蛇と刺青 〜対価の交わりに堕ちていく〜

寺原しんまる

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最終話

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 春になり鈴子の刺青がようやく完成した。鏡に映る自分の姿を見た鈴子は何かに気がつく。少し確認の為に考え込んだ鈴子だったが、ジェイの顔を見ながらゆっくりと口を開ける。


「ねえ、これってジェイの刺青と……」

「そうだ、対になっている……。よく分かったなあ」

「ふふふ、だって毎日見てるでしょ……。ジェイの裸は……」


 ジェイの黒い蛇の刺青と鈴子の白い蛇の刺青は対になっており、身体を重ね合わせると、互いの身体を交差するように蛇が絡まっているのだ。身体が交わり激しい行為をすればするほどに、互いの身体を二匹の蛇が締め上げるようになっている。


「贖罪の為に刺青を身体に刻んだお前はこれでどう変わる?前と今で何か変わったか?」


 暫く黙った鈴子はフーッと息を吐いてから「……何も」と呟く。


「私は自分を傷つける事が課長の家庭を壊した事への懺悔であり、多分……、同時に母から否定された私自身の存在意義を見いだそうとしていたと思う。刺青を入れれば何か変われるんじゃないかって。けどそうじゃなかった……。刺青があろうとなかろうと、私はわたし……」


「再生、永遠……。蛇にはそんな意味があるんだ」


 ジェイは師匠の言葉を呟く。その目は真剣に鈴子を見つめていた。


 鈴子が見上げるジェイの姿は、金髪で碧眼。もう髪を黒く染めることを止めていた。痛々しい無数のピアスも数が減り、全体的に柔らかな雰囲気を漂わせている。もちろん身体中の刺青はそのままだが、周りを威嚇するようなオーラは出ていない。


  スッと鈴子の手を取り手の甲にキスをするジェイは、優しく微笑みながら鈴子に語りかける。


「俺と結婚してくれないか? 鈴子と永遠に時を刻みたい……。身体が朽ちても一緒に……」


 鈴子の頬をスーッと伝う涙は、止めどなく次から次へと流れてきて、あっという間に鈴子の顔をクシャクシャにしていた。嗚咽で呼吸もままならない鈴子は声を上げて泣いている。


「何だよ……。泣いてちゃわかんないだろ……? 鈴子……」


 鈴子の涙をペロペロと舐めるジェイ。鈴子は一頻り泣いた後に口を開く。


「……はい」


 満面な笑顔のジェイは鈴子を抱き上げてグルグルと回り出す。鈴子は「きゃー」と驚くが満更でもない顔でジェイに振り回されるのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 数年後


 鈴子は無事に専門学校を卒業してパタンナーとなり、大阪にあるアパレルのデザイン事務所に勤めている。背中の刺青は社長であるデザイナーも了承しており、むしろ「結婚指輪の代わりに刺青なんて素敵!」と感動している姿は、流石に売れっ子デザイナーだなと鈴子は感心する。


 季節のコレクション前後は怒濤の忙しさで、泊まり込みも多かったが、鈴子は仕事に生きがいを持っており、毎日が充実しているのだった。


 ジェイはタトゥーショップと通販でシルバーアクセサリーの販売をしていた。ジェイのデザインしたアクセサリーを、有名ミュージシャンが着用した為に世間で話題になり、最近ではアクセサリー販売が本業になりつつあった。


 大人の玩具作りも好評で、そちらの依頼も大量に舞い込んでいた。美形な男の作るそれらの道具は、女性からも好評で、某有名女性週刊誌にも紹介されたのだった。昔からの常連からの依頼も続いている。


「俺は彫り師は辞めない。これは師匠から受け継いだものだからな……」


 手彫りの道具を手入れするジェイは、愛おしそうに道具を見つめていた。それを側で見ている鈴子は「やめることないよ……」とジェイに声を掛けていた。


「鈴子、体調は良いのか? 今日は飯は食べれそうか?」


 鈴子を優しく見つめて気遣うジェイは、鈴子の少し大きなお腹を、とても愛おしそうに摩る。鈴子の額にキスをしたジェイは、そのまま壊れ物を扱うように鈴子を抱きしめる。


 鈴子とジェイの左手の薬指には同じデザインで、黒と白の二匹の蛇を使ったウロボロスが彫られていた。


「うん……。今日は悪阻もないみたい。ねえ、ジェイのナポリタンが食べたい」


 鈴子は自身のお腹を優しく撫でながら、ジェイに微笑みかけていた。


「分かった。今から作ってやるよ。鈴子は二人分食べないといけないからな!」


 何かに気がついたジェイが鈴子をニヤッと笑って見つめる。その様子を見て何かを感じた鈴子は「ダメダメ」と首を横に振るのだ。


「調子が良いってことは、セックスも出来るって事だよな?医者が言ってただろ?激しくなければセックスしても良いって!」

「駄目……。激しくないエッチなんてジェイが出来るわけないじゃん!私が立てなくなるまで攻めてくるし!安定期でも駄目なの!」


 グーゥッと何かを我慢するような表情のジェイは、鈴子の耳元で「優しくするからさ……。何度も優しく絶頂を与えてやる」と色気のある声で呟く。その声だけでドクンと身体が熱くなる鈴子は、「……もう」と返しながらジェイに抱きついた。
                    

「じゃあ、行こうか……」


 見つめ合う二人は幸せそうに前を見て進んで行くのだった。


 ー The End ー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

最後までお読みいただきありがとうございました。
本編はこれで完結ですが、不定期で番外編を投稿する予定です。

最初の番外編は6/20と21の朝の7時ごろに投稿いたします。

よろしくお願いします。
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