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告白
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意識が戻った時貞に警察官が気が付き、事件の状況を聞きに来た。まだ安静が必要だという医師との一悶着があったが、時貞は「話くらいできる」と、警察の取り調べを受けることにする。
「部外者は出ていけ!」
警察官によってヒロトは病室外に追い出された。買い物から戻った山田は「なんだと!」と凄み出すが、「いいから何処かで時間でも潰せ!」と、時貞に窘められる。
山田は部屋の外で待つと言いそこから動かなかったが、ヒロトは気分転換に屋上へと向かった。
時貞が目を覚ますまでの二週間と少しを、ヒロトは病室で過ごしていたために、屋上で浴びる外の光が眩しい。目を細めて街の景色を見ながら、ヒロトは「良かった……」と呟く。その時に強めの風が吹き、ヒロトが被っていたキャップが飛ばされる。
「え……? うそ! ヒロト?」
屋上で偶然に日向ぼっこをしていた若い女の入院患者が、帽子を拾うヒロトを発見する。女のスマートフォンの待ち受けはヒロトのアップの写真だった。震える手でスマートフォンを持つ女は、そっとヒロトに近づく。
時貞が目覚めて安心したヒロトは、警戒心も無く、気持ちよさそうに風に当たっていた。
「絶対にヒロトだわ! どうしよう……。失踪中とか言って入院中だったの? 大病だったらどうしよう……。そうだ、あっちゃんに聞いてみよう」
女はヒロトから見えない位置から、スマートフォンのカメラの望遠を使って写真を連写する。気の済むまで写真を撮った女は、満足したように友人に写真を転送するのだ。
もちろん、その写真が数時間後には拡散されていき、翌日には大事になることをこの女は知らないのだった。
****
「時貞、気分はどうだ?」
「んあ? 何だよさっきから。一〇分おきにうるせえなあ!」
時貞のベッドの横に座るヒロトは、時貞の目が開いているときは何度も様子を窺う。少しでも何か変化があれば、呼び出しボタンを押しかねない状況に、時貞は「ジッとしてろ!」とボタンを枕の裏に隠すのだ。
「なあ、テレビでも付けてくれ」
「で、でも……。安静にしてろって先生が……」
「テレビに安静もクソもねえ! 早く付けろ!」
意識が目覚めてまだ一日だというのに、すっかりと以前の様に振る舞う時貞に、ヒロトは「プッ」と笑い出す。ヒロトはテレビを付けてベッドのリクライニングを起こし、時貞がテレビを観やすいようにする。身体にはまだ管や電極が取り付けられていたが、時貞は「邪魔だ」とうっとうしそうにしていた。
テレビを観ている時貞は、自分の側に座るヒロトに「もっとこっちに寄れ」と言い、唯一動かせる手で触れる。少し弱々しく震える手で、何度もヒロトの手を撫でる時貞は「ありがとう……」と小さく呟くのだった。
ヒロトは「どういたしまして」と答えて笑顔を見せる。
「なあ……、お前。あのアイドルの彼女はどうしたんだ? 女優のアレも居ただろう……」
いきなりの質問に、ヒロトは「はい?」と目が点になった。
「ゴシップ誌は全部嘘だよ……。あれは売名行為ってやつだ。俺と付き合ってるだとか、手を出されたとか言って注目を集めたいんだ。事務所も了解している……。芸能界ってそんなもんだよ。でも……」
ヒロトは少しニヤッと笑って時貞を見た。
「俺の事を捨てたくせに、俺に関する記事とか読んでたんだ」
「ば、馬鹿野郎! 山田が勝手にしゃべり出すんだ。雑誌も事務所に置きっぱなしで、嫌でも目に入った!」
必死に誤魔化す時貞の顔は耳まで赤い。そんな時貞の頬にそっと唇を添えるヒロトは、ペロッと時貞を舐める。
「誰とも付き合ってないよ……。ずっと時貞の事を思ってたから。馬鹿だろ? 捨てられたのに……」
「悪かった……。でも、ああするしか無かった」
時貞の言葉を聞いてニコリと笑うヒロトは「知ってるよ……。山さんに聞いたから」と告げる。
山田は時貞の意識が戻らない間に、ヒロトにどうして時貞がヒロトの前から離れたのかを話したのだ。あの時は時貞が目覚めない可能性が高かったので、山田としては真実を伝えたかったのだろう。
ヒロトは時貞の手を取り、時貞の目を見つめる。時貞もそれに答える様に視線を合わせた。
「時貞、目が覚めたら言うつもりだった。俺は時貞が好きだよ……。もし時貞が拒絶したって、絶対に離れない! 今度は俺が時貞を監禁するから」
ニヤッと笑うヒロトに「えらく物騒な愛の告白だなあ」と笑い出す時貞。時貞は震える手で、そっと握られたヒロトの手を自分の顔の側に持っていく。側に来たヒロトの指を見つめながら唇を落とすのだ。
「ああ……。お前になら監禁されてもいい。側に居てくれ……。俺もお前を愛している」
その言葉を聞き終わるや否や、ヒロトと時貞の唇は優しく重なる。本当は激しく貪り合いたいところだが、背後から「コホン」とわざとらしい巡回の看護婦の咳が聞こえ、二人はバッと離れるのだった。
「人目がありますから、ねえ。気を付けてくださいよ……」
看護婦の忠告に「すみません」と謝るヒロトだったが、顔は晴れやかに笑っているのだった。
「部外者は出ていけ!」
警察官によってヒロトは病室外に追い出された。買い物から戻った山田は「なんだと!」と凄み出すが、「いいから何処かで時間でも潰せ!」と、時貞に窘められる。
山田は部屋の外で待つと言いそこから動かなかったが、ヒロトは気分転換に屋上へと向かった。
時貞が目を覚ますまでの二週間と少しを、ヒロトは病室で過ごしていたために、屋上で浴びる外の光が眩しい。目を細めて街の景色を見ながら、ヒロトは「良かった……」と呟く。その時に強めの風が吹き、ヒロトが被っていたキャップが飛ばされる。
「え……? うそ! ヒロト?」
屋上で偶然に日向ぼっこをしていた若い女の入院患者が、帽子を拾うヒロトを発見する。女のスマートフォンの待ち受けはヒロトのアップの写真だった。震える手でスマートフォンを持つ女は、そっとヒロトに近づく。
時貞が目覚めて安心したヒロトは、警戒心も無く、気持ちよさそうに風に当たっていた。
「絶対にヒロトだわ! どうしよう……。失踪中とか言って入院中だったの? 大病だったらどうしよう……。そうだ、あっちゃんに聞いてみよう」
女はヒロトから見えない位置から、スマートフォンのカメラの望遠を使って写真を連写する。気の済むまで写真を撮った女は、満足したように友人に写真を転送するのだ。
もちろん、その写真が数時間後には拡散されていき、翌日には大事になることをこの女は知らないのだった。
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「時貞、気分はどうだ?」
「んあ? 何だよさっきから。一〇分おきにうるせえなあ!」
時貞のベッドの横に座るヒロトは、時貞の目が開いているときは何度も様子を窺う。少しでも何か変化があれば、呼び出しボタンを押しかねない状況に、時貞は「ジッとしてろ!」とボタンを枕の裏に隠すのだ。
「なあ、テレビでも付けてくれ」
「で、でも……。安静にしてろって先生が……」
「テレビに安静もクソもねえ! 早く付けろ!」
意識が目覚めてまだ一日だというのに、すっかりと以前の様に振る舞う時貞に、ヒロトは「プッ」と笑い出す。ヒロトはテレビを付けてベッドのリクライニングを起こし、時貞がテレビを観やすいようにする。身体にはまだ管や電極が取り付けられていたが、時貞は「邪魔だ」とうっとうしそうにしていた。
テレビを観ている時貞は、自分の側に座るヒロトに「もっとこっちに寄れ」と言い、唯一動かせる手で触れる。少し弱々しく震える手で、何度もヒロトの手を撫でる時貞は「ありがとう……」と小さく呟くのだった。
ヒロトは「どういたしまして」と答えて笑顔を見せる。
「なあ……、お前。あのアイドルの彼女はどうしたんだ? 女優のアレも居ただろう……」
いきなりの質問に、ヒロトは「はい?」と目が点になった。
「ゴシップ誌は全部嘘だよ……。あれは売名行為ってやつだ。俺と付き合ってるだとか、手を出されたとか言って注目を集めたいんだ。事務所も了解している……。芸能界ってそんなもんだよ。でも……」
ヒロトは少しニヤッと笑って時貞を見た。
「俺の事を捨てたくせに、俺に関する記事とか読んでたんだ」
「ば、馬鹿野郎! 山田が勝手にしゃべり出すんだ。雑誌も事務所に置きっぱなしで、嫌でも目に入った!」
必死に誤魔化す時貞の顔は耳まで赤い。そんな時貞の頬にそっと唇を添えるヒロトは、ペロッと時貞を舐める。
「誰とも付き合ってないよ……。ずっと時貞の事を思ってたから。馬鹿だろ? 捨てられたのに……」
「悪かった……。でも、ああするしか無かった」
時貞の言葉を聞いてニコリと笑うヒロトは「知ってるよ……。山さんに聞いたから」と告げる。
山田は時貞の意識が戻らない間に、ヒロトにどうして時貞がヒロトの前から離れたのかを話したのだ。あの時は時貞が目覚めない可能性が高かったので、山田としては真実を伝えたかったのだろう。
ヒロトは時貞の手を取り、時貞の目を見つめる。時貞もそれに答える様に視線を合わせた。
「時貞、目が覚めたら言うつもりだった。俺は時貞が好きだよ……。もし時貞が拒絶したって、絶対に離れない! 今度は俺が時貞を監禁するから」
ニヤッと笑うヒロトに「えらく物騒な愛の告白だなあ」と笑い出す時貞。時貞は震える手で、そっと握られたヒロトの手を自分の顔の側に持っていく。側に来たヒロトの指を見つめながら唇を落とすのだ。
「ああ……。お前になら監禁されてもいい。側に居てくれ……。俺もお前を愛している」
その言葉を聞き終わるや否や、ヒロトと時貞の唇は優しく重なる。本当は激しく貪り合いたいところだが、背後から「コホン」とわざとらしい巡回の看護婦の咳が聞こえ、二人はバッと離れるのだった。
「人目がありますから、ねえ。気を付けてくださいよ……」
看護婦の忠告に「すみません」と謝るヒロトだったが、顔は晴れやかに笑っているのだった。
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