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5話 おしゃべり好き
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しばらく歩いたところに町があるらしく、私たちはそこを目指して歩いている。
「レーナ、泣いて喜ぶのです。この世界について無知な貴様に、我がいろいろと教えてあげるのです」
言い方はちょっと恩着せがましいけど、ありがたい申し出だ。
パアルちゃんに召喚されて異世界に来て、ハッタリが想像以上に効いて魔王の力をもらった。魔王の力がすごいことは感覚的に理解できているけど、【ファイア】の件があるように実際の威力までは把握できていない。
とまぁ、自分の身に起こったことでさえ漠然としか分かっていないのだから、この世界をよく知るパアルちゃんに情報を提供してもらえるのは渡りに船と言える。
「ありがとう、助かるよ」
「ふふんっ。どうしても感謝を行動で示したいと言うなら、ひれ伏して我の足を舐めてもいいのです」
「そんなことより、早くこの世界について教えてほしいな」
「うぐっ、わ、分かったのです」
私がためらいなく受け流したからか、パアルちゃんは少し不満気だった。
確かに感謝はしているけど、さすがに足を舐めようとは思わない。
「この世界はすご~く広くて、山とか海とか、自然がいっぱいなのです。魔物が少ない地域には村や町があって、ここからだと遠いけど王国とか帝国って呼ばれてる場所もあるのです」
「なるほど」
魔法や魔物の存在はともかく、元の世界とそれほど目立った違いはないのかな?
難しい専門用語を一気に並べられても覚えられないから、パアルちゃんのざっくりとした説明は呑み込みやすくていい。
「ちなみに、この辺りは神話の時代に神々が争いを繰り広げた場所なのです。我が貴様を召喚したのは、その中心地点にあたるのです」
「へぇ、そうなんだ。わざわざ中心地点を選んだってことは、召喚の成功率とかが上がったりするの?」
神々の争いという言葉が歴史的な事件感覚で使われているあたり、さすが異世界だと感じさせられる。
「違うのです。ただなんとなく、この辺で召喚魔法を使ったら雰囲気出るかなーって思っただけなのです。我は大天才だから、どこでどんな魔法を使っても必ず成功するのです」
ふふんっ、とパアルちゃんは誇らしげに鼻を鳴らす。
思ってたよりくだらない理由だったので、私は愛想笑いを返すことしかできない。
「魔王軍だって、我の強さに惹かれた人間や魔物が集まって出来たのです。だから、仲間外れにされるなんて思ってなかったのです……」
「パアルちゃん。これからは私がずっと一緒にいるし、つらい経験は楽しいことで上書きしていこうよ」
「レーナは呆れるぐらい前向きなのです」
自分でもそう思う。でも、決して悪いことではない。もしネガティブな性格だったら、今頃まともな精神状態ではいられなかっただろう。
「ところで、貴様は嫌いな食べ物とかあるのです?」
「好き嫌い以前に、この世界にどんな食べ物があるのか知らないんだよね」
「炎竜フレイリュードの尻尾は珍味だから、ぜひ食べるのです。すごくおいしくて、我も大好きなのです」
「炎竜って、人が食べても大丈夫なの? 逆に食べられたりしない?」
「魔王の力があれば平気なのです。ただ、怒らせると周辺を溶岩地帯にされるのです。気付かれないように尻尾を切断して、ササッと退散するのです」
なにそれ怖い。
「パアルちゃんは何度か食べたことあるの?」
「たまに食べるのです。濃厚でありながらサッパリとした後味で、いくらでも食べられるのです。薄く切って軽く炙ると、脂がほどよく溶けて最高なのです。想像しただけでよだれが溢れるのです。じゅるり」
パアルちゃんの口ぶりから察するに、想像を絶する美味なのだろう。機会があればぜひ食べてみたい。
その後も彼女は絶え間なく、おいしい食べ物や村の近くに出没する魔物の話などを聞かせてくれた。
途中から説明というより雑談になり、相槌や単純な質問を返すだけだった私の口数もどんどん増えていく。
どうやらパアルちゃんも私と同じく、おしゃべりするのが好きらしい。
今後どんな生活を送ることになるかはまだ分からないけど、退屈とは無縁の時間を過ごせそうだ。
「レーナ、泣いて喜ぶのです。この世界について無知な貴様に、我がいろいろと教えてあげるのです」
言い方はちょっと恩着せがましいけど、ありがたい申し出だ。
パアルちゃんに召喚されて異世界に来て、ハッタリが想像以上に効いて魔王の力をもらった。魔王の力がすごいことは感覚的に理解できているけど、【ファイア】の件があるように実際の威力までは把握できていない。
とまぁ、自分の身に起こったことでさえ漠然としか分かっていないのだから、この世界をよく知るパアルちゃんに情報を提供してもらえるのは渡りに船と言える。
「ありがとう、助かるよ」
「ふふんっ。どうしても感謝を行動で示したいと言うなら、ひれ伏して我の足を舐めてもいいのです」
「そんなことより、早くこの世界について教えてほしいな」
「うぐっ、わ、分かったのです」
私がためらいなく受け流したからか、パアルちゃんは少し不満気だった。
確かに感謝はしているけど、さすがに足を舐めようとは思わない。
「この世界はすご~く広くて、山とか海とか、自然がいっぱいなのです。魔物が少ない地域には村や町があって、ここからだと遠いけど王国とか帝国って呼ばれてる場所もあるのです」
「なるほど」
魔法や魔物の存在はともかく、元の世界とそれほど目立った違いはないのかな?
難しい専門用語を一気に並べられても覚えられないから、パアルちゃんのざっくりとした説明は呑み込みやすくていい。
「ちなみに、この辺りは神話の時代に神々が争いを繰り広げた場所なのです。我が貴様を召喚したのは、その中心地点にあたるのです」
「へぇ、そうなんだ。わざわざ中心地点を選んだってことは、召喚の成功率とかが上がったりするの?」
神々の争いという言葉が歴史的な事件感覚で使われているあたり、さすが異世界だと感じさせられる。
「違うのです。ただなんとなく、この辺で召喚魔法を使ったら雰囲気出るかなーって思っただけなのです。我は大天才だから、どこでどんな魔法を使っても必ず成功するのです」
ふふんっ、とパアルちゃんは誇らしげに鼻を鳴らす。
思ってたよりくだらない理由だったので、私は愛想笑いを返すことしかできない。
「魔王軍だって、我の強さに惹かれた人間や魔物が集まって出来たのです。だから、仲間外れにされるなんて思ってなかったのです……」
「パアルちゃん。これからは私がずっと一緒にいるし、つらい経験は楽しいことで上書きしていこうよ」
「レーナは呆れるぐらい前向きなのです」
自分でもそう思う。でも、決して悪いことではない。もしネガティブな性格だったら、今頃まともな精神状態ではいられなかっただろう。
「ところで、貴様は嫌いな食べ物とかあるのです?」
「好き嫌い以前に、この世界にどんな食べ物があるのか知らないんだよね」
「炎竜フレイリュードの尻尾は珍味だから、ぜひ食べるのです。すごくおいしくて、我も大好きなのです」
「炎竜って、人が食べても大丈夫なの? 逆に食べられたりしない?」
「魔王の力があれば平気なのです。ただ、怒らせると周辺を溶岩地帯にされるのです。気付かれないように尻尾を切断して、ササッと退散するのです」
なにそれ怖い。
「パアルちゃんは何度か食べたことあるの?」
「たまに食べるのです。濃厚でありながらサッパリとした後味で、いくらでも食べられるのです。薄く切って軽く炙ると、脂がほどよく溶けて最高なのです。想像しただけでよだれが溢れるのです。じゅるり」
パアルちゃんの口ぶりから察するに、想像を絶する美味なのだろう。機会があればぜひ食べてみたい。
その後も彼女は絶え間なく、おいしい食べ物や村の近くに出没する魔物の話などを聞かせてくれた。
途中から説明というより雑談になり、相槌や単純な質問を返すだけだった私の口数もどんどん増えていく。
どうやらパアルちゃんも私と同じく、おしゃべりするのが好きらしい。
今後どんな生活を送ることになるかはまだ分からないけど、退屈とは無縁の時間を過ごせそうだ。
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