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古いポップス
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情事の後でベッドで寛ぐ二人は、裸のまま冗談を言い合っていた。
「古いポップスを歌えっていうのか……?」
「古くねえよ、俺の青春だ! つい最近だろう?」
「いや……、1996年って。俺、生まれてねえし……」
「はあ? お前、いくつだよ!」
時貞の問いかけに苦笑いをするヒロトは「一応、成人してる」と言うが、時貞は「そんなに若かったのか?」と頭を抱えていた。
「時貞は、まあ三十代後半だとは思ってたけどな。やっぱりオッサンだったか……」
少し含みのある言い方をするヒロトに、「黙れよ。男は三〇超えてからが良いんだよ」という時貞は、ベッドサイドのテーブルに置いていたウイスキーのロックを飲み干す。
ヒロトは時貞のリクエストの曲をスマートフォンで検索した。動画サイトにその歌手のミュージックビデオがあり、それを何度も繰り返して再生する。
「映像は九〇年代って感じだけど、曲は良い曲だなあ。初めて聞いた……。このオッサンの他の歌も聴きたい」
「お、お前、オッサンって! この人は凄いんだぞ! それにこれはバンドだ! お前の変なビジュアル系っていうのと違うんだぞ!」
時貞のその言葉に「はあ? ビジュアル系を舐めんな!」と怒り出すヒロトは、時貞に掴みかかろうとするが、体格差のある時貞に簡単に押さえ込まれる。時貞は白くて形の良いヒロトの臀部をパンッと叩いた。
「ハイハイ、悪かったって。いいから歌え……」
時貞から解放されてもまだ不満そうなヒロトは、咳をしながら立ち上がる。深呼吸をして簡単に発声練習をしたヒロトは、スーッと息を吸って時貞のリクエストを歌い出した。
演奏のないヒロトのアカペラだったが、その澄んだ歌声は、たった数回聞いただけのメロディーを完璧に再現していた。舞台慣れしているというのか、ヒロトは盛り上がる場面で手を伸ばし、歌詞の内容に沿うように切なそうな顔をする。
歌い終わったヒロトは「どうだ?」と得意げに時貞を見た。すると時貞は下を向いているのだ。
「アンタ、泣いてるのか……?」
「……泣いてねえよ。黙れ」
手に持っていた空のコップをテーブルに置く時貞は、そのままバスルームへと消えて行く。その様子を目で追っていたヒロトは、「何だよ……」と呟きながら先ほどの動画サイトをまた見ることにする。九〇年代やその前後十年のポップスバンドや歌手を検索するヒロトは、「へえ、昔の曲ってこんなメロディーだったんだ」と興味津々だった。
「さっきのオッサン バンドの曲とかもっと覚えたら、時貞は喜ぶかな?」
自分で言いながらその言葉に驚くヒロトは、「え、いや……。別に、喜ばす必要ない……よな」と、思わずスマートフォンから手を離してしまい床に落としてしまう。
「あっ……」
時貞の置いた空のコップの中の氷がカランと音を立てて、静まりかえった部屋の中で響くのだった。
****
「なあ、俺にちょっとギターを教えて」
練習スタジオに少し早く現れたヒロトは、タカの前に座って上目遣いをしている。タカはヒロトの頭を撫でて「どうしてだ?」と尋ねた。
「最近さあ、昔の歌とか聞いてて、その人らってギター片手に歌ってるんだよ。格好いいなあってさ。俺もやりたくなった!」
タカはフッと笑って「お前は十分格好いいだろ?」と言うが、ヒロトは「教えて!」と食い下がる。タカはヒロトはビジュアル系バンドしか殆ど聞かなかったのに、どんな心境の変化なのかと不思議に思い探ることにするのだ。
「どんな曲を聴いてるんだ? 教えてくれよ」
「ああ、これ見て! すっごい良い声してんだよ」
ヒロトは自分のスマートフォンを取り出して、「これ!」とタカに動画サイトを見せる。そこにはヒロトが今まで興味も示さなかったであろう、ヒロトが生まれる前のポップスの歌手やバンドの曲が並んでいる。
「……へえ。イイ趣味だなあ。こんな凄いメンツ、何処で知ったんだ? スゲえよ」
タカが褒めるので気分を良くしたヒロトは、「へへへ、俺の趣味じゃねえよ。時貞が好きなんだ」と、少し照れくさそうに言う。
タカはピクリと眉を動かし、「時貞……?」と呟いた。するとヒロトは「あ、えっと……。今、一緒に住んでるんだ……。同居人だよ」と、シドロモドロになり少し落ち着かない。
「お前……。何か隠してるよなあ? 住んでたアパートはもぬけの殻だし、女の所に転がり込んだ風でもない。それに高級車での送り迎え……。何やってるんだ?」
タカはヒロトの肩を掴みヒロトを睨んでいた。絶対に理由を聞き出すつもりなのだろう。ヒロトの目を見つめて視線を全く外さないのだ。その気迫に根負けしたヒロトは、ゆっくりと重い口を開くのだった。
「古いポップスを歌えっていうのか……?」
「古くねえよ、俺の青春だ! つい最近だろう?」
「いや……、1996年って。俺、生まれてねえし……」
「はあ? お前、いくつだよ!」
時貞の問いかけに苦笑いをするヒロトは「一応、成人してる」と言うが、時貞は「そんなに若かったのか?」と頭を抱えていた。
「時貞は、まあ三十代後半だとは思ってたけどな。やっぱりオッサンだったか……」
少し含みのある言い方をするヒロトに、「黙れよ。男は三〇超えてからが良いんだよ」という時貞は、ベッドサイドのテーブルに置いていたウイスキーのロックを飲み干す。
ヒロトは時貞のリクエストの曲をスマートフォンで検索した。動画サイトにその歌手のミュージックビデオがあり、それを何度も繰り返して再生する。
「映像は九〇年代って感じだけど、曲は良い曲だなあ。初めて聞いた……。このオッサンの他の歌も聴きたい」
「お、お前、オッサンって! この人は凄いんだぞ! それにこれはバンドだ! お前の変なビジュアル系っていうのと違うんだぞ!」
時貞のその言葉に「はあ? ビジュアル系を舐めんな!」と怒り出すヒロトは、時貞に掴みかかろうとするが、体格差のある時貞に簡単に押さえ込まれる。時貞は白くて形の良いヒロトの臀部をパンッと叩いた。
「ハイハイ、悪かったって。いいから歌え……」
時貞から解放されてもまだ不満そうなヒロトは、咳をしながら立ち上がる。深呼吸をして簡単に発声練習をしたヒロトは、スーッと息を吸って時貞のリクエストを歌い出した。
演奏のないヒロトのアカペラだったが、その澄んだ歌声は、たった数回聞いただけのメロディーを完璧に再現していた。舞台慣れしているというのか、ヒロトは盛り上がる場面で手を伸ばし、歌詞の内容に沿うように切なそうな顔をする。
歌い終わったヒロトは「どうだ?」と得意げに時貞を見た。すると時貞は下を向いているのだ。
「アンタ、泣いてるのか……?」
「……泣いてねえよ。黙れ」
手に持っていた空のコップをテーブルに置く時貞は、そのままバスルームへと消えて行く。その様子を目で追っていたヒロトは、「何だよ……」と呟きながら先ほどの動画サイトをまた見ることにする。九〇年代やその前後十年のポップスバンドや歌手を検索するヒロトは、「へえ、昔の曲ってこんなメロディーだったんだ」と興味津々だった。
「さっきのオッサン バンドの曲とかもっと覚えたら、時貞は喜ぶかな?」
自分で言いながらその言葉に驚くヒロトは、「え、いや……。別に、喜ばす必要ない……よな」と、思わずスマートフォンから手を離してしまい床に落としてしまう。
「あっ……」
時貞の置いた空のコップの中の氷がカランと音を立てて、静まりかえった部屋の中で響くのだった。
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「なあ、俺にちょっとギターを教えて」
練習スタジオに少し早く現れたヒロトは、タカの前に座って上目遣いをしている。タカはヒロトの頭を撫でて「どうしてだ?」と尋ねた。
「最近さあ、昔の歌とか聞いてて、その人らってギター片手に歌ってるんだよ。格好いいなあってさ。俺もやりたくなった!」
タカはフッと笑って「お前は十分格好いいだろ?」と言うが、ヒロトは「教えて!」と食い下がる。タカはヒロトはビジュアル系バンドしか殆ど聞かなかったのに、どんな心境の変化なのかと不思議に思い探ることにするのだ。
「どんな曲を聴いてるんだ? 教えてくれよ」
「ああ、これ見て! すっごい良い声してんだよ」
ヒロトは自分のスマートフォンを取り出して、「これ!」とタカに動画サイトを見せる。そこにはヒロトが今まで興味も示さなかったであろう、ヒロトが生まれる前のポップスの歌手やバンドの曲が並んでいる。
「……へえ。イイ趣味だなあ。こんな凄いメンツ、何処で知ったんだ? スゲえよ」
タカが褒めるので気分を良くしたヒロトは、「へへへ、俺の趣味じゃねえよ。時貞が好きなんだ」と、少し照れくさそうに言う。
タカはピクリと眉を動かし、「時貞……?」と呟いた。するとヒロトは「あ、えっと……。今、一緒に住んでるんだ……。同居人だよ」と、シドロモドロになり少し落ち着かない。
「お前……。何か隠してるよなあ? 住んでたアパートはもぬけの殻だし、女の所に転がり込んだ風でもない。それに高級車での送り迎え……。何やってるんだ?」
タカはヒロトの肩を掴みヒロトを睨んでいた。絶対に理由を聞き出すつもりなのだろう。ヒロトの目を見つめて視線を全く外さないのだ。その気迫に根負けしたヒロトは、ゆっくりと重い口を開くのだった。
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