上 下
23 / 67

23話 気のせいだと思いたかったけど

しおりを挟む
 三限目の英語で小テストが行われ、解答と見直しを終えた私は、授業とまったく無関係なことに頭を悩ませている。

 悩みの種は、先日の勘違い。

 彩愛先輩への、好意について。

 物心つく前から姉妹同然に育ち、年月を経て天敵としての関係性を築くこととなった。

 友愛を抱くのは必然と言っても過言ではなく、照れ臭くて口にしないだけで私も彩愛先輩も自覚している。

 だけど……私は彩愛先輩に対して、姉妹愛や友情だけでなく、恋愛感情を持っているのかもしれない。

 この間は酷い目に遭わされたせいで気のせいだと結論付けたけど、考えれば考えるほどに、その結論が間違っているんじゃないかと思ってしまう。

 私に負けて悔しがる彩愛先輩を眺めるのは楽しいけど、一番見たいのは笑顔だ。

 友達に興味本位で胸を触られると少しだけ不快感があるのに、彩愛先輩が相手だと表面上では拒みつつも嫌だとは感じない。

 どんなに不安な時でも彩愛先輩が一緒なら安心できるし、どこへ行っても彩愛先輩が隣にいてくれるだけで心から楽しめる。

 こうしてみると、思い当たる節しかないなぁ……。

 いやいや、だからと言ってあっさり認めるのは早計すぎる。

 確信するに足る材料を得るまでは、あくまで一時的な思い込みという認識のままでいよう。

***

 放課後になるといつも通り彩愛先輩と共に学校を出て、他愛ないことを話しながら家路を歩く。


「歌恋、もしかしてまだお腹の調子悪いの?」


「そんなことないですよ」


 激辛ハンバーグによるダメージは、もう完全に癒えた。

 あまり上品な話ではないけど、会話の途中に慌ててトイレに駆け込むようなことにはならない。


「ならいいわ。思い詰めた表情って言うと大げさかもしれないけど、なんとなく苦しそうだったから気になったのよ」


「ありがとうございます。私は至って健康ですから、心配しないでください」


「あたしたちの仲なんだから、恥ずかしい悩みでも遠慮せず相談しなさいよね。まぁ、胸が大きすぎてつらいって話だったら容赦しないけど」


「後半がなければ普通に頼もしい先輩だったのに、つくづく残念な人ですね」


 呆れながらも、嬉しくて頬が緩む。

 あぁ、ダメだ。

 確信してしまった。

この上なくハッキリと……彩愛先輩への好意を、自覚してしまった。

 もしかしたらずっと前から好きで、毎日一緒に過ごしているから気付くのが遅れたのかもしれない。

 もちろん、徐々に思いが募って最近ようやく恋愛感情に変わった可能性もある。

 どちらにしても、いま私が抱いているこの感情に、疑いの余地は一切ない。


「あんた顔赤いわよ。ホントに大丈夫?」


「大丈夫です。なんなら家まで競走してもいいですよ」


 不敵な笑みを浮かべて挑発すると、彩愛先輩は「望むところよ!」と元気よく応じた。

 いまは恋愛に興味がないとしても、必ず振り向かせてみせる。

 固い決意を胸に、私は全力で駆け出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

処理中です...