推しを愛でるモブに徹しようと思ったのに、M属性の推し課長が私に迫ってくるんです!

寺原しんまる

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歓迎会1

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 新橋にある創作和風居酒屋で、浮田課長の歓迎会が開かれた。



 初めは二課の者だけの筈で準備していたが、ゾロゾロと参加者が増えて営業二部全課の歓迎会になっていた。



 大広間に長テーブルが三つあり、掘りごたつになっている。浮田課長は部長と他の課長たちと同じテーブルに座っていた。そのテーブルに視線を向ける女性陣は、チャンスさえあれば隣に滑り込もうと、野球の盗塁ランナーばりに準備している。



「浮田卓、三十七歳で身長185センチ。独身で彼女無し!」



 瑠璃子の横にドカッと座り込んだ田中がニヤニヤとした笑顔を浮かべている。



「……聞いていないけれど?」

「ああ、西浦さんは興味ない? 他の女子社員は俺を諜報部員にしたいみたいで、いろいろと調べて報告してるんだけど」

「私は彼女たちとは違うから」

「そうだった。西浦さんは腐女子ってやつだっけ? 二次元万歳だったか」

「ちょ、止めてよ! 黙っているって約束でしょ!」



 瑠璃子は慌てて田中を睨み付ける。田中はクックッと笑っていた。



 会社の同期での飲み会の後、珍しく酔った瑠璃子を田中が自宅まで送ってくれたのだが、自宅にはBL漫画が大量にある状態で、それを見られた訳だ。腐女子であることを隠している瑠璃子は、田中に黙っているように頼み、田中もそれに了承しているのだが……。



 ――絶対にコイツって、いつかバラしそう!



 瑠璃子は田中を更に睨み付けていると、何処からか視線を感じる。その視線の方に目をやると、浮田課長がジッとこちらを見ているのだ。



 ――な、どうして武田きゅん……ち、違った。浮田課長がコッチを見ているの?



 推しに見られて照れない者はいないだろう。しかし瑠璃子は照れを隠すために何故だかしかめっ面をしてしまう。モブは目立ってはいけない。空気にならなくてはと、存在を消そうとする。精神統一、そう無に……。



「西浦さん、なんで目を瞑っているの? 酔ったのか? なあ、なあ」



 田中がしつこく話しかけてきて精神統一の邪魔をする。



「だから、五月蠅い! 静かにして!」



 宴会場内はシーンと静まりかえった。瑠璃子の声だけが響いている。全員が瑠璃子を凝視しており、部長までこちらを見ていた。



「あ、すみません。ちょっとお手洗いに……」



 瑠璃子は席を立ち、深々と礼をして宴会場から出て行く。扉を閉めると再び騒がしい話し声が聞こえだし、少しホッとした。
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