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ジェイの生い立ち
しおりを挟む「母さんは、横浜の米軍基地内のレストランで働いていたんだ。見かけは派手な人だったが根は真面目な人だった。黒髪ロングの髪型をエキゾチックだと喜ぶ軍人は多かったらしい。そんな時に、おれの父親に目を付けられたんだ」
フーと大きく息を吐いたジェイが続ける。
「奴は母さんをつけ回してしつこく迫ったそうだ。しかもレイプまがいで母さんをモノにしたって……。母さんを愛人のように扱い、日本に滞在中は母さんを好きなようにしていたんだ。自分の私腹を肥やすために、他の軍人相手に母さんを売春させていたって聞いたよ」
「そ、そんな……。酷い」
ハハハと笑うジェイは、笑いながら鈴子に告げる。
「そんな酷い扱いをされても、母さんは奴を愛していたんだ。この人には自分しかいないって……。馬鹿だよ。結局は、俺を妊娠してしまったんだ。妊娠出産しても売春は続けさせられていた。けど売春のことが上層部にバレて、本国に妻子のいる奴は、母さんを捨てて逃げ帰ったってさ。それまで奴が既婚者だと知らなかった母さんは、自分が騙されて、いいように遊ばれたことにようやく気が付いた」
それを聞いた鈴子は絶句する。ジェイの父親はジェイの母親とジェイを捨てたのだ。
「俺は母さんには全く似ていない。母さんを捨てたアイツの生き写しだそうだよ」
室内の姿見に映る自分の姿を恨めしく見つめるジェイ。ジェイは自分の容姿が嫌いなのだろう。だから髪の色を変えてピアスを施し、身体中に刺青を入れている。少しでも元の自分が見えなくなるようにと……。
「奴に捨てられた母さんは感情の起伏が激しくなってね。良いときは写真の中のように俺に優しかったけど、悪いときは酷く暴力を振るわれたよ。自分を捨てた男にそっくりな俺が憎かったみたいだ」
寂しそうに語るジェイだったが、少し声色が変わってくる。
「そんなある日、おかしくなった母さんは自分で命を絶ったんだ。その時。俺はまだ幼かった。俺は施設に引き取られて中学卒業まで施設暮らしだったよ……」
その時ジェイの青い瞳が、深く濁った色に変化したように鈴子は錯覚した。
「知ってるか? 施設っていうのは酷いところでな。皆、悲惨な生い立ちだから、自分より酷い奴を見つけては虐めてくるんだ。自分の自尊心を保つために……。俺は外見は西洋人だったから、格好の餌食になったさ。自分たちと明らかに違う人種が、施設内にいるんだからな……」
鈴子は黙って聞くしかなかった。簡単に口を挟めるような内容ではないからだ。そんな鈴子を見て、フッと笑うジェイは、話を続けていく。
「俺は英語が話せない。こんな見かけなのにだ。 何故かわかるか? 英語は話せたんだ、昔は。けど、英語を話そうとすると、声が出なくなるんだよ……。昔の日々を思い出してな」
その発言だけで、ジェイがどれだけ過酷な少年時代を過ごしたのか想像できる。鈴子は目から溢れそうな涙をグッと堪えるのだった。
「でもな、人間って面白い生き物だぞ。俺が成長するにつれて身体が大きくなり、見てくれも良くなると、みんな手のひらを返すんだ。施設で俺を虐めていた奴らは、みんな何もしてこなくなった。まあ、一番は俺が外でヤバイ不良とつるみだしたからだな」
クククと笑うジェイは、煙草をポケットからだして一本口元へと持って行き、ライターで火を付ける。数回煙草を吸い、また、話を続けた。
「女には死ぬほどモテたよ。毎日引っ切りなしに女が俺の前に来た。けど、誰も俺の事など見ていない。みんな、俺の西洋人の容姿にしか興味がないんだ。そんな時に、師匠の刺青に出会ったんだよ……。今まで何にも興味を持てなかった俺は、グングンとのめり込んださ」
少し明るくなったジェイの顔を見て鈴子は少し安心する。鈴子は無意識にジェイに近寄り、ギュッとジェイの背中にしがみ付いた。自分でも何故だか分からない鈴子は、抱きついた後に、驚いて「ごめん……」と離れてしまう。
「鈴子、俺は愛とかはよく分からないんだ……。今まで彼女はいたけど、向こうからしつこく言われて付き合っただけで、好きでもなかった。だからみんな、数ヶ月で別れている……。だから最近は面倒だからセフレだけだったんだ」
鈴子は黙って何も言わない。いや、言えない。鈴子自身でさえも愛はよく分からないのだから。人に何かを言える立場でも無い。
「ジェイの好きにすればいい。ジェイの人生でしょ……。私はジェイの只のお客さん……だから。セックスも対価の為。私は私で好きにする。そのうち彼氏でも作って……その人と」
鈴子はジェイを煩わせないようにと言ったつもりだったが、その言葉達は静かな室内で響き、ジェイに突き刺さるように届いた。
ジェイの中で何かがギューと締め付けられる気がして胸が痛み出す。鈴子が彼氏を作ってその男に抱かれる姿を想像し「嫌だ」と頭の中で声がする。しかし、ジェイには鈴子を止める権利などないのだから。
「そうだな……。それが良い」
ボソリと呟いたジェイは、そのまま外に出ていき、その日は翌日まで帰ってこなかったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あの日からジェイは店が終わると何処かに行き、朝方に家に戻ってきていた。鈴子が出勤する時間帯に入れ替わりに帰ってきて、寝ているようだった。そんな状態でまともに互いに会話を出来ない状況で週末になる。
今日は土曜日で、朝から鈴子の手彫りをする事になっていた。しかし、ジェイはまた昨晩から外出しており、朝方に家に戻ってきたのだった。
「鈴子、シャワーを浴びてくるから先に部屋に行っといてくれ……」
「大丈夫? 目に隈ができてる……」
暫く間近で見ていなかったジェイの目の下には大きな隈が出来ており、かなり疲れているのが窺い知れる。
「抱き枕が……」
「え? なに?」
「抱き枕が側に居なかったから安眠できてないだけだ……」
ボソリと呟いたジェイは、フラフラとシャワールームへ向かって行く。
ジェイの様子を心配した鈴子は、暫く考えた後にシャワー室を覗く。すると、案の定、ジェイはシャワーを浴びながら眠りこけているのだ。シャワーエリアの床にへたり込んで。
「ちょ、ジェイ! 危ないから起きて! お願い。私じゃジェイを担げないよ……」
ジェイをバンバン叩いて無理矢理起こした鈴子は、何とかジェイを歩かせてベッドまで移動する。ベッドの上にゴロンと転がったジェイは、無意識に鈴子を掴んで側に引き寄せる。
「ちょ、やぁ! ジェイ、離してよ……。うぁぁ、んぁ……ゃあ」
意識の朦朧とするジェイは鈴子の身体を弄り、胸を優しく触り出す。ジェイの唇は鈴子の耳を甘噛みし、項をハムハムと唇で挟んでいる。
「ああ……。俺の抱き枕……。コレがないと寝れな……い」
スースーと寝息を立てて眠るジェイは、ガッチリと鈴子を羽交い締めしていた。それに何故かジェイの下半身が完全に立ち上がっており、ソレが鈴子の股の間に完璧にフィットしているのである。
「こ、この体勢で熟睡って……。私にどうしろというのよ……」
鈴子は自分の股の間から顔を出すジェイの愚息を見つめて大きな溜め息を吐いたのだった。
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