32 / 67
32話 ひたすらイチャイチャしてみる①
しおりを挟む
今日も今日とて、彩愛先輩の爆音アラームによって目が覚めた。
布団を跳ね除けるように起き上がり、いつも通り隣人を叩き起こすべく窓を開けて身を乗り出す。
と、ここで大事なことを思い出し、深呼吸をして半ば強引に怒りを心の奥へと押し込む。
ケンカしそうになったら、一旦怒りを堪えて抱きしめる。
二人で相談して決めたばかりだというのに、いきなり反故にするわけにはいかない。
この場で抱擁や握手はできないので、とりあえず穏便に彩愛先輩を起こすとしよう。
「彩愛先輩、起きてください。もう朝ですよ。早く起きてイチャイチャしましょう」
怒りを堪えようとする意識が過度に働き、穏やかな口調を通り越して猫なで声を出してしまった。
黒歴史の一つとして数えられる程度には、普段とかけ離れた声色になっている。
強烈な羞恥に顔が熱くなるのを感じながら、私はコンコンコンコンとノックを高速で繰り返す。
「ふあぁ~……んん、歌恋、おはよ」
大きなあくびを漏らしつつ、彩愛先輩が窓を開けて姿を現す。
両者とも窓際にベッドがあることにより少し動くだけで顔を合わせられるというのは、恋人関係になったいま、改めてありがたいと思う。
「おはようございます。殴りに――じゃなかった。抱きしめに行ってもいいですか?」
「んー、いいわよ」
眠そうに目を瞬かせる彩愛先輩に許可を貰い、私は窓を伝って向かいの部屋に移動する。
ベッドの上に降り立ち、腰を下ろすと同時に彩愛先輩の背中に腕を回した。
ふわりと香るシャンプーの匂いや華奢な体の温もりを零距離で感じ取り、愛する人を腕に抱いているという幸福感も相俟って、先ほどまでの怒りはあっという間に消え去った。
彩愛先輩も私のことをギュッと抱きしめてくれて、昨日まで毎朝のように殴り合っていたのが嘘のようだ。
「この方法、思った以上に効果的ですね」
「……ん、そうね」
「まだ眠いんですか?」
「いや、そうじゃなくて……む、胸が、その、当たって……」
「ハグしてるんだから当たるに決まってるじゃないですか」
「そうだけど、どうしてもドキドキしちゃうのよ! 察しなさいよ!」
いま私たちはお互いに相手の肩にあごを預けている状態なので、彩愛先輩の特徴的なアニメ声が至近距離から私の鼓膜を攻撃した。
「数え切れないぐらい私の胸を揉んでるくせに、なにをいまさら」
「確かにそれもそうだけど、イタズラとかその場のノリで揉むのとは違うっていうか、こうしてる間にも変な気持ちになってきたというか……」
後半になるにつれて段々と小声になり、ごにょごにょとつぶやく彩愛先輩。
「この調子だと、これからいろいろ大変そうですね」
「否定できないわね。歌恋はあたしと密着してても、なにも感じないの?」
「尋常じゃないほどの幸せを感じてますよ」
不安気に訊ねられたので、ハッキリと本音で答える。
けっこう大胆なことを言ってしまったと気付き、照れ臭いのを紛らわせるために腕の力を強めた。
「そっか……よかったっ」
彩愛先輩はとても嬉しそうな声でそう言い、私と張り合うように腕に力を込める。
後になって思い返せば間違いなく赤面するような甘い触れ合い。
どうせ照れて悶絶するのなら、いまは時間の許す限り、このまま抱き合っていよう。
布団を跳ね除けるように起き上がり、いつも通り隣人を叩き起こすべく窓を開けて身を乗り出す。
と、ここで大事なことを思い出し、深呼吸をして半ば強引に怒りを心の奥へと押し込む。
ケンカしそうになったら、一旦怒りを堪えて抱きしめる。
二人で相談して決めたばかりだというのに、いきなり反故にするわけにはいかない。
この場で抱擁や握手はできないので、とりあえず穏便に彩愛先輩を起こすとしよう。
「彩愛先輩、起きてください。もう朝ですよ。早く起きてイチャイチャしましょう」
怒りを堪えようとする意識が過度に働き、穏やかな口調を通り越して猫なで声を出してしまった。
黒歴史の一つとして数えられる程度には、普段とかけ離れた声色になっている。
強烈な羞恥に顔が熱くなるのを感じながら、私はコンコンコンコンとノックを高速で繰り返す。
「ふあぁ~……んん、歌恋、おはよ」
大きなあくびを漏らしつつ、彩愛先輩が窓を開けて姿を現す。
両者とも窓際にベッドがあることにより少し動くだけで顔を合わせられるというのは、恋人関係になったいま、改めてありがたいと思う。
「おはようございます。殴りに――じゃなかった。抱きしめに行ってもいいですか?」
「んー、いいわよ」
眠そうに目を瞬かせる彩愛先輩に許可を貰い、私は窓を伝って向かいの部屋に移動する。
ベッドの上に降り立ち、腰を下ろすと同時に彩愛先輩の背中に腕を回した。
ふわりと香るシャンプーの匂いや華奢な体の温もりを零距離で感じ取り、愛する人を腕に抱いているという幸福感も相俟って、先ほどまでの怒りはあっという間に消え去った。
彩愛先輩も私のことをギュッと抱きしめてくれて、昨日まで毎朝のように殴り合っていたのが嘘のようだ。
「この方法、思った以上に効果的ですね」
「……ん、そうね」
「まだ眠いんですか?」
「いや、そうじゃなくて……む、胸が、その、当たって……」
「ハグしてるんだから当たるに決まってるじゃないですか」
「そうだけど、どうしてもドキドキしちゃうのよ! 察しなさいよ!」
いま私たちはお互いに相手の肩にあごを預けている状態なので、彩愛先輩の特徴的なアニメ声が至近距離から私の鼓膜を攻撃した。
「数え切れないぐらい私の胸を揉んでるくせに、なにをいまさら」
「確かにそれもそうだけど、イタズラとかその場のノリで揉むのとは違うっていうか、こうしてる間にも変な気持ちになってきたというか……」
後半になるにつれて段々と小声になり、ごにょごにょとつぶやく彩愛先輩。
「この調子だと、これからいろいろ大変そうですね」
「否定できないわね。歌恋はあたしと密着してても、なにも感じないの?」
「尋常じゃないほどの幸せを感じてますよ」
不安気に訊ねられたので、ハッキリと本音で答える。
けっこう大胆なことを言ってしまったと気付き、照れ臭いのを紛らわせるために腕の力を強めた。
「そっか……よかったっ」
彩愛先輩はとても嬉しそうな声でそう言い、私と張り合うように腕に力を込める。
後になって思い返せば間違いなく赤面するような甘い触れ合い。
どうせ照れて悶絶するのなら、いまは時間の許す限り、このまま抱き合っていよう。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~
みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。
ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。
※この作品は別サイトにも掲載しています。
※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
【完結まで毎日更新】籐球ミットラパープ
四国ユキ
青春
主人公・阿河彩夏(あがわあやか)は高校入学と同時にセパタクロー部から熱烈な勧誘を受ける。セパタクローとはマイナースポーツの一種で、端的に言うと腕を使わないバレーボールだ。
彩夏は見学に行った時には入部する気はさらさらなかったが、同級生で部員の千屋唯(せんやゆい)の傲慢で尊大な態度が気に食わず、売り言葉に買い言葉で入部してしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる