校生活――いや、人生のために!

「萌恵に惚れてるんでしょ? 友達としてじゃなく、恋愛対象として」

 ごまかす余地がないじゃないか。
 いままで誰にもバレなかったのに、会って間もない芽衣ちゃんに看破されるなんて想定外だ。
 隠し通すことができないなら、潔く正面から戦おう。

「芽衣ちゃん、土下座でもなんでもするから秘密にしてくれないかな? なんなら、パシリとして使ってくれてもいいよ」

 私は毅然とした態度で堂々と言い放った。
 驚くほど情けない内容だから、せめて態度だけは取り繕わせていただきたい。

「ど、土下座? いやいや、なんでそんな話になるのよ。べつに言いふらすつもりなんてないわ」

「え、そうなの?」

「当たり前じゃない。まず本当かどうか確認したかっただけだし、むしろ本題はこれからよ」

 とりあえず、情報漏洩の心配がなくて一安心だ。
 最悪の場合は友達と言えど手荒な行動に出なければならなかったので、二重の意味で助かった。

「長引くと教室の二人が気にするだろうから、率直に言うわね。芽衣はね、美咲のことが好きなのよ。話の流れで察せると思うけど、恋愛的な意味で愛してるわ」

 絶句。
 すぐには言葉が出て来ず、口をパクパクさせてしまう。
 一度口を閉じて衝撃の事実を受け止め、平静を取り戻す。

「それってつまり、私と同類、ってこと?」

「ええ、そうよ。美咲はそういうことに興味がないから内緒にしてるけど、いますぐにでも付き合いたいと思ってるわ」

「分かる! それすごく分かるよ芽衣ちゃん!」

 未だかつてないほどの親近感を覚え、激しく同意した。
 私も常々、萌恵ちゃんと恋人関係になりたいと切望している。

「だけど、相手は恋愛に無頓着だし、なまじ仲がいいから、関係を壊したくなくて現状維持を優先しちゃうのよね」

「我慢しないとって分かってるんだけど、顔が近付くたびに『キスしたい!』って思ったりするよね」

「優しく微笑まれたりすると、ギュッと抱きしめたくなったり」

「無防備な姿を見ると、押し倒したくなったり」

「「……っ!」」

 あるあるネタを語り合い、互いを同志と認めた私たちは力強く頷き合った。
 握手はしない。部位がどこであれ、肌を重ねるのは好きな人だけだと心に誓っているから。その考えは共通認識だ。
 私たちは最後に不敵な笑みを交わし、来たときより少し軽い足取りで教室に戻るのだった。
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