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9話 誰がなんと言おうと夫婦ではない
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昼休み。教室で友達と一緒にお弁当を食べた後、のどが渇いたので「ちょっと飲み物買って来るね」と言って購買へ向かう。
事前に買っておけばよかったと後悔しつつ、走っているとみなされない程度の早足で廊下を歩く。
下駄箱で靴を履き替え、昇降口を抜けて校舎沿いに体育館の方へと進み、チア部が練習に使っているちょっとした広場を曲がれば、購買とその手前にある自販機が見える。
「「あっ」」
自販機の前に立つと同時に、私とは違う方向から来た生徒と鉢合わせた。
制服を着ていなければ小学生と間違えそうなほど小柄で、太陽の光を浴びてキラキラと輝く黄金の髪が印象的な――まぁ要するに彩愛先輩だ。
「奇遇ですね。すぐに買いますから少し待っててください」
「いやいや、こっちこそすぐに買うから、あんたが少し待ちなさい」
「私が先に買うんです!」
「あたしが先に買うの!」
「……引く気は、ないみたいですね」
「当り前よ」
「だったら――」
「じゃんけんで――」
「「勝負! 最初はグー、じゃんけんぽん!」」
以降、あいこが二十回ほど続いた。
じゃんけんでの決着は無理だと判断し、醜い言い争いが再開してしまう。
「彩愛先輩、今日は大きな水筒持って来てたじゃないですか! 私の方がのど乾いてるんですから先に買わせてくださいよ!」
「それを言うなら、歌恋は朝ごはんのときにあたしよりたくさんお茶を飲んでたじゃない! あたしの方がのど乾いてるんだから先に買わせなさいよ!」
両者ともに一歩も譲る気はなく、いまにも取っ組み合いが始まりそうな剣幕で言葉をぶつけ合う。
そんな中、不意に背後から足音が聞こえてきた。
二人して振り向くと、そこには私と一緒にお弁当を食べていた友人の姿が。
「お二人さん、夫婦ゲンカは二人きりのときだけにしてくださいねー」
呆れ顔でそう言いもって、購買の中へと入っていく。当然と言えば当然だけど、なにか買う物があるらしい。
「「夫婦じゃないからっ!」」
忌々しいことに、タイミングも内容も完璧に被ってしまった。
女の子同士なのに『夫』という字を使うのはいかがなものかと――って、そういう話ではなく。
ケンカしているのは事実だけど、夫婦扱いは断固として認められない。
心からの抗議も虚しく、友人はすでに視界から消えてしまった。
「ふぅ……これ以上騒いでも時間の無駄ですね。今回は彩愛先輩に順番を譲ってあげます。先輩に気を遣える優しい後輩に感謝してください」
「歌恋の友達が通りがからなかったらいまでも騒いでたと思うから、あの子に免じてあんたに譲ってあげるわよ。後輩想いの優しい先輩に感謝しなさい」
「いやいや、私が後でいいですよ」
「あたしの方こそ、後でいいわよ」
「だから、彩愛先輩が先に買っていいって言ってるじゃないですか!」
「だから、あたしは歌恋が先でいいって言ってんのよ!」
「――消しゴム買ったから、先に帰るねー。早くしないと昼休み終わっちゃうよー。」
購買から出てきた友人が、私の肩をポンと叩く。
のんびりした口調で告げながら、スタスタと校舎の方へと向かった。
「余計な時間を使っちゃいましたね」
「そうね、せっかくの昼休みなのに」
「それじゃあ、お言葉に甘えて先に買わせてもらいます」
「悪いけど、二年の教室の方が遠いからあたしが先に買うわ」
「「……っ!」」
それから私たちはチャイムが鳴るまで口論を繰り広げ、五限目の休み時間にも同じようなやり取りを交わし、結局放課後になるまで飲み物を買えなかった。
事前に買っておけばよかったと後悔しつつ、走っているとみなされない程度の早足で廊下を歩く。
下駄箱で靴を履き替え、昇降口を抜けて校舎沿いに体育館の方へと進み、チア部が練習に使っているちょっとした広場を曲がれば、購買とその手前にある自販機が見える。
「「あっ」」
自販機の前に立つと同時に、私とは違う方向から来た生徒と鉢合わせた。
制服を着ていなければ小学生と間違えそうなほど小柄で、太陽の光を浴びてキラキラと輝く黄金の髪が印象的な――まぁ要するに彩愛先輩だ。
「奇遇ですね。すぐに買いますから少し待っててください」
「いやいや、こっちこそすぐに買うから、あんたが少し待ちなさい」
「私が先に買うんです!」
「あたしが先に買うの!」
「……引く気は、ないみたいですね」
「当り前よ」
「だったら――」
「じゃんけんで――」
「「勝負! 最初はグー、じゃんけんぽん!」」
以降、あいこが二十回ほど続いた。
じゃんけんでの決着は無理だと判断し、醜い言い争いが再開してしまう。
「彩愛先輩、今日は大きな水筒持って来てたじゃないですか! 私の方がのど乾いてるんですから先に買わせてくださいよ!」
「それを言うなら、歌恋は朝ごはんのときにあたしよりたくさんお茶を飲んでたじゃない! あたしの方がのど乾いてるんだから先に買わせなさいよ!」
両者ともに一歩も譲る気はなく、いまにも取っ組み合いが始まりそうな剣幕で言葉をぶつけ合う。
そんな中、不意に背後から足音が聞こえてきた。
二人して振り向くと、そこには私と一緒にお弁当を食べていた友人の姿が。
「お二人さん、夫婦ゲンカは二人きりのときだけにしてくださいねー」
呆れ顔でそう言いもって、購買の中へと入っていく。当然と言えば当然だけど、なにか買う物があるらしい。
「「夫婦じゃないからっ!」」
忌々しいことに、タイミングも内容も完璧に被ってしまった。
女の子同士なのに『夫』という字を使うのはいかがなものかと――って、そういう話ではなく。
ケンカしているのは事実だけど、夫婦扱いは断固として認められない。
心からの抗議も虚しく、友人はすでに視界から消えてしまった。
「ふぅ……これ以上騒いでも時間の無駄ですね。今回は彩愛先輩に順番を譲ってあげます。先輩に気を遣える優しい後輩に感謝してください」
「歌恋の友達が通りがからなかったらいまでも騒いでたと思うから、あの子に免じてあんたに譲ってあげるわよ。後輩想いの優しい先輩に感謝しなさい」
「いやいや、私が後でいいですよ」
「あたしの方こそ、後でいいわよ」
「だから、彩愛先輩が先に買っていいって言ってるじゃないですか!」
「だから、あたしは歌恋が先でいいって言ってんのよ!」
「――消しゴム買ったから、先に帰るねー。早くしないと昼休み終わっちゃうよー。」
購買から出てきた友人が、私の肩をポンと叩く。
のんびりした口調で告げながら、スタスタと校舎の方へと向かった。
「余計な時間を使っちゃいましたね」
「そうね、せっかくの昼休みなのに」
「それじゃあ、お言葉に甘えて先に買わせてもらいます」
「悪いけど、二年の教室の方が遠いからあたしが先に買うわ」
「「……っ!」」
それから私たちはチャイムが鳴るまで口論を繰り広げ、五限目の休み時間にも同じようなやり取りを交わし、結局放課後になるまで飲み物を買えなかった。
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