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八月灯香

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ヤンキー達の宝物 4

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"しつこいくせに勿体つけてさせてくれねー女ってマジで萎えるしもういいわってなるよなぁ。"

過去に藍と群青が笑いながら話していたのを葵は思い出してしまっていた。

藍君も、群青君も色んな女の人とエロい事してたのを知ってる。

2人とも服装もだらしなかったから、喉元につけられた鬱血の跡を隠しもしてなかった。

親しそうに腕を組んでたけど、一回しかみたことない人も何人もいた。
きっと2人が「めんどくせぇしもういい」ってなっちゃった人も居たはず。

2人はグレてても面白いし、かっこいいからモテてた。

勿体つけて無いけど、付き合ってるのにずっとそういうの未遂に終わってたら李一郎君だってもういいやってなるかな…。

ぼんやりとテレビを観ながら考えていたら隣に群青君が座って来た。

三連休の土曜日、藍君も群青君も家に居る。

2人とも彼女居るんだからそっちに時間取ればいいのにと思ったらそれぞれ友達と家族と旅行行ってるから暇なんだって。

俺は明日と明後日李一郎君と出掛けるけど、夜は帰ってこいって藍君が言って来た。

藍君と群青君と居るのは全然嫌じゃ無い。
2人ともバイクで色んなとこ連れてってくれるし。
だけど俺は今回の休みは李一郎君とずっと居たかった。

藍君の彼女が旅行じゃ無かったら泊まりのチャンスだったのに…

夕方、家族でご飯に行く約束したからリビングのソファでひざを丸めて座ってたら藍君が横に座ってきて襟足を撫でた。

さっき群青君が髪の毛切ってくれたから後頭部の短い毛の触り心地がいいからずっと触ってくる。

「刈りたてずっと触ってられるな。」

サリサリと、指が動くのが気持ちよくて膝を抱いてその上に頭を置いて目を瞑った。

「……?」

ふと藍君の手が撫でるのをやめて俺のシャツの襟ぐりを伸ばした。

なんだろうと思って藍君をみたら、険しい顔になってた。

「……葵もうオーサキと会うな。」

ハッとした。

見えないとこにつけるからって、李一郎君がつけた跡。

ソファから飛びのこうとしたけどシャツの背中を掴まれてソファに戻される。

「どこ行くんだ葵。……オーサキ君は兄ちゃんがなんつったか覚えてねぇんだな。」

コレだからグレてたやつは…猿か。
藍君の吐き捨てるみたいな言葉にムッとした。

「離して」

「あ?」

「離して!」

離してって言ったけど、よりソファに押し付けられた。
藍君の目が、喧嘩する前みたいな目付きで俺を見ている。

…今までこの眼つきが俺に向けられた事は無かったのに。

「藍君に李一郎君の何がわかんの…。」

「そんなもん知るか…すんなって事してんだ!そんなに幾つも濃いのベッタリつけて、何もしてねぇなんて言わせねーぞ!」

「え!何どうした!?」

群青君が部屋に入って来て驚いていた。

藍君がキスマークの事を言ったら「あーあ」っていう顔になった。

「約束守れない奴はダメだ。」

「葵、もう会うのやめとけ。」

「群青君まで……。」

2人とも李一郎君と会うのやめろって、言って来て頭に血が一気に登った。

「なん…で…なんでそんな事2人に決められなきゃいけないの?」

「あ?」

「葵。」

「李一郎君はずっと藍君と群青君が勝手に押し付けた約束守ってる!!」

「じゃあなんでそんな跡ついてんだ!」

「好きな人と一緒に居たらちょっとくらい触りたいってなるのは普通じゃないの…?俺の言ってる事そんな変!?」

「我慢の効かない大咲君が悪い。」

群青君の言葉にカッとなった。
自分達は我慢なんか一つもしてなかったじゃないか。

「何で李一郎君が悪くなんの…俺がいいよって言ったって言ってるのに。」

「あのなぁ葵…相手が女だったら藍も俺もこんな事言ってないよ。」

「女の子が相手だったら藍君と群青君みたいに誰とでも遊んでいいの!?」

「そうじゃねえだろ!」

「そう言ってるじゃん!」

「アイツが興味本位でお前で遊んでるかもしんねぇだろうが!」

「そんな事ない!!ずっと…ずっと李一郎君は自分がグレてた事ごめんねって言ってきてたじゃん!!
どうして自分達が相手を大事にできなかったからって李一郎君もそうだって決めつけるの…?」

2人の顔がより険しくなったけど、怒りはおさまらなかった。

「2人はずっと色んな女の子と遊んでたのに…なんで!2人が気が無い相手とそう言う事するのはよくてなんで俺は大事なたった1人とするのダメなの!!俺は大事にできない相手なんかいらない!!」

大きな声が出た。

目の座った藍君から視線を逸らさない。
逸らしたら気持ちが負ける。

店から帰ってきた母さんが俺の声に驚いて慌てながらリビングに入って来た。

「…李一郎君、ずっと俺の事大事にしてくれてる。李一郎君…荒れてた中学校の頃みたいな事一個もしてない。」

だから李一郎君と会うのもやめない。2人を睨みながら断言した。

「「葵…!」」

怒った2人の声が重なる。
2人が怒ったって怖くない…。

「俺が…俺が李一郎君の事好き過ぎるのに…なんで李一郎君の事何も知らない2人が俺の好きを否定すんの……自分達が過去に間違ってした事を…俺で正そうとしないで…!!」

胸が詰まって声が震えてしまう。

「…李一郎君が2人のせいで俺の側から居なくなったら…どうしてくれんの…………。」

喉の奥が熱い。
母さんが眉間に皺を寄せている。

「あ……藍君も…群青君も…嫌い!」

その一言を言ったら目頭が熱くなって堪え切れずに涙が出た。

2人がショック受けた顔になった。
そんな顔するなんてずるい、俺だって言いたくなかった。

俺が、悪いの?

遂に兄達の顔を見ていられずに俯いた。

「葵…」

背中を掴んでた手が緩んだ。

「お兄ちゃん達、もう本当にいい加減にしてやんなよ。言いたくない事まで言わせて…取り返しつかないくらい本気で葵に嫌われるよ。」

「うぅ~~~」

「これ!」

母さんが間に入ってくれて背中を掴んでた藍君の手をたたき落とした。

「コラァ!」

いつの間にか仕事から帰ってきた父さんが藍君と群青君の頭に拳骨を喰らわせた。

「った!」

「自分達の時を考えて弟が心配なのはわかるけど、やり過ぎはよく無いよ2人とも。自分達の思い通りにいかないからって葵を泣かせるのはやめなさい。」

「だってよ…」

「…お前ら調子に乗んなよ。この家で好き勝手出来ると思ってんのか?お?」

と父さんが聞いた事ない声を二人に出した。

2人の時は葵とは比べものにならないくらい本当に手を焼いたよねぇ。
怪我ばっかりするし物は壊すし。
学校にも何回呼び出された事か。

と父さんが母さんに言った。

2人はそれを聞いてバツの悪そうな表情を浮かべていた。






「嫌いはキツイ…。」

「葵マジギレしたな…。」

はー…と大きなため息が出る。

夕飯時に家族連れで賑わう店内で飲みたくもない薄いコーヒーを目の前にしながら男2人が先程の葵の事を思い出して気が滅入ていた。

「クソ……」

直後、父親から「2人とも大人なんだからよく考えて反省して。」と家を閉め出され、近所のファミレスに来ていた。

葵はずっと後をついてくる小さくて可愛い葵のままに思っていた。

大きくなんてならないで欲しい。
可愛い弟のままで居て欲しい。

そうだ、ずっとそうだったんだからそれでいいとグロテスクな思いをずっと葵に押し付けて来た。
それは藍、群青2人ともそうだった。

「大人になるんだよな…」

「は~~~びっくりするくらい寂し~~~!!なんだこれ!!」

群青がいいながら机に伏せた。

勝手な事を強いていた自覚はある。
葵はそれでもずっと従って来てくれた。
自分達はフルに謳歌してきた学生生活を、自分達のせいで取り上げた。

手離すタイミングがわからずに言う事を聞かせ続けた結果葵に泣きながら「嫌い」と言わせた事が2人には何より効いた。

小さい頃、足元に抱きついて来ておかえり、と見上げてくるのを抱き上げると、頬に唇を押し付けて来た。

あいくん、ぐんじょくん、と後をついて来たのを思い出して二人は奥歯を噛み締めた。


「藍さん、群青さん」

こんばんは、と声をかけられた。

「…大崎君!?こんなとこでなにしてんの?」

「いや、そっちこそ…姉の家族と夕飯に来たら2人が居たので。」

藍と群青は李一郎を見て大きなため息をついた。

「葵君から2人と喧嘩したって連絡来ましたけど…」

「…葵チクるなよ…オーサキ君そこちょっと座ってくんない?」

藍に指図され李一郎は素直に群青の隣に腰を下ろした。

「…オーサキ君さぁ、そんな見た目してんだから相手に困らねーだろうしモテんだろ?何で葵なの。」

藍がピリピリした様子で机に肘をつきながら聞く。
群青が藍の言い草に嫌そうな顔をした。

藍はコイツさえ居なければ葵を泣かせる事も無かったのに。と己の事を棚に上げて李一郎を見てしまう。

「何で…何でっていうかきっかけというか…中学の頃の話って葵君から聞いてますよね…。」

「オーサキ君が学級崩壊させてた時のなら葵が家で毎日家でキレてたから聞いてる。」

「藍、言い方。」

嫌味な言い方をされても「ちょっと話していいですか?」と李一郎が2人に聞き藍が顎をしゃくって先を急かした。

「あの時はすみません。…中学の俺はずっとバカやってて、ずっと何かに怒ってたから全部めちゃくちゃになればいいって思ってたんです。…三年の文化祭で仲間とふざけて罰ゲームでクラスでおとなしい葵君呼び出して告白させようぜって。」

藍の視線が鋭くなる。

「待って待って藍、中坊の頃の話。」

群青に宥められ、藍は深呼吸して気持ちを落ち着けた。

「…続けて。」

「その時に、葵君が自分より背の高い相手に怯む事なく応対して…葵君、捻くれてた俺達の誰よりも聡明で中身も強かった。そっから一気に惹かれた感じで。」

何かわかんないけど学級崩壊止まった。
と葵が言って来た事を思い出す。

そこからソデにされ続けたけど、徐々に話してくれるようになって。

高校も追いかけて。

気が付いたら葵君の事相手男とか関係なくどうしようもないくらい好きになってるのに気が付きました。

「大咲君根性あるな。」

立派にストーカーじゃねぇかとムッとしたところで群青が言った言葉にハァ~~~~と藍が大きなため息をつく。

訳がわからずいろんな物に反抗していたのは自分も覚えがある。
説明出来ない怒りを解消出来る気がしたからいろんな物に逆らった。

それは藍も群青も経験のある苦しみだった。

「…ホント腹立つ…葵の事大事にして。葵に振られたら潔く返して。」

「そうならない様にします。」

李一郎は苦笑した。

もう何も言う事はない。
これ以上ゴネても葵が益々離れていく事になるだけ。

李一郎は葵を大切にする。
そんな事はもうわかっている。

もう行ってていいよ、と言うと李一郎は頭を下げて立ち去った。

「大咲君俺らより人間できてんじゃん…葵見る目あんなぁ。」

「…そうだな。それ言ったらオーサキ君も葵選んでんだから見る目あるよ。」

「間違いない。」

群青が尻からスマホを取り出してすぐに耳に当てる。

「父さん。はい、うん、何処?あー、あの看板のとこ。わかったすぐ行くわ。うん、藍も今いる。
藍、父さんが三丁目の角の所の焼肉屋に来てるけど俺らのせいで葵が落ち込んでご飯食べないからすぐ来いって。」

「わかった。」

藍は重くなった腰を上げた。
葵は許してくれるだろうか…。
そんな心配が湧いてしまう。

焼肉屋に着くと、2人の顔を見た葵はパッと喜びの表情になったが、父親に肘で突かれ怒ってるふりをしてやっとご飯を食べ始めた。

「葵、A5のお肉たべたいよね、お兄ちゃんたちお詫びにご馳走してくれるって!」

「「…。」」

母親と父親からの有無を言わせない圧が2人にかかる。

「…好きな物食べな。」

「一番高いの食おうぜこうなったら。」

「やった!希少部位食べ比べセットと上タン塩と冷麺もくださーい!」

葵の表情が明るくなってホッとした。

「特上ハラミとホルモン。俺ビール飲むけど父さんと母さんは。」

「馬刺しも頼んで。」

「エイジングって何?」

「知らん、頼め頼め。」

藍と群青も開き直り会計がなかなか楽しい事になったが、葵の機嫌が直るのならば安い物だと2人は思った。

「…年長者なんだから端数は藍が払えよ。」

「…お前そこは俺から言ってそうなるのはいいけどお前から言ったからきっちり折半!」

「見ろ葵、藍の大人気ない姿を。」

群青が藍を指差した。

「群青君俺まだ怒ってるから後でアイスも買って。」

「…わかった。」

帰り道、家族で並んで歩いて帰った。
父と母から遅れて兄弟達が並んで歩く。

葵は食べ終わったアイスの棒を何となく口に咥えたり離したりしていたが、ふと歩みを止めた。

「…藍君、群青君…嫌いって言ってごめん。」

「…謝るのは俺らだわ。葵。」

藍が立ち止まって葵を見る。

「ごめんな。」

藍の困ったような、寂しそうな顔に葵はたまらなくなって抱きついた。

「許してくれんの?」

「許す…」

俺もハグしてよと群青が道端で手を広げて言ってるのを見て葵は素直に抱きついた。

「ごめんな葵。」

傷付けたいわけじゃない。
傷付いて欲しくなかったから。

その想いが強すぎて、葵を傷付けてしまった。

「嫌いは嘘だから…」

胸元に顔を埋めた葵の言葉は、群青の胸の奥に刺さった。

「にいちゃん達はどんなでもお前を愛してるからな。」

そう伝えると葵は嬉しそうに笑った。
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