私がガチなのは内緒である

ありきた

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1章 私がガチなのは内緒である

6話 廊下での邂逅

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 世間というのは意外と狭いらしく、学校で思わぬ相手と遭遇した。

「あ、真菜さん。同じ学校だったんですね」

 腰に届く黒髪、整った目鼻立ち、スラリと長い手足、そして壁を髣髴とさせる真っ平らな胸。
 誰あろう私のいとこ、大原おおはら美咲みさき
 休み時間に廊下で顔を合わせ、お互い驚いて足を止める。

「美咲ちゃん、久しぶり。すごい偶然だね」

 彼女と話すのは数年ぶりだ。家が遠く、さほど親戚の集まりが多いわけでもないため、会う機会はもともと少なかった。
 最後に見たときより大人びた雰囲気をまとっているけれど、面影はしっかりと残っているので見間違うはずもない。
 相手からすれば、私だと判断するのは簡単極まりないだろう。髪の長さは同じぐらいでも、こちらは銀色。同い年の子と比べてけっこう背が低かったり、特徴は多い方だと思う。

「わたしは二組なんです。真菜さんは?」

「一組だよ。隣なのに、なんでいままで気付かなかったんだろうね」

「確かにそうですね。灯台下暗し、ってことなんでしょうか」

「ところで、なんで敬語なの? 久しぶりの再会だけど、同い年だし親戚なんだから普通に話してよ」

「あぁ、これは気にしないでください。ちょっとした事情があるんです」

「事情?」

 気になって反射的に問い返してしまった。
 言いたくない理由があるかもしれないのに、我ながら浅慮だったと反省する。

「お恥ずかしい話、わたしってかなりバカなんですよ。それで、常に敬語で話していれば多少は賢く見えるんじゃないかなって思いまして。どうです? 実際のところ、主席合格って言っても信じてもらえそうじゃないですか?」

「へぇ」

 想像の斜め上を行くどうでもいい事情だった。
 反省したのが間違いだったんじゃないかとすら思ってしまう。

「というわけで、わたしの言葉遣いは気にしないでください。取って付けた敬語ですから、たまにおかしなところもありますけど」

「うん、分かった」

 努力の方向性を間違っているような気もするけど、指摘しないでおこう。
 実際のところ、雰囲気だけは優等生然としている。べつに悪いことではないし、当人の目論見は成功しているのだから、周りがとやかく言うのは野暮というもの。と、勝手に納得しておく。

「真菜さんも自宅から通学してるんですか? ここからだとけっこう距離ありますよね?」

『も』ということは、美咲ちゃんは自宅通いなのだろう。彼女の家からだと自転車を使えばそんなに時間がかからないので、当然と言えば当然だ。

「近くのアパートで友達とルームシェア始めたんだ」

「いいですね、楽しそうです。またの機会に、そのお友達を紹介してくださいね」

「惚れないって約束するなら紹介してあげる」

「あはは、とても魅力的な人なんですね。大丈夫ですよ、真菜さんから奪うようなことはしません」

 まさか美咲ちゃんも、私が本気で萌恵ちゃんに恋しているとは思うまい。
 純粋に私の友達と話したいだけなんだろうけど、萌恵ちゃんを誰かに紹介するとなると否応なく警戒してしまう。

「あ、もう休み時間終わりだね」

 一度目のチャイムが鳴った。五分後には授業開始を告げる二度目のチャイムが鳴る。
 お手洗いから帰る途中でバッタリ会って立ち話をしていたら、思っていたより時間が経っていたらしい。

「では、またお話しましょうね」

 と言って、美咲ちゃんは自分の教室に戻った。
 背筋をピンと伸ばしてきれいな姿勢で歩く姿は、見事なまでに洗練されている。これも賢く見せるために意識しているのだとすれば、もはや一種のプロ根性だ。
 それにしても、美咲ちゃんも同じ学校だったとは。
 隣の組と合同の授業がいまのところまだ行われてないとはいえ、全然気が付かなかった。
 萌恵ちゃんのことばかり考えすぎて、周りがあんまり見えていなかったらしい。
 親戚だけど、新しい友達として数えてもいいのだろうか。
 萌恵ちゃんを取られる心配もなさそうだし、一緒にご飯とかカラオケも行きたいな。

「真菜、おかえり!」

 教室に戻るや否や、萌恵ちゃんがパァッと笑顔を咲かせて飛びついてきた。
 甘い香りが鼻孔をくすぐり、柔らかな感触が胸に伝わる。

「ただいま」

 私は萌恵ちゃんを受け止めながら、自然と微笑んでいた。
 こうして触れ合うだけで、強烈な多幸感に包まれる。
 萌恵ちゃんを愛する気持ちは自分でもドン引きするほど激しいのに、それでもなお日に日に強まって、未だ留まることを知らない。
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