私がガチなのは内緒である

ありきた

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1章 私がガチなのは内緒である

11話 モヤモヤ

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 私はいま、心が大いに荒れている。
 美咲ちゃんが電子辞書を忘れ、一組まで借りに来た。
 それはべつにいい。私は快く貸したよ。断る理由なんてないし、むしろ役に立ててなによりだ。

「へぇ、そうだったんですか。初めて知りました!」

「んふふっ、そうでしょ? 多分あたししか知らないんじゃないかな~」

「貴重な情報、ありがとうございます。お返しに、わたしのとっておきを提供しますね」

「おおっ、教えて教えて!」

「実はですね――」

 なんかすごい盛り上がってる。
 恨めしいほどに羨ましい。
 きっかけは些細なことだった。
 萌恵ちゃんいわく、自分だって私のことをよく知っているんだと美咲ちゃんにアピールしたかったとのこと。
 気恥ずかしさやむず痒さを覚えるけど、正直に言って感無量の一言に尽きる。
 次の授業の予習をするフリをして、思いっきり聞き耳を立てて会話に全神経を研ぎ澄ませていたわけだ。
 萌恵ちゃんが家での私の様子を語るところから始まり、続けて美咲ちゃんは昔おばあちゃんの家で遊んだときの思い出を口にした。
 すると、二人は出会って数日とは思えないほど意気投合。
 いや、分かってる。普通なら大して気にすることじゃないんだって。
 二人が仲よくするのは嬉しいって、前に自分でもそう感じたし。
 もちろん美咲ちゃんに対して敵意を抱いているわけではない。
 相手が誰というより、萌恵ちゃんが私以外の人と心から楽しそうにしているのを見ると、モヤモヤした気持ちが胸中に渦巻く。
 こういうとき、自分がいかに器の小さい人間か明白になってしまう。

「真菜~、あたしたちって一心同体だよね!」

「へ? え、あ、うん、そうだね」

 唐突に話を振られ、反射的に答える。

「んふふっ、だよねだよね! いつもそれは言い過ぎとか言ってるけど、やっぱり照れ隠しだったんだ~」

「だ、だって、その……うぅ、降参」

 実際、照れ隠しで否定していた部分は大きい。
 顔が熱くなるのを感じつつ、素直に認めることにした。

「あらあら、わたしが入る余地なんてなさそうですね」

「あたしと真菜は特別な仲だからね! でも、美咲だってもう大事な友達だよ!」

 自然に発せられたその一言で、心のモヤモヤが跡形もなく霧散した。
 我ながらチョロすぎだと呆れるけど、不安や心配がまとめて取り払われた気分だ。
 それにしても、『特別な仲』かぁ……。
 萌恵ちゃん、私との関係をそんなふうに思ってくれてたんだ。
 感極まって涙目になってしまう。
 頭の中で、さっきの言葉が延々と繰り返される。
 
 ――あたしと真菜は特別な仲だからね!

 ――――あたしと真菜は秘密の関係だからね!

 ――――――あたしと真菜はラブラブだからね!

 ――――――――あたしは身も心も真菜の物だからね!

 脚色し過ぎ? いや、そんなことはないはず。
 あはぁぁああぁああああぁぁぁぁっっ、萌恵ちゃん大好き! 私の全部も萌恵ちゃんの物だよ!
 同じ時代に産んでくれてありがとう、お母さん!

「桜野さん、大丈夫?」

 ハッとなって前を見ると、先生に心配そうな視線を向けられていた。
 いつの間にか休み時間が終わっていたらしい。

「だ、大丈夫です、ごめんなさい」

 私は姿勢を正し、ノートを広げる。
 想定外の恥をかいてしまったけど、モヤモヤが晴れたからよしとしよう。
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