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不眠症なんだよ……
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「あ、タカ……? ごめん、ちょっと野暮用があって打ち上げに行けないんだ。本当にごめんって……」
『何言ってるんだよ! 打ち上げにボーカルのお前が居ないでどうしろってんだ! それに今日はファンも呼んでるんだぞ……!』
電話口で叫んでいるタカを無視するように、時貞はヒロトからスマートフォンを奪い通話を終了する。ヒロトは既に時貞の高級外車の中で、時貞に肩を抱かれて座っているのだった。
「俺のマンションに行け」
時貞は運転手にそう告げると、黙って窓の外を見ている。しかし、ヒロトの肩に回された腕は、ガッチリとヒロトを押さえ込んでおり、離す気はないと言いたげだった。
「なあ、ライブどうだった? 良かったか……?」
ヒロトは時貞の方を見て尋ねる。しかし時貞は窓の外に向けている視線を変えないで、面倒くさそうにヒロトの質問に答えた。
「そうだなあ。お前らのバンドの歌詞はバカバカしいが、お前の声は気に入った」
歌詞がバカバカしいと言われ、「何だと!」とムッとするヒロトは、時貞をギロリと睨み付ける。それに気が付いた時貞が、「阿呆かお前は」と吐き捨てるように言った。
「生だ死だ。暗黒だとか 永遠にだと? 馬鹿げた歌詞じゃねえか……? お前に死が分かるのか? お前は人が死ぬ様を見たことがあるのか? 生きたいと懇願する奴を、無情に殺したことは?」
それを聞いてゾクリとしたヒロトは、時貞が過去に誰かを殺めた事があるのだろうかと想像した。冗談にも聞こえないその言葉は、時貞がヤクザだということで、更に現実味が強くなる。
「あ、あるよ! 俺の両親は事故で死んだ。俺は一緒に車に乗ってたんだ……。だから、人が死んでいくのは見たことある……」
「……お前も、施設で育ったのか?」
外を見ていた時貞が、ヒロトをジッと見つめている。その目が同族を見るようで、ヒロトは胸をギュッと掴まれたような気がした。しかしヒロトは言いにくそうに「ばあちゃんに引き取られたよ」と告げる。それを聞いた時貞は「……そうか」と呟き、また車の外を見るのだった。
****
いつもは家でヒロトを激しく抱いた後は、ヒロトを置いて何処かへ出掛ける時貞だったが、この日はライブハウスから戻って、再度ヒロトを抱いたが外出をしなかった。
時貞に抱き潰されて眠りこけていたヒロトは、珍しく早朝に目を覚まし、喉の渇きを潤すためにキッチンへと向かう。するとリビングで椅子に座ったまま眠っている時貞を発見する。時貞はスラックスにワイシャツを羽織っており、全く寝るような恰好では無かった。
「こんな所で寝て、風邪引くぞ!」
ヒロトが時貞に触れようとした瞬間、時貞がヒロトを押し倒して羽交い締めにする。
「ちょ、イテーよ! 何するんだよ、時貞!」
「寝ている俺に近づくな……!」
ヒロトの拘束を解いた時貞は、スッと立ち上がって首をコキコキと鳴らす。壁に掛けられている時計を見た時貞は、「4時か……」と呟きバスルームへと向かって行く。ヒロトは「ちょ、待てよ!」と、時貞の後に付いてバスルームへと向かった。
「なあ、アンタ。いつも真面に寝てないだろう? 身体に悪いぜ。折角あんな寝心地の良いベッドがあるのに勿体ねえぞ!」
洗面台に水を張って頭を水面に浸けていた時貞は、濡れた顔で鏡越しにヒロトを見た。
「うるせえ、俺は不眠症なんだよ……」
それを聞いたヒロトは、「ああ、そんな感じだな。どうせ、昔に殺した相手が自分を殺しに来るとかそんなやつか?」と笑い出す。ヒロトは冗談のつもりだったが、時貞の顔は笑っていない。
「え……、マジで?」
呆然とした顔で入り口の前に立っているヒロトを押しのけて、時貞はバスルームを出て行くのだった。
****
『なあ、ヒロト。お前何か隠してないか?』
『別に……、何もないし』
『だって、お前、アパート引き払ったじゃねえか。今、何処に住んでるんだよ! 女の所っていうけど、どいつだよ!』
最近は時貞の前ならスマートフォンを使う事を許されたヒロトは、しつこいタカからの追求に困り果てていた。そんなヒロトの困り顔を、横でウイスキーをロックで飲みつつ、時貞がジッと監視している。
『えっと、今は……、知り合いの所で住み込みでバイトしてるんだよ』
『……バイト? お前、住み込みのバイトって……』
その時、時貞がヒロトに合図を送る。その合図は「卑猥な行為」を意味していた。ゴクリと喉を鳴らしたヒロトは『ごめん! また今度電話する』と言って電話を切る。
ソファーに座る時貞の上に、跨ぐようにして座るように言われたヒロトは、時貞の太股の上に座って時貞の両肩に手を乗せる。
「バンドの練習にそろそろ出ないと、不味いんだ……。メンバーも色々怪しんでるし」
「何だ……? お願い事が? だったらそれなりの頼み方っつうのがあるだろう?」
ニヤリと妖しく笑う時貞は、自身の下半身を指さして「ご奉仕」とヒロトに告げる。ヒロトは「俺に舐めろって言うのか……?」と、唖然とした顔を見せる。
後孔を何度も犯されていようとも、口での行為はまだ無かったのだ。ヒロトは自分にも付いている男根を、女のように舐めさせられるのかとカッと顔を赤くする。
「舐めるなんて出来ねえ……。俺はホモじゃねえよ」
「何言ってる? お前は毎晩俺に抱かれて、女の様にヒイヒイいってるじゃねえか? お前は立派な女役だよ!」
時貞はヒロトの頭を掴み、自分の股間へと擦り付ける。
「舐めろ!」
悔しさで目に涙を溜めたヒロトは、時貞のスラックスのファスナーを、震えた手で下ろしていくのだった。
『何言ってるんだよ! 打ち上げにボーカルのお前が居ないでどうしろってんだ! それに今日はファンも呼んでるんだぞ……!』
電話口で叫んでいるタカを無視するように、時貞はヒロトからスマートフォンを奪い通話を終了する。ヒロトは既に時貞の高級外車の中で、時貞に肩を抱かれて座っているのだった。
「俺のマンションに行け」
時貞は運転手にそう告げると、黙って窓の外を見ている。しかし、ヒロトの肩に回された腕は、ガッチリとヒロトを押さえ込んでおり、離す気はないと言いたげだった。
「なあ、ライブどうだった? 良かったか……?」
ヒロトは時貞の方を見て尋ねる。しかし時貞は窓の外に向けている視線を変えないで、面倒くさそうにヒロトの質問に答えた。
「そうだなあ。お前らのバンドの歌詞はバカバカしいが、お前の声は気に入った」
歌詞がバカバカしいと言われ、「何だと!」とムッとするヒロトは、時貞をギロリと睨み付ける。それに気が付いた時貞が、「阿呆かお前は」と吐き捨てるように言った。
「生だ死だ。暗黒だとか 永遠にだと? 馬鹿げた歌詞じゃねえか……? お前に死が分かるのか? お前は人が死ぬ様を見たことがあるのか? 生きたいと懇願する奴を、無情に殺したことは?」
それを聞いてゾクリとしたヒロトは、時貞が過去に誰かを殺めた事があるのだろうかと想像した。冗談にも聞こえないその言葉は、時貞がヤクザだということで、更に現実味が強くなる。
「あ、あるよ! 俺の両親は事故で死んだ。俺は一緒に車に乗ってたんだ……。だから、人が死んでいくのは見たことある……」
「……お前も、施設で育ったのか?」
外を見ていた時貞が、ヒロトをジッと見つめている。その目が同族を見るようで、ヒロトは胸をギュッと掴まれたような気がした。しかしヒロトは言いにくそうに「ばあちゃんに引き取られたよ」と告げる。それを聞いた時貞は「……そうか」と呟き、また車の外を見るのだった。
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いつもは家でヒロトを激しく抱いた後は、ヒロトを置いて何処かへ出掛ける時貞だったが、この日はライブハウスから戻って、再度ヒロトを抱いたが外出をしなかった。
時貞に抱き潰されて眠りこけていたヒロトは、珍しく早朝に目を覚まし、喉の渇きを潤すためにキッチンへと向かう。するとリビングで椅子に座ったまま眠っている時貞を発見する。時貞はスラックスにワイシャツを羽織っており、全く寝るような恰好では無かった。
「こんな所で寝て、風邪引くぞ!」
ヒロトが時貞に触れようとした瞬間、時貞がヒロトを押し倒して羽交い締めにする。
「ちょ、イテーよ! 何するんだよ、時貞!」
「寝ている俺に近づくな……!」
ヒロトの拘束を解いた時貞は、スッと立ち上がって首をコキコキと鳴らす。壁に掛けられている時計を見た時貞は、「4時か……」と呟きバスルームへと向かって行く。ヒロトは「ちょ、待てよ!」と、時貞の後に付いてバスルームへと向かった。
「なあ、アンタ。いつも真面に寝てないだろう? 身体に悪いぜ。折角あんな寝心地の良いベッドがあるのに勿体ねえぞ!」
洗面台に水を張って頭を水面に浸けていた時貞は、濡れた顔で鏡越しにヒロトを見た。
「うるせえ、俺は不眠症なんだよ……」
それを聞いたヒロトは、「ああ、そんな感じだな。どうせ、昔に殺した相手が自分を殺しに来るとかそんなやつか?」と笑い出す。ヒロトは冗談のつもりだったが、時貞の顔は笑っていない。
「え……、マジで?」
呆然とした顔で入り口の前に立っているヒロトを押しのけて、時貞はバスルームを出て行くのだった。
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『なあ、ヒロト。お前何か隠してないか?』
『別に……、何もないし』
『だって、お前、アパート引き払ったじゃねえか。今、何処に住んでるんだよ! 女の所っていうけど、どいつだよ!』
最近は時貞の前ならスマートフォンを使う事を許されたヒロトは、しつこいタカからの追求に困り果てていた。そんなヒロトの困り顔を、横でウイスキーをロックで飲みつつ、時貞がジッと監視している。
『えっと、今は……、知り合いの所で住み込みでバイトしてるんだよ』
『……バイト? お前、住み込みのバイトって……』
その時、時貞がヒロトに合図を送る。その合図は「卑猥な行為」を意味していた。ゴクリと喉を鳴らしたヒロトは『ごめん! また今度電話する』と言って電話を切る。
ソファーに座る時貞の上に、跨ぐようにして座るように言われたヒロトは、時貞の太股の上に座って時貞の両肩に手を乗せる。
「バンドの練習にそろそろ出ないと、不味いんだ……。メンバーも色々怪しんでるし」
「何だ……? お願い事が? だったらそれなりの頼み方っつうのがあるだろう?」
ニヤリと妖しく笑う時貞は、自身の下半身を指さして「ご奉仕」とヒロトに告げる。ヒロトは「俺に舐めろって言うのか……?」と、唖然とした顔を見せる。
後孔を何度も犯されていようとも、口での行為はまだ無かったのだ。ヒロトは自分にも付いている男根を、女のように舐めさせられるのかとカッと顔を赤くする。
「舐めるなんて出来ねえ……。俺はホモじゃねえよ」
「何言ってる? お前は毎晩俺に抱かれて、女の様にヒイヒイいってるじゃねえか? お前は立派な女役だよ!」
時貞はヒロトの頭を掴み、自分の股間へと擦り付ける。
「舐めろ!」
悔しさで目に涙を溜めたヒロトは、時貞のスラックスのファスナーを、震えた手で下ろしていくのだった。
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