蛇と刺青 〜対価の交わりに堕ちていく〜

寺原しんまる

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手彫りの痛み

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 ジェイの家に戻った二人は、帰り道で買ってきたコンビニのお弁当を食べた。鈴子はハンバーグの入ったお弁当で、ジェイは幕の内弁当と追加で卵サンドも買ったのだ。「大食い!」と驚く鈴子に、「この体型を維持するのにはカロリーが必要」と持論を展開し、鈴子は「はあ?」と冷たく返す。


「じゃあさあ、どうしてそんなに鈴子はおっぱいが大きいんだ? それは桃のミネラルウォーターばかり飲んでいるからか?」

「はあ? そんなことあるわけ……。馬鹿じゃない、ですか?」


 鈴子は胸を自然に触ろうとするジェイの手をパシリと払いのける。勿論、「痴漢!」と言う言葉と共に。


「鈴子、敬語は止めろよ。何だかむず痒い」

「う、はい……。わかりました」

「まだ敬語だ」

「わかった……」


 ニッコリと笑うジェイは、鈴子の頭を撫でる。それがとても心地よくて、鈴子は目をつぶって受け入れてしまう。飼い猫がご主人様に撫でてもらうように、無意識に少し首を伸ばしてジェイの手のひらに頭を引っ付ける。その様子が可愛くて、ジェイは何度も鈴子の頭を撫でたのだった。


 食後は二人でソファーに座ってテレビを観ていたが、疲れた鈴子はウトウトとして目が段々と閉じてくる。傾いた鈴子の頭はジェイの胸に当たり、そのまま鈴子はジェイにもたれて寝てしまう。


 スウスウと可愛い寝息を立てて眠る鈴子。コッソリと鈴子の胸の感触を味わっていたジェイは「これぞ蛇の生殺し」と笑い出す。


 鈴子を抱き上げてベッドに移し、自身もその横で眠りに就くジェイ。


「明日から手彫りの始まりだな……」


 ジェイは鈴子の唇に優しいキスをしたのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 翌朝、鈴子が起きるとジェイは既にベッドに居なかった。大抵は鈴子が先に起きるのだが、珍しいこともあるもんだと鈴子はベッドから起き上がる。


 鈴子はインスタントコーヒーを入れてソファーに座る。テレビを観ながら少しボーッとしていたら、背後から「起きたのか?」と優しい声がした。


「ジェイ……、おはよう」

「ああ、おはよう。よく寝れたのか?」

「はい……。あ、うん。寝れた……」


 ジェイはキッチンカウンターで自分のコーヒーを作り出す。鈴子はその様子を見ながらジェイに話しかけた。


「ジェイ。居候するなら、高熱費とか家賃を払いたい」


 その提案を聞きながらジェイは首を傾げている。何か変なことを言ったのかと鈴子は自身の発言を思い出すが、至って当たり前のことしか言っていない。


「ジェイ? 普通は払うでしょ? お世話になってるんだし……」


 ジェイは良いことを思いついたという顔をし、ニヤニヤ笑いながら口を開く。


「エッチな対価でお支払いして頂いてもいいですよ」


 その言葉で一気に顔が沸騰したように赤くなる鈴子は、「変態! 絶対に変態!」と言いながらそっぽを向く。ゲラゲラ大笑いをしたジェイは鈴子の直ぐ横に座り、鈴子の肩に腕を回すのだった。


「冗談だ! 鈴子が可愛いからつい揶揄いたくて。生活費は心配するな。お前が払った100万円で十分だ」

「え? それは刺青代でしょ? 足りない……」

「良いんだよ。俺が決めたんだから」


 鈴子をグッと側に抱き寄せたジェイが、鈴子の頭にキスをする。その感触にドキッとした鈴子は更に顔を赤くした。


「朝ご飯を食べて落ち着いたら、手彫りを始めるから個室においで。もう準備は終わってる……」

「うん……」


 鈴子はジェイの腕の中で緊張と不安で胸が張り裂けそうになっていたが、必死に何でも無いように取り繕っていたのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 鈴子は朝食の後、緊張の面持ちで個室に向かって行った。入り口のドアは少し開いていて、中ではジェイが座って道具を並べている。鈴子が入り口から中を覗いていると、ジェイが気が付き「おいで」と鈴子を中に呼ぶ。


「さあ、ここにうつ伏せで寝転んでくれ」


 鈴子は既に居住エリアから、裸にバスタオルを巻いて来ていたので、そのままいつものマットレスの上に寝転ぶ。


 ジェイがゆっくりと鈴子のバスタオルを剥がすと、鈴子の形の良い臀部が姿を現した。ゴクリと喉を鳴らしそうになったのをグッと堪えたジェイは、鈴子の臀部から目を逸らす。


(何度見ても形の良い尻だよなあ……。貪り付きたい)


 指を鈴子の肌の上で滑らせて行くジェイは、鈴子に「何処の蛇の部分から始めると思う?」と質問した。


「ん……、わかんない……足?」


 ジェイに触られて、少し火照った鈴子は吐息が混ざった声で答えたのだった。


「正解は、頭だ……」


 鈴子の右肩を甘噛みしたジェイは、ココがその場所だと教える様に、指で右の肩甲骨の蛇をなぞる。ゾクリと震える鈴子は「……あぁ」と声を漏らしてしまったのだった。


 手彫り用の道具を手に取り、ジェイは「始めるよ……」と告げて鈴子の蛇の顔に針を刺す。


「ひぃぃっぃぃ!」


 機械彫りとは比べものにならない痛みが鈴子を襲う。長い柄のような物の先に針の束が付いていて、それで肌を一点一点刺していく。その小さな一点が連なって色になるのだ。その痛みは半端ないだろう。鈴子は痛みでガクガクと震えだした。蛇の色は白だが、白一色というわけでも無く、鱗や影などによって微妙に白の色も違っている。それを職人の技で細かく表現するのだから、ジェイはとても技術があるのだと傍目にでも分かる。


 ザクザクと鈴子の皮膚に針を刺しながら、細かく色を注ぎ込むジェイの額に汗が滲んでいた。汗は頬を伝い、肩の上に置かれていたタオルに染みこんでいく。


「痛いだろう……?」


 痛みで気を失いそうな鈴子は、ブルブルと震えながら、自身の下に敷いてあるバスタオルを掴んでいた。言葉を発することも出来ない鈴子は、ジェイの問いかけにも返事が出来ない。


「贖罪だって言ってただろ? こんな痛みを完成するまでずっと耐えるんだ。これが彫り終わった時に、鈴子は何を思うんだろうな……」


 悲しそうに呟くジェイだったが、鈴子は答えずに黙っていた。


 1時間程経過した頃に、ジェイの手が止まり「今日はここまでだ」と鈴子に告げた。ジェイは鈴子がこれ以上耐えられないと察知し、同時に鈴子が出来る限界が1時間だと分かる。


 脂汗をかき、真っ青で震える鈴子。ジェイの手は既に止まっているのに、まだ激痛に耐えている。痛すぎて声さえも出なかった筈の鈴子の喉はカラカラで、鈴子は口をパクパクさせていた。それに気が付いたジェイが水を口に含み、鈴子に口うつしで飲ませてやる。


「大丈夫か? もっといるか?」


 鈴子を覗き込むジェイに、鈴子は「……だ、だいじょ、うぶ」と答えるのが精一杯だった。


「鈴子、動けるようになるまでここに居ていいから。俺は片付けと、店を開ける準備をするから」


 鈴子の刺青に粘着質の薬を塗り、ジェイはその上にガーゼを乗せる。鈴子の側にミネラルウォーターのボトルを置いて、ジェイは使用した刺青の道具を持ち個室を出て行った。


 ズキズキと痛みが続く背中。鈴子はそのまま暫くうつ伏せで、痛みを逃し続けることにしたのだった。同時に「贖罪」にと刺青を入れることを選んだ自分自身に、「馬鹿だな」と静かに笑い出す。


「もう後戻りはできない……」


 部屋にある小さな窓を見つめて、鈴子は虚ろに呟くのだった。
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