6 / 121
1章 私がガチなのは内緒である
6話 廊下での邂逅
しおりを挟む
世間というのは意外と狭いらしく、学校で思わぬ相手と遭遇した。
「あ、真菜さん。同じ学校だったんですね」
腰に届く黒髪、整った目鼻立ち、スラリと長い手足、そして壁を髣髴とさせる真っ平らな胸。
誰あろう私のいとこ、大原美咲。
休み時間に廊下で顔を合わせ、お互い驚いて足を止める。
「美咲ちゃん、久しぶり。すごい偶然だね」
彼女と話すのは数年ぶりだ。家が遠く、さほど親戚の集まりが多いわけでもないため、会う機会はもともと少なかった。
最後に見たときより大人びた雰囲気をまとっているけれど、面影はしっかりと残っているので見間違うはずもない。
相手からすれば、私だと判断するのは簡単極まりないだろう。髪の長さは同じぐらいでも、こちらは銀色。同い年の子と比べてけっこう背が低かったり、特徴は多い方だと思う。
「わたしは二組なんです。真菜さんは?」
「一組だよ。隣なのに、なんでいままで気付かなかったんだろうね」
「確かにそうですね。灯台下暗し、ってことなんでしょうか」
「ところで、なんで敬語なの? 久しぶりの再会だけど、同い年だし親戚なんだから普通に話してよ」
「あぁ、これは気にしないでください。ちょっとした事情があるんです」
「事情?」
気になって反射的に問い返してしまった。
言いたくない理由があるかもしれないのに、我ながら浅慮だったと反省する。
「お恥ずかしい話、わたしってかなりバカなんですよ。それで、常に敬語で話していれば多少は賢く見えるんじゃないかなって思いまして。どうです? 実際のところ、主席合格って言っても信じてもらえそうじゃないですか?」
「へぇ」
想像の斜め上を行くどうでもいい事情だった。
反省したのが間違いだったんじゃないかとすら思ってしまう。
「というわけで、わたしの言葉遣いは気にしないでください。取って付けた敬語ですから、たまにおかしなところもありますけど」
「うん、分かった」
努力の方向性を間違っているような気もするけど、指摘しないでおこう。
実際のところ、雰囲気だけは優等生然としている。べつに悪いことではないし、当人の目論見は成功しているのだから、周りがとやかく言うのは野暮というもの。と、勝手に納得しておく。
「真菜さんも自宅から通学してるんですか? ここからだとけっこう距離ありますよね?」
『も』ということは、美咲ちゃんは自宅通いなのだろう。彼女の家からだと自転車を使えばそんなに時間がかからないので、当然と言えば当然だ。
「近くのアパートで友達とルームシェア始めたんだ」
「いいですね、楽しそうです。またの機会に、そのお友達を紹介してくださいね」
「惚れないって約束するなら紹介してあげる」
「あはは、とても魅力的な人なんですね。大丈夫ですよ、真菜さんから奪うようなことはしません」
まさか美咲ちゃんも、私が本気で萌恵ちゃんに恋しているとは思うまい。
純粋に私の友達と話したいだけなんだろうけど、萌恵ちゃんを誰かに紹介するとなると否応なく警戒してしまう。
「あ、もう休み時間終わりだね」
一度目のチャイムが鳴った。五分後には授業開始を告げる二度目のチャイムが鳴る。
お手洗いから帰る途中でバッタリ会って立ち話をしていたら、思っていたより時間が経っていたらしい。
「では、またお話しましょうね」
と言って、美咲ちゃんは自分の教室に戻った。
背筋をピンと伸ばしてきれいな姿勢で歩く姿は、見事なまでに洗練されている。これも賢く見せるために意識しているのだとすれば、もはや一種のプロ根性だ。
それにしても、美咲ちゃんも同じ学校だったとは。
隣の組と合同の授業がいまのところまだ行われてないとはいえ、全然気が付かなかった。
萌恵ちゃんのことばかり考えすぎて、周りがあんまり見えていなかったらしい。
親戚だけど、新しい友達として数えてもいいのだろうか。
萌恵ちゃんを取られる心配もなさそうだし、一緒にご飯とかカラオケも行きたいな。
「真菜、おかえり!」
教室に戻るや否や、萌恵ちゃんがパァッと笑顔を咲かせて飛びついてきた。
甘い香りが鼻孔をくすぐり、柔らかな感触が胸に伝わる。
「ただいま」
私は萌恵ちゃんを受け止めながら、自然と微笑んでいた。
こうして触れ合うだけで、強烈な多幸感に包まれる。
萌恵ちゃんを愛する気持ちは自分でもドン引きするほど激しいのに、それでもなお日に日に強まって、未だ留まることを知らない。
「あ、真菜さん。同じ学校だったんですね」
腰に届く黒髪、整った目鼻立ち、スラリと長い手足、そして壁を髣髴とさせる真っ平らな胸。
誰あろう私のいとこ、大原美咲。
休み時間に廊下で顔を合わせ、お互い驚いて足を止める。
「美咲ちゃん、久しぶり。すごい偶然だね」
彼女と話すのは数年ぶりだ。家が遠く、さほど親戚の集まりが多いわけでもないため、会う機会はもともと少なかった。
最後に見たときより大人びた雰囲気をまとっているけれど、面影はしっかりと残っているので見間違うはずもない。
相手からすれば、私だと判断するのは簡単極まりないだろう。髪の長さは同じぐらいでも、こちらは銀色。同い年の子と比べてけっこう背が低かったり、特徴は多い方だと思う。
「わたしは二組なんです。真菜さんは?」
「一組だよ。隣なのに、なんでいままで気付かなかったんだろうね」
「確かにそうですね。灯台下暗し、ってことなんでしょうか」
「ところで、なんで敬語なの? 久しぶりの再会だけど、同い年だし親戚なんだから普通に話してよ」
「あぁ、これは気にしないでください。ちょっとした事情があるんです」
「事情?」
気になって反射的に問い返してしまった。
言いたくない理由があるかもしれないのに、我ながら浅慮だったと反省する。
「お恥ずかしい話、わたしってかなりバカなんですよ。それで、常に敬語で話していれば多少は賢く見えるんじゃないかなって思いまして。どうです? 実際のところ、主席合格って言っても信じてもらえそうじゃないですか?」
「へぇ」
想像の斜め上を行くどうでもいい事情だった。
反省したのが間違いだったんじゃないかとすら思ってしまう。
「というわけで、わたしの言葉遣いは気にしないでください。取って付けた敬語ですから、たまにおかしなところもありますけど」
「うん、分かった」
努力の方向性を間違っているような気もするけど、指摘しないでおこう。
実際のところ、雰囲気だけは優等生然としている。べつに悪いことではないし、当人の目論見は成功しているのだから、周りがとやかく言うのは野暮というもの。と、勝手に納得しておく。
「真菜さんも自宅から通学してるんですか? ここからだとけっこう距離ありますよね?」
『も』ということは、美咲ちゃんは自宅通いなのだろう。彼女の家からだと自転車を使えばそんなに時間がかからないので、当然と言えば当然だ。
「近くのアパートで友達とルームシェア始めたんだ」
「いいですね、楽しそうです。またの機会に、そのお友達を紹介してくださいね」
「惚れないって約束するなら紹介してあげる」
「あはは、とても魅力的な人なんですね。大丈夫ですよ、真菜さんから奪うようなことはしません」
まさか美咲ちゃんも、私が本気で萌恵ちゃんに恋しているとは思うまい。
純粋に私の友達と話したいだけなんだろうけど、萌恵ちゃんを誰かに紹介するとなると否応なく警戒してしまう。
「あ、もう休み時間終わりだね」
一度目のチャイムが鳴った。五分後には授業開始を告げる二度目のチャイムが鳴る。
お手洗いから帰る途中でバッタリ会って立ち話をしていたら、思っていたより時間が経っていたらしい。
「では、またお話しましょうね」
と言って、美咲ちゃんは自分の教室に戻った。
背筋をピンと伸ばしてきれいな姿勢で歩く姿は、見事なまでに洗練されている。これも賢く見せるために意識しているのだとすれば、もはや一種のプロ根性だ。
それにしても、美咲ちゃんも同じ学校だったとは。
隣の組と合同の授業がいまのところまだ行われてないとはいえ、全然気が付かなかった。
萌恵ちゃんのことばかり考えすぎて、周りがあんまり見えていなかったらしい。
親戚だけど、新しい友達として数えてもいいのだろうか。
萌恵ちゃんを取られる心配もなさそうだし、一緒にご飯とかカラオケも行きたいな。
「真菜、おかえり!」
教室に戻るや否や、萌恵ちゃんがパァッと笑顔を咲かせて飛びついてきた。
甘い香りが鼻孔をくすぐり、柔らかな感触が胸に伝わる。
「ただいま」
私は萌恵ちゃんを受け止めながら、自然と微笑んでいた。
こうして触れ合うだけで、強烈な多幸感に包まれる。
萌恵ちゃんを愛する気持ちは自分でもドン引きするほど激しいのに、それでもなお日に日に強まって、未だ留まることを知らない。
0
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!


犬猿の仲だけど一緒にいるのが当たり前な二人の話
ありきた
青春
犬山歌恋と猿川彩愛は、家族よりも長く同じ時間を過ごしてきた幼なじみ。
顔を合わせれば二言目にはケンカを始め、時には取っ組み合いにまで発展する。
そんな二人だが、絆の強さは比類ない。
ケンカップルの日常を描いた百合コメディです!
カクヨム、ノベルアップ+、小説家になろうにも掲載しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる