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1章 私がガチなのは内緒である
8話 私の幼なじみといとこ
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ある日の昼休み、お手洗いで美咲ちゃんとバッタリ会った。
前に萌恵ちゃんを紹介するという話をしたのを思い出し、一組の教室に連れて行く。
萌恵ちゃんを廊下に呼び、共通の知り合いということで私が会話を回す役割を買って出る。
「この子が此木萌恵ちゃん。私の幼なじみであり親友で、いまは一緒に暮らしてる。見ての通り世界一かわいい美少女で、明るくて優しくて控え目に言っても人間国宝だね」
長々と紹介するのもどうかと思い、簡潔に済ませることにした。
実は私にとって最愛の人で、できることならこの場でキスやその先も――なんて本音は漏らせるはずもない。
「こっちは大原美咲ちゃん。私のいとこで、隣の組の子だよ」
同じく簡潔に終わらせる。
「ま、真菜さん、此木さんとわたしで差がありすぎませんか?」
「そうかな?」
「確かに、あたしを過大評価してるよね~。嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいよ」
なるほど、無意識のうちに萌恵ちゃんへの愛情が溢れてしまっていたらしい。
過大評価というのは納得いかないけど、その慎ましさもまた素敵だ。
「此木さんは真菜さんと付き合いが長いんですよね?」
「うん、物心ついた頃から一緒にいるよ! もはや一心同体だね!」
萌恵ちゃんが意気揚々と答える。
入学式のときも言ってくれたけど、一心同体という表現は本当に嬉しい。録音して無限リピートしたい。
「真菜さんのおねしょ癖、何歳ぐらいまで続きました?」
耳を疑う質問が、美咲ちゃんから飛び出した。
「ちょっ、ちょちょちょ、なに言ってるの美咲ちゃん!? わ、私はおねしょなんて赤ちゃんの頃に卒業してるよ」
普段それほど声を荒げない私も、さすがに動揺を隠せず狼狽してしまう。
真に遺憾ながら、私の証言は嘘である。
萌恵ちゃんは知る由もないが、お恥ずかしながら……中学に上がってからもしばらくは、起きたら布団が冷たいということがたまにあった。
もちろん現在は完全に克服できている。そうでなければ、さすがの私も同居を断っていただろう。
「し、知らなかった。真菜にそんな過去があったなんて……」
やめて萌恵ちゃん、さも凄惨な事件を経験したみたいに言わないで。恥ずかしくて死んじゃう。
美咲ちゃんの『失言だった』と言わんばかりの申し訳なさそうな視線と、萌恵ちゃんのどこか微笑ましい物を見る目から逃げるように、私は窓の向こう側に広がる中庭の景色を眺めるのだった。
「し、仕方ないですよね、あはは。おっと、そろそろ休み時間が終わりますね。わたしは教室に戻ります。此木さん、これからよろしくお願いしますね。真菜さん、あの、本当にごめんなさいっ」
早口で一方的にまくし立て、美咲ちゃんは二組の教室へと姿を消す。
フォローが雑!
くっ、事前に口封じしておくべきだった。人生最大の汚点が、まさかこんな形で露呈するなんて。
「んふふっ、真~菜~♪」
あからさまなまでに、萌恵ちゃんがニヤニヤしている。
「萌恵ちゃん、あれは誰かが私を陥れるために仕組んだ罠だったんだよ」
「いやいや、それはないでしょ~。そんなに恥ずかしがることないって。かわいい思い出じゃん」
恥ずかしいよ。かわいくないよ。大好きな人に知られたくない黒歴史ランキングで堂々の一位だよ!
あぁ、穴を掘って埋まりたい。
「記憶を消す薬、どこかに売ってないかな」
「怖い怖い。せっかく真菜のことをまた一つ知れたんだから、消されると困るよ」
世の中には知らない方がいい事実もあるのだと、声を大にして主張したいところだ。
「――ねぇ、真菜」
不意に、強く抱きしめられた。
「ど、どうしたの?」
「よく分かんないけど、なんか胸がキュッて苦しくなったの。真菜の温もりを感じると紛れるから、もうちょっとだけこのまま……お願い」
「う、うん」
もしかして、妬いてくれてる?
巷の鈍感系主人公とは一線を画す私には分かる。
萌恵ちゃんはいま、嫉妬している!
ずっと片想いだと決め付けてたけど、実は相思相愛だったパターンだったのだ!
いまなら、告白しても――
「ふぅっ、スッキリした! 真菜、ありがと! あたしたちも教室に戻ろう!」
「ほへ? あ、う、うん、そうだね、そうしよう」
あまりに突然のことで、素っ頓狂な声を出してしまった。
ポカーンとしたまま立ち尽くし、萌恵ちゃんに手を引かれて足を進める。
「なんかさ、ご主人様の友達が遊びに来たときの飼い猫の気持ちが分かったよ。いつもと違う一面を知れて嬉しいけど、自分の方が仲よしなんだぞ~って嫉妬しちゃった」
「そ、そうなんだ」
嫉妬は嫉妬でも、私の予想とはベクトルが違ったらしい。
いや、嫌なわけじゃないよ? むしろ誇らしくさえある。
ただ、その、ねぇ?
鈍感系主人公とは違うとか息巻いてたけど、べつに鋭いわけじゃなくて、ただの勘違い女でしたってこと、だよね?
「んふふっ、次はあたしが美咲に真菜との思い出を話して羨ましがってもらうもんね~♪」
仲よくなれそうでなによりだ。
萌恵ちゃんがいいなら、家に招いて夜までおしゃべりするのも悪くない。
事の顛末だけ見ればいいこと尽くめなんだけどなぁ。
なんだろう、この、『後ろから声をかけられて振り向いたら自分に対してじゃなかった』って出来事の気恥ずかしさを何倍にも膨らませたような気持ち。
盛大に予想を外した後だけど、これだけは確信を持って断言できる。
私はいま、羞恥心で耳まで真っ赤になっている!
前に萌恵ちゃんを紹介するという話をしたのを思い出し、一組の教室に連れて行く。
萌恵ちゃんを廊下に呼び、共通の知り合いということで私が会話を回す役割を買って出る。
「この子が此木萌恵ちゃん。私の幼なじみであり親友で、いまは一緒に暮らしてる。見ての通り世界一かわいい美少女で、明るくて優しくて控え目に言っても人間国宝だね」
長々と紹介するのもどうかと思い、簡潔に済ませることにした。
実は私にとって最愛の人で、できることならこの場でキスやその先も――なんて本音は漏らせるはずもない。
「こっちは大原美咲ちゃん。私のいとこで、隣の組の子だよ」
同じく簡潔に終わらせる。
「ま、真菜さん、此木さんとわたしで差がありすぎませんか?」
「そうかな?」
「確かに、あたしを過大評価してるよね~。嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいよ」
なるほど、無意識のうちに萌恵ちゃんへの愛情が溢れてしまっていたらしい。
過大評価というのは納得いかないけど、その慎ましさもまた素敵だ。
「此木さんは真菜さんと付き合いが長いんですよね?」
「うん、物心ついた頃から一緒にいるよ! もはや一心同体だね!」
萌恵ちゃんが意気揚々と答える。
入学式のときも言ってくれたけど、一心同体という表現は本当に嬉しい。録音して無限リピートしたい。
「真菜さんのおねしょ癖、何歳ぐらいまで続きました?」
耳を疑う質問が、美咲ちゃんから飛び出した。
「ちょっ、ちょちょちょ、なに言ってるの美咲ちゃん!? わ、私はおねしょなんて赤ちゃんの頃に卒業してるよ」
普段それほど声を荒げない私も、さすがに動揺を隠せず狼狽してしまう。
真に遺憾ながら、私の証言は嘘である。
萌恵ちゃんは知る由もないが、お恥ずかしながら……中学に上がってからもしばらくは、起きたら布団が冷たいということがたまにあった。
もちろん現在は完全に克服できている。そうでなければ、さすがの私も同居を断っていただろう。
「し、知らなかった。真菜にそんな過去があったなんて……」
やめて萌恵ちゃん、さも凄惨な事件を経験したみたいに言わないで。恥ずかしくて死んじゃう。
美咲ちゃんの『失言だった』と言わんばかりの申し訳なさそうな視線と、萌恵ちゃんのどこか微笑ましい物を見る目から逃げるように、私は窓の向こう側に広がる中庭の景色を眺めるのだった。
「し、仕方ないですよね、あはは。おっと、そろそろ休み時間が終わりますね。わたしは教室に戻ります。此木さん、これからよろしくお願いしますね。真菜さん、あの、本当にごめんなさいっ」
早口で一方的にまくし立て、美咲ちゃんは二組の教室へと姿を消す。
フォローが雑!
くっ、事前に口封じしておくべきだった。人生最大の汚点が、まさかこんな形で露呈するなんて。
「んふふっ、真~菜~♪」
あからさまなまでに、萌恵ちゃんがニヤニヤしている。
「萌恵ちゃん、あれは誰かが私を陥れるために仕組んだ罠だったんだよ」
「いやいや、それはないでしょ~。そんなに恥ずかしがることないって。かわいい思い出じゃん」
恥ずかしいよ。かわいくないよ。大好きな人に知られたくない黒歴史ランキングで堂々の一位だよ!
あぁ、穴を掘って埋まりたい。
「記憶を消す薬、どこかに売ってないかな」
「怖い怖い。せっかく真菜のことをまた一つ知れたんだから、消されると困るよ」
世の中には知らない方がいい事実もあるのだと、声を大にして主張したいところだ。
「――ねぇ、真菜」
不意に、強く抱きしめられた。
「ど、どうしたの?」
「よく分かんないけど、なんか胸がキュッて苦しくなったの。真菜の温もりを感じると紛れるから、もうちょっとだけこのまま……お願い」
「う、うん」
もしかして、妬いてくれてる?
巷の鈍感系主人公とは一線を画す私には分かる。
萌恵ちゃんはいま、嫉妬している!
ずっと片想いだと決め付けてたけど、実は相思相愛だったパターンだったのだ!
いまなら、告白しても――
「ふぅっ、スッキリした! 真菜、ありがと! あたしたちも教室に戻ろう!」
「ほへ? あ、う、うん、そうだね、そうしよう」
あまりに突然のことで、素っ頓狂な声を出してしまった。
ポカーンとしたまま立ち尽くし、萌恵ちゃんに手を引かれて足を進める。
「なんかさ、ご主人様の友達が遊びに来たときの飼い猫の気持ちが分かったよ。いつもと違う一面を知れて嬉しいけど、自分の方が仲よしなんだぞ~って嫉妬しちゃった」
「そ、そうなんだ」
嫉妬は嫉妬でも、私の予想とはベクトルが違ったらしい。
いや、嫌なわけじゃないよ? むしろ誇らしくさえある。
ただ、その、ねぇ?
鈍感系主人公とは違うとか息巻いてたけど、べつに鋭いわけじゃなくて、ただの勘違い女でしたってこと、だよね?
「んふふっ、次はあたしが美咲に真菜との思い出を話して羨ましがってもらうもんね~♪」
仲よくなれそうでなによりだ。
萌恵ちゃんがいいなら、家に招いて夜までおしゃべりするのも悪くない。
事の顛末だけ見ればいいこと尽くめなんだけどなぁ。
なんだろう、この、『後ろから声をかけられて振り向いたら自分に対してじゃなかった』って出来事の気恥ずかしさを何倍にも膨らませたような気持ち。
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