26 / 59
25 甘い物にはめがない
しおりを挟む
「駄目だ、駄目だ! 何やってんだい! 本当にアンタって子は……」
頭を押さえながら呆れた顔をする果物屋の女将は、ルーチェの方を見て溜め息を吐いた。その様子から自分がしていることは、余り好ましくないことなのだろうと、ルーチェはいつもの魔女帽子を少し深く被って目線を下げる。
「アンタ、あの大男……ディアマンテだったかい? そいつが好きなのかい? 一生を添い遂げる気なのかい?」
「え……? それは……。ディアマンテとは、多分結婚はできないよ(ゴーレムだし)。それに好きかどうかは分からない。でも、一緒にいて安心するわ。これは恋ではないのよね?」
「そんな気持ちがハッキリしない状態で、アンタの純潔を捧げてどうすんだい! 本当に、ジオンはこういうことは何も教えていなかったのだね。はあ……」
ルーチェはあれよあれよとディアマンテに乗せられて、身体を愛撫される毎日だったので感覚が麻痺していたのかもしれない。しかもディアマンテは愛撫だけでは飽き足らず、今度は純潔が欲しいと言いだし、あわや昨夜は奪われる所だったのだから。
「アンタが心からディアマンテを好きだと思ったら、純潔を捧げればいい。そうではないなら止めておきな!」
「……うん、分かった。悩みを聞いてくれたありがとう!」
「いつでも相談にのるよ!」
果物屋の女将に笑顔で手を振るルーチェは、そのままの脚でダンバルドの経営している雑貨屋へと向かう。雑貨屋は屋敷とは別の場所で街中にある。屋敷は街の外れの高台に建てられており、城のような大豪邸だった。
高級な外観の雑貨屋の扉を開けて中に入るルーチェは、店内にいる上等な衣服を着ている客に少し怪訝な顔でチラチラと品定めされる。魔女の象徴のとんがり帽子にゴスロリファッションは嫌でも目立つからだ。しかしそんな状況もルーチェにしては馴れたもので、素知らぬ顔でカウンターの店員に声を掛けた。
「ジオンの所の魔女ルーチェです。魔道具を売りに来ました」
その声を聞き先ほどまで怪訝な顔をしていた店内の客が、目を輝かせてルーチェを見つめる。「あれが、あの魔道具を作っている魔女なのか」と小声で呟きながら羨望の眼差しを向けてきた。
「ああ、魔女ルーチェ。よくおこしくださいました! ダンバルド様から、貴方がおこしのときは屋敷に案内するようにと……」
ルーチェに深々と挨拶をする中年男性の店員は、戸惑うルーチェを無視するかのように馬車をあっという間に手配してしまう。
「あのう……。お屋敷ではなくて、ここで買い取って欲しいのです。いつもそうやっていましたし」
「はあ……、しかしダンバルド様の言付けでして。私の方では買い取り業務はできかねます」
――雑貨屋で魔道具を売って直ぐに帰るつもりだったから、ディアマンテが仕事に行っている内に家を出てきたけれど、屋敷に行くならディアマンテと一緒がいいわ。
「では、出直します。お屋敷に行くなら同行人を連れていきたいので」
ルーチェが店から出ようとすると、先ほどの店員が「少しお待ちを!」と慌てて声を掛けてきた。カウンターから飛び出すように出て、少し顔を青ざめさせながらルーチェの行く手を遮るように前に立つ。
「店で買い取りができるかダンバルド様に確認いたしますので、少し中でお待ちいただけますか? 最近入荷した菓子がありまして御試食していただきたいのです」
菓子と聞いて顔がパーッと明るくなるルーチェは、「え! 良いのですか!」と興奮気味に声を上げる。身体は少しジャンプしていて嬉しさを表現していた。
「ええ、どうぞ! とても甘い菓子でして、異国では女性に人気らしいのです」
「では、少しだけ……」
甘い菓子と聞いて釣られない女性は少ない。しかもこの世界では現代のように、豊富な菓子の種類はないのだから。甘い菓子に飢えているルーチェは、その試食の菓子を想像しただけで口内の唾液分泌量が明らかに増えていく。
ホーッと胸を撫で下ろした店員に案内されて、ルーチェは店の奥へと進んでいく。赤いベルベッドでできた、いかにも高級そうなカウチに座るように言われたルーチェは、少し緊張した面持ちで座る。
「直ぐに菓子をお持ちいたします……」
頭を下げた店員が部屋から出て行き、お茶と菓子を持って数分後に戻ってきた。店員はカートを押しており、その上には現代で言うクッキーのような物がティーポットとともに運ばれてきた。
「キャー! クッキーよ、クッキー!」
「くっきー? これはウーナという菓子ですが、御存じなのですか?」
「う、うーな? 私の場所ではクッキーと言っていたのです。うわ~、嬉しいな!」
目の前のテーブルに出された菓子に嬉しそうに手を伸ばすルーチェは、少し現代を思い出し心がキューッ締め付けられる気がする。それでも久々に味わう甘い味は美味で、パクパクと平らげるのだった。
「宜しければこちらの茶を。余り急いで食べては喉に詰まらせてしまいますよ……」
そっと差し出されたティーカップを「すみません」と言いながら手に持ち、茶をゴクゴクと飲み干す。追加で更に茶を注ぐ店員が何故だか歪んで見えるルーチェは、ガタンと大きな音を立てて倒れ込む。
「おい、この魔女を早く運び出せ!」
紳士的な物腰だった店員の声は低く室内に響く。そして記憶が薄れていくルーチェの視界に、氷のような視線の店員の顔が映るのだった。
頭を押さえながら呆れた顔をする果物屋の女将は、ルーチェの方を見て溜め息を吐いた。その様子から自分がしていることは、余り好ましくないことなのだろうと、ルーチェはいつもの魔女帽子を少し深く被って目線を下げる。
「アンタ、あの大男……ディアマンテだったかい? そいつが好きなのかい? 一生を添い遂げる気なのかい?」
「え……? それは……。ディアマンテとは、多分結婚はできないよ(ゴーレムだし)。それに好きかどうかは分からない。でも、一緒にいて安心するわ。これは恋ではないのよね?」
「そんな気持ちがハッキリしない状態で、アンタの純潔を捧げてどうすんだい! 本当に、ジオンはこういうことは何も教えていなかったのだね。はあ……」
ルーチェはあれよあれよとディアマンテに乗せられて、身体を愛撫される毎日だったので感覚が麻痺していたのかもしれない。しかもディアマンテは愛撫だけでは飽き足らず、今度は純潔が欲しいと言いだし、あわや昨夜は奪われる所だったのだから。
「アンタが心からディアマンテを好きだと思ったら、純潔を捧げればいい。そうではないなら止めておきな!」
「……うん、分かった。悩みを聞いてくれたありがとう!」
「いつでも相談にのるよ!」
果物屋の女将に笑顔で手を振るルーチェは、そのままの脚でダンバルドの経営している雑貨屋へと向かう。雑貨屋は屋敷とは別の場所で街中にある。屋敷は街の外れの高台に建てられており、城のような大豪邸だった。
高級な外観の雑貨屋の扉を開けて中に入るルーチェは、店内にいる上等な衣服を着ている客に少し怪訝な顔でチラチラと品定めされる。魔女の象徴のとんがり帽子にゴスロリファッションは嫌でも目立つからだ。しかしそんな状況もルーチェにしては馴れたもので、素知らぬ顔でカウンターの店員に声を掛けた。
「ジオンの所の魔女ルーチェです。魔道具を売りに来ました」
その声を聞き先ほどまで怪訝な顔をしていた店内の客が、目を輝かせてルーチェを見つめる。「あれが、あの魔道具を作っている魔女なのか」と小声で呟きながら羨望の眼差しを向けてきた。
「ああ、魔女ルーチェ。よくおこしくださいました! ダンバルド様から、貴方がおこしのときは屋敷に案内するようにと……」
ルーチェに深々と挨拶をする中年男性の店員は、戸惑うルーチェを無視するかのように馬車をあっという間に手配してしまう。
「あのう……。お屋敷ではなくて、ここで買い取って欲しいのです。いつもそうやっていましたし」
「はあ……、しかしダンバルド様の言付けでして。私の方では買い取り業務はできかねます」
――雑貨屋で魔道具を売って直ぐに帰るつもりだったから、ディアマンテが仕事に行っている内に家を出てきたけれど、屋敷に行くならディアマンテと一緒がいいわ。
「では、出直します。お屋敷に行くなら同行人を連れていきたいので」
ルーチェが店から出ようとすると、先ほどの店員が「少しお待ちを!」と慌てて声を掛けてきた。カウンターから飛び出すように出て、少し顔を青ざめさせながらルーチェの行く手を遮るように前に立つ。
「店で買い取りができるかダンバルド様に確認いたしますので、少し中でお待ちいただけますか? 最近入荷した菓子がありまして御試食していただきたいのです」
菓子と聞いて顔がパーッと明るくなるルーチェは、「え! 良いのですか!」と興奮気味に声を上げる。身体は少しジャンプしていて嬉しさを表現していた。
「ええ、どうぞ! とても甘い菓子でして、異国では女性に人気らしいのです」
「では、少しだけ……」
甘い菓子と聞いて釣られない女性は少ない。しかもこの世界では現代のように、豊富な菓子の種類はないのだから。甘い菓子に飢えているルーチェは、その試食の菓子を想像しただけで口内の唾液分泌量が明らかに増えていく。
ホーッと胸を撫で下ろした店員に案内されて、ルーチェは店の奥へと進んでいく。赤いベルベッドでできた、いかにも高級そうなカウチに座るように言われたルーチェは、少し緊張した面持ちで座る。
「直ぐに菓子をお持ちいたします……」
頭を下げた店員が部屋から出て行き、お茶と菓子を持って数分後に戻ってきた。店員はカートを押しており、その上には現代で言うクッキーのような物がティーポットとともに運ばれてきた。
「キャー! クッキーよ、クッキー!」
「くっきー? これはウーナという菓子ですが、御存じなのですか?」
「う、うーな? 私の場所ではクッキーと言っていたのです。うわ~、嬉しいな!」
目の前のテーブルに出された菓子に嬉しそうに手を伸ばすルーチェは、少し現代を思い出し心がキューッ締め付けられる気がする。それでも久々に味わう甘い味は美味で、パクパクと平らげるのだった。
「宜しければこちらの茶を。余り急いで食べては喉に詰まらせてしまいますよ……」
そっと差し出されたティーカップを「すみません」と言いながら手に持ち、茶をゴクゴクと飲み干す。追加で更に茶を注ぐ店員が何故だか歪んで見えるルーチェは、ガタンと大きな音を立てて倒れ込む。
「おい、この魔女を早く運び出せ!」
紳士的な物腰だった店員の声は低く室内に響く。そして記憶が薄れていくルーチェの視界に、氷のような視線の店員の顔が映るのだった。
0
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
国王陛下は悪役令嬢の子宮で溺れる
一ノ瀬 彩音
恋愛
「俺様」なイケメン国王陛下。彼は自分の婚約者である悪役令嬢・エリザベッタを愛していた。
そんな時、謎の男から『エリザベッタを妊娠させる薬』を受け取る。
それを使って彼女を孕ませる事に成功したのだが──まさかの展開!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
媚薬を飲まされたので、好きな人の部屋に行きました。
入海月子
恋愛
女騎士エリカは同僚のダンケルトのことが好きなのに素直になれない。あるとき、媚薬を飲まされて襲われそうになったエリカは返り討ちにして、ダンケルトの部屋に逃げ込んだ。二人は──。
色々と疲れた乙女は最強の騎士様の甘い攻撃に陥落しました
灰兎
恋愛
「ルイーズ、もう少し脚を開けますか?」優しく聞いてくれるマチアスは、多分、もう待ちきれないのを必死に我慢してくれている。
恋愛経験も無いままに婚約破棄まで経験して、色々と疲れているお年頃の女の子、ルイーズ。優秀で容姿端麗なのに恋愛初心者のルイーズ相手には四苦八苦、でもやっぱり最後には絶対無敵の最強だった騎士、マチアス。二人の両片思いは色んな意味でもう我慢出来なくなった騎士様によってぶち壊されました。めでたしめでたし。
奥手なメイドは美貌の腹黒公爵様に狩られました
灰兎
恋愛
「レイチェルは僕のこと好き?
僕はレイチェルのこと大好きだよ。」
没落貴族出身のレイチェルは、13才でシーモア公爵のお屋敷に奉公に出される。
それ以来4年間、勤勉で平穏な毎日を送って来た。
けれどそんな日々は、優しかった公爵夫妻が隠居して、嫡男で7つ年上のオズワルドが即位してから、急激に変化していく。
なぜかエメラルドの瞳にのぞきこまれると、落ち着かない。
あのハスキーで甘い声を聞くと頭と心がしびれたように蕩けてしまう。
奥手なレイチェルが美しくも腹黒い公爵様にどろどろに溺愛されるお話です。
【R-18】逃げた転生ヒロインは辺境伯に溺愛される
吉川一巳
恋愛
気が付いたら男性向けエロゲ『王宮淫虐物語~鬼畜王子の後宮ハーレム~』のヒロインに転生していた。このままでは山賊に輪姦された後に、主人公のハーレム皇太子の寵姫にされてしまう。自分に散々な未来が待っていることを知った男爵令嬢レスリーは、どうにかシナリオから逃げ出すことに成功する。しかし、逃げ出した先で次期辺境伯のお兄さんに捕まってしまい……、というお話。ヒーローは白い結婚ですがお話の中で一度別の女性と結婚しますのでご注意下さい。
完結 異世界で聖女はセックスすることが義務と決まっている。
シェルビビ
恋愛
今まで彼氏がいたことがない主人公は、最近とても運が良かった。両親は交通事故でなくなってしまい、仕事に忙殺される日々。友人と連絡を取ることもなく、一生独身だから家でも買おうかなと思っていた。
ある日、行き倒れの老人を居酒屋でたらふく飲ませて食べさせて助けたところ異世界に招待された。
老人は実は異世界の神様で信仰されている。
転生先は美少女ミルティナ。大聖女に溺愛されている子供で聖女の作法を学ぶため学校に通っていたがいじめにあって死んでしまったらしい。
神様は健康体の美少女にしてくれたおかげで男たちが集まってくる。元拗らせオタクの喪女だから、性欲だけは無駄に強い。
牛人族のヴィオとシウルはミルティナの事が大好きで、母性溢れるイケメン。
バブミでおぎゃれる最高の環境。
300年ぶりに現れた性欲のある聖女として歓迎され、結界を維持するためにセックスをする日々を送ることに。
この物語は主人公が特殊性癖を受け入れる寛大な心を持っています。
異種族が出てきて男性の母乳も飲みます。
転生令嬢も出てきますが、同じような変態です。
ちんちんを受け入れる寛大な心を持ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる