耽溺 ~堕ちたのはお前か、それとも俺か?~

寺原しんまる

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防弾製ドアの先には……

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 二人は高層階直通のエレベーターに乗っている。静かに動き出すエレベータ内で沈黙を破るように、ヒロトが少し興奮気味に口を開ける。

 
「なあ、部屋は何階なんだ?」
 
「……最上階だ」
 
「さ、最上階! マジか……」
 
「このエレベーターで俺の部屋の階に直通だ……。最上階は俺の部屋とあと一部屋だけだ。その一部屋も俺が所有している」
 
「す、スゲー」と呟くヒロトは、ジッとドアの上にある階の電光数字を見つめる。あっという間に高層階に到着したエレベータは、ポーンという音と共にドアを開け、少し先に重厚そうな別のドアが立ちふさがる。

 
 時貞がカードキーで鍵を開けて重いドアをグッと開く。ヒロトがそのドアをジッと見ていると「それは防弾製だ」と時貞が告げ、ヒロトはゾッとするのだった。ヒロトはすっかりと忘れていたが、自分はヤクザの家に来たのだと嫌でも思い出さされるのだ。

 
  その扉の先に通路が広がり、玄関らしい扉が二つ離れて見えている。どうやらその一つが時貞の自宅なのだろうとヒロトは考える。ではもう一つは何に使われているのだと疑問に思ったが、楽観主義のヒロトは考えるのを放棄する。今日来ただけの自分には関係無いことで、無駄に悩んでもしょうがないと。

 
「お、お邪魔します……」

 
 ヒロトは玄関先で履いていたエンジニアブーツを脱ぐ。その靴を綺麗に揃えていると、時貞がゲラゲラと笑い出した。

 
「お、お前……! その身なりで躾が良い坊ちゃんなのか? ハハハ!」
 
「はぁ? ちげーし! こ、こんなの普通だろ!」

 
 顔を真っ赤にして必死に取り繕うヒロトだったが、時貞は笑うのを止めない。一頻り笑った時貞は満足したのか、「さあ早く上がれよ!」とヒロトを引っ張り、そのままリビングへと引っ張って連れて行く。

 
 広々としたリビングには、白い革張りの座り心地の良さそうな大きなソファーが置いてあり、天井まで続く大きな窓が部屋の隅から隅まであった。そこからは夜の東京の夜景が一望でき、東京タワーもハッキリと見えている。

 
 リビングに螺旋階段があり、その先を見てみると、中二階になる辺りにダイニングテーブルと大きなキッチンがあった。

 
 インテリアはシックな色合いで纏められており、原色や金色などのゴテゴテしたものは見当たらない。センスの良い時貞の趣味に驚くヒロトは「す、スゲー!」と何度も声を漏らしてしまう。

 
 大きなフラットスクリーンテレビの横にある棚に、趣味の良さそうな映画のBlu-rayが置いてあった。ヒロトは「お、コレ観たかったやつ!」等と興奮気味に中身を見ている。


 そんなヒロトを横目に、ソファーに座ってネクタイを緩める時貞は、胸のポケットからガラムの煙草を取りだし火を付ける。パチパチという火花の音と共に、数回煙草をふかした時貞が、ヒロトを見つめて口を開いた。


「そこの窓の前に立って服を全部脱げ。東京タワーを観客にストリップだ……」


 ニヤリと妖しく笑う時貞を、ヒロトは唖然とした顔で見つめる。そして「え……? 何言ってんだ?」と呟くのだった。
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