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歓迎会3

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 浮田の歓迎会にと選ばれたのは新橋の創作和風居酒屋。部長の一押しらしく、満足げな部長が日本酒を飲んでいた。その横でお酌をするのは二部三課の森課長。最近は女子社員にお酌を頼むと「セクハラ」だと言われるからと、部長が残念そうにしている。



「で、聞いているかい、浮田君?」

「はい、部長。聞いております……」



 自分の歓迎会のはずが、何故か部長の愚痴を聞く羽目になった浮田は、視線を動かして別のテーブルを見る。するとそこにはアシスタントの西浦さんが、綺麗に正座をして黙々と食事をしていた。



 観察していると、空になったお皿を片付けたり、量が少なくなった食べ物を勧めていったりと自然に振る舞っている。少なくなったビールや酎ハイのピッチャーを確認し、店員への追加のオーダーをしていた。



 彼女の気配りには誰も気が付いていないようだったが、浮田はしっかりと見ている。事細かに。



 ――女王様は気が利くのだなあ。周りをよく見ている。食べ方も綺麗だ。



「西浦君は何処の大学だったかな?」



 長々と愚痴を言って気が済んだのか、部長は少し浮田に興味を持ったようだ。



「T大学です」

「おお、そうだったのか! 私の息子もT大卒なのだよ。君は男前で頭も良いときたら、これはモテただろうなあ。結婚はまだだと聞いたが、それはあれか? まだ遊び足らないのか、ハハハ」



 酒で更に脂ぎった顔の部長は、含みを持った笑顔を見せる。浮田から女性関係の武勇伝を酒のつまみにしたいようで、ホレホレと急かしてくる。



「部長、そういった質問も、最近ではセクハラやパワハラなどと……」

「え~! そうなのか?」



 部長に酌をしていた三課の森課長が助け船を出してくれた。彼と浮田は同期で仲が良い。浮田は視線で「ありがとう」と合図を送った。



 さあ、女王様の観察を再会しようと西浦さんへ視線を戻すと、田中と話をしているようだ。時々赤い眼鏡をクイッと上げて話す姿は、浮田の性癖を擽る。あの少し気が強そうな感じで話しかけられてみたいなあと、ジッと見つめてしまった。



 ――今日は挨拶や紹介で一日潰れた。西浦さんと殆ど話せていない。田中が羨ましい。



「だから、五月蠅い! 静かにして!」



 いきなり室内に響く西浦さんの声。浮田は口を薄らと開けて彼女の顔を見た。少し赤い顔は明らかにイライラしているようだ。田中に向けてだろうか。何だか田中を指を咥えて見てしまいそうだ。自分もあんな風に怒られたいと。



 ――田中はズケズケと人の領域に土足で踏み入ってくるからな。



 酒を飲んで楽しんでいた者たちは、一瞬で静まりかえっていた。きっと驚くほどの絶妙な間で、室内の会話が途切れた瞬間に西浦さんが声を発してしまったようだ。



「あ、すみません。ちょっとお手洗いに……」



 西浦さんはスッと立ち上がって部屋から出て行く。何だか気になった浮田は自分も立ち上がろうと立て肘をすると、近くから女子社員の声が聞こえてくる。



「西浦さんって、空気が読めないっていうか、ねえ……?」

「いっつもイライラしていない? ちょっと仕事ができるからってお高くとまっているし」

「あれはお局様まっしぐらよ! 男に相手にされないからって、モテる女子社員に意地悪してくるって聞いたわ」



 女性はいつもこんな感じだ。少し目立つ者がいれば扱き下ろして貶める。その人物の悪口を言って、自分が劣っている部分に目を瞑る。西浦さんは今日の宴会場で一番気が利いていたし所作も美しい。姿勢も真っ直ぐで、仁王立ちなどしてみれば女王様の佇ま……。



 ――ヤバい。勃ちそうだ!



「ちょっとトイレに……」



 浮田は部長と森課長にそう告げて、少し前屈みで部屋を出ていく。そう言えば西浦さんもトイレに行くと言っていた。もしかするとすれ違うかもしれない。



「粗末なものを勃たせるな! とか言われたりして……」

「粗末なものってなんですか、課長ぅ?」



 ギョッとして浮田が振り返ると、背後にピッタリと女性が張り付いている。顔に見覚えがない。何処かで会ったのか?



「えっと、君は……」

「まあ、課長ぅ。覚えていないんですか? ご挨拶しましたのに……。悲しいわ」

「あ、ああ! えっと受付の――」

「そうですぅ。受付嬢の柴田ですぅ」



 柴田さんはそう言って身体を更に密着させてくる。豊満な胸は浮田の腕に潰されるほどに押さえつけられていた。
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