耽溺 ~堕ちたのはお前か、それとも俺か?~

寺原しんまる

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国外……?

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 昨夜の出来事に恐怖を抱いたヒロトは、タカの逃亡計画に真剣に加担しようと誓った。首には昨夜の跡が薄らと残っている。それをバスルームの鏡で確認するヒロトは、「ここに居たらいつか殺される……!」と震えるのだった。


 今日はライブ前の最後のスタジオ練習日。


 時貞がシャワーを浴びている間に、ヒロトは自分のスマートフォンを手に取りタカにテキストメッセージを送る。


『今日は予定時間より早くに会えないか? アレの件の打ち合わせがしたい』


 するとタカから直ぐに返事があり『一時間早くスタジオで会おう』と返ってきた。ヒロトは『オッケー。このメッセージは直ぐに消してくれ』と送り、タカの既読を確認後にテキストを消去した。


 元の位置にスマートフォンを戻したヒロトは、平常心を保ちながらキッチンでコーヒーを作る。初めは使い方も分からなかった高級なコーヒーマシーンも、ヒロトは今では楽に使える。お気に入りのカフェラテを作りながら、鼻歌を歌い出していた。


 気が付けば時貞のマンションに軟禁されて二ヶ月近くになる。身体はすっかりと時貞好みに変えられ、時貞の極太の男根で後ろを掘られないと絶頂に至れない程だ。昨夜の激しい痴態を思い出し、何故か身体が熱く火照るヒロトは、鼻歌にも熱が籠もる。


「えらくご機嫌なカナリヤじゃねえか? 何か良いことでもあったのか?」


 シャワーを浴びて少し濡れた髪と身体に、腰にバスタオルを巻いただけの時貞がヒロトの背後に立つ。水も滴るとはこの事かと言うほどの色気を振りまく時貞を、ヒロトはゴクリと喉を鳴らしながら生唾を飲み込んだ。


 背後からヒロトの臀部を鷲掴みにして耳朶を甘噛みるす時貞は、昨夜噛んだヒロトの首筋の傷を「極上のマーキングだな」と呟く。ソコに舌を這わせキツく吸い上げる時貞は、歯形の上にキスマークを付けたのだ。


「なあ……、お前。無意識かもしれんが腰を俺に擦り付けてるぞ……」


 クククと笑い出す時貞は、自分の下腹部に擦り付けられているヒロトの臀部を、艶めかしく撫でる。


「散々抱いてやったのに、まだ欲しいのか……?」


 ヒロトは耳まで赤くしてフルフルと震えていた。いや、堪えていると言うべきか。身体が求める欲求を、脳で拒否しようとしているが、その脳まで「抱いて欲しい」とシグナルを送り出す。


「はぁ……んぁ……、ああ。だ……抱いてくれ……」


 背後に立つ時貞に、肩越しで振り返ったヒロトが懇願する。時貞はニヤリと妖しく笑い「しょうがねえなあ!」と、ヒロトを後ろから激しく突きだすのだった。


****


 時貞に再度抱かれたヒロトは、時間ギリギリでスタジオに向かう。存分にヒロトを堪能した時貞は機嫌も良く、ヒロトが伝えた一時間早い練習時間にも同意をした。


 ヒロトをスタジオに送った後、時貞は所用でその場を離れたが、スキンヘッドの組員が代わりに見張りとしてスタジオの外で待っている。  


「なあ、本当に上手くいくのか? 見つかったら酷い目に遭わされるぞ……」


 不安な顔を浮かべるヒロトに向かってタカは「心配ない」と微笑む。しかしタカの目は、ヒロトの首にある時貞が残したマーキングから目を離せない。それを見て内心歯ぎしりするタカは、親指を口に咥えてツメを噛む。


「逃走ルートはどうなっているんだ?」

「念の為に当日まで秘密だ……。もう、手配は済んでいる。ある場所で暫く隠れていて、様子を見て出国すればいい……」

「え……? 出国ってなんだよ? 日本から離れるのか?」


 いきなりの提案に動揺するヒロトは、タカに「外国なんて、い、嫌だよ……」と告げた。しかしタカはそんなヒロトに「ヤクザから逃げるにはこれが一番だ!」と声を荒らげる。


「偽造パスポートも手配した。俺とお前で生きていけば良い。幸い、行き先には俺のコネがあるから、当面の心配は何も無い……。大丈夫だ! 俺がお前を守ってやるよ」


 少し取り乱したヒロトだったが、タカが言葉巧みに説得して国外に逃げることを了承する。しかしヒロトは国外に行くことに大きな不安を持っていたのだった。


****


「なあ、時貞。ちょっと電話を掛けたい所があるんだ……。いいか?」


 ライブが明日に控えているヒロトは、時貞のマンションで明日着るステージ衣装を用意していた。真っ黒な合皮製のジャケットはボンテージ風で、同じく黒の合皮ショートパンツにニーハイブーツ。中は白いシャツでチェーンが何重にも重なっている。ビジュアル系御用達ブランドの服なのだが、そういう事に興味の無い時貞は、「何だその趣味は?」と笑い出す。 


「うるせえよ……。これはこの店で働いてた子に貰ったんだよ」


 少し恥ずかしそうな顔をするヒロトは、「いや、別に悪くないし。最高に格好いいし」と、ブツブツと呟く。


「まあ、別に電話をするのは構わないが……。誰だ……?」

「ば、ばあちゃんだよ……。俺の地元に住んでる。今は高齢者施設に入ってるけどな」


 それを聞いた時貞は少し羨ましそうな顔をして、ヒロトのスマートフォンをテーブルから取り、そっとヒロトに投げるのだった。
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