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「出ない! 私を元いた場所に返してくれるまで、ここから絶対に出ないから!」
今まで出したことなどない程の大きな声を張り上げた。そのせいで珠音の耳にキーンとした音が鳴り響く。
するとドアの外から、バサバサと大きな羽根を動かす音が聞こえてきた。そして蔵全体がギシギシと揺れ出す。これはきっと彼が怒っている証拠だ。
蔵に逃げ込む前に見た光景が、珠音の脳裏に浮かぶ。夜半の嵐のような黒い突風で、周囲を破壊したあの様子が。
「鞍馬天狗様。どうか怒りをお収めくださいませ!珠姫(たまひめ)様はまだ混乱しておられます。姫様を納得させることができないのは、全て私ども木葉天狗の所為でございます! 罰ならこの私めに!」
珠音の耳に無邪気な子供の声が聞こえてくる。声の主は珠音をこの異界へ連れてきた張本人。見かけは幼児で黒い小さな羽根が背中に生えており、頭に箱のような飾りを乗せ下駄を履いていた。可愛い黒髪のオカッパの男の子。
「木葉天狗ちゃん! 私を元の世界に戻して……! 東京に戻って出社しないと! ああ、初めて記事を書かせてもらえる筈だったのに!」
「……珠姫様。何度も申しましたが、貴方様はもう現世(うつしよ)へは戻れません。この鞍馬山の霊山から出ることは叶わないのです。お山の結界を生身の人間が一度通れば──」
その言葉を聞き、珠音の頭が急にズキズキと痛み出す。そうだった。昨日、京都の貴船に取材へ行く途中、上司から電話が掛ってきた。急遽、鞍馬も取材してこいと言い出して珠音を困らせた。夕方だったが時間も無いので、出町柳駅から叡山電車に乗り、終点鞍馬駅に降り立ったのだ。
夕方は「逢魔が時」だ。妖が動き出す時間。妖が活発に動く「丑の刻」よりはましだが、それでも眠っていた「彼ら」が動き出す時間なので気を付けなければいけない。そんな不安定な時刻に到着したので、少し辺りに注意を払う。
電車から降りたのは珠音ひとり。駅は無人のように静かだった。周囲を見回しながらホームを歩いていたら、大きな地震があり駅は崩れてしまう。記憶はそこでストップし、目を覚ましたらこの異界にいた。鞍馬天狗の逞しい腕の中に。
「ど、どうしてこんなことに? 私、何かした……?」
溢れ出す涙は止まらない。雫は頬を伝い着ていた白いブラウスを濡らしていく。
今まで出したことなどない程の大きな声を張り上げた。そのせいで珠音の耳にキーンとした音が鳴り響く。
するとドアの外から、バサバサと大きな羽根を動かす音が聞こえてきた。そして蔵全体がギシギシと揺れ出す。これはきっと彼が怒っている証拠だ。
蔵に逃げ込む前に見た光景が、珠音の脳裏に浮かぶ。夜半の嵐のような黒い突風で、周囲を破壊したあの様子が。
「鞍馬天狗様。どうか怒りをお収めくださいませ!珠姫(たまひめ)様はまだ混乱しておられます。姫様を納得させることができないのは、全て私ども木葉天狗の所為でございます! 罰ならこの私めに!」
珠音の耳に無邪気な子供の声が聞こえてくる。声の主は珠音をこの異界へ連れてきた張本人。見かけは幼児で黒い小さな羽根が背中に生えており、頭に箱のような飾りを乗せ下駄を履いていた。可愛い黒髪のオカッパの男の子。
「木葉天狗ちゃん! 私を元の世界に戻して……! 東京に戻って出社しないと! ああ、初めて記事を書かせてもらえる筈だったのに!」
「……珠姫様。何度も申しましたが、貴方様はもう現世(うつしよ)へは戻れません。この鞍馬山の霊山から出ることは叶わないのです。お山の結界を生身の人間が一度通れば──」
その言葉を聞き、珠音の頭が急にズキズキと痛み出す。そうだった。昨日、京都の貴船に取材へ行く途中、上司から電話が掛ってきた。急遽、鞍馬も取材してこいと言い出して珠音を困らせた。夕方だったが時間も無いので、出町柳駅から叡山電車に乗り、終点鞍馬駅に降り立ったのだ。
夕方は「逢魔が時」だ。妖が動き出す時間。妖が活発に動く「丑の刻」よりはましだが、それでも眠っていた「彼ら」が動き出す時間なので気を付けなければいけない。そんな不安定な時刻に到着したので、少し辺りに注意を払う。
電車から降りたのは珠音ひとり。駅は無人のように静かだった。周囲を見回しながらホームを歩いていたら、大きな地震があり駅は崩れてしまう。記憶はそこでストップし、目を覚ましたらこの異界にいた。鞍馬天狗の逞しい腕の中に。
「ど、どうしてこんなことに? 私、何かした……?」
溢れ出す涙は止まらない。雫は頬を伝い着ていた白いブラウスを濡らしていく。
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