短編集

八月灯香

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氷解2

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車の後部座席に押し込まれ、
そのまま流星も入って来た。

反対側から出ようとしたらノブを触る前に大きな身体に素早くドアに押し付けられて動きを抑え込まれた。

くっそ…

「出せ」

流星が運転手に命じると車は音もなく発進して屋敷へと戻った。

「離せよ!」

流星は俺の言葉を一切無視した。

「聞こえねぇフリすんなよ!こ…の!!!」

みじろいだって流星の体格と力に勝てはしない。
無駄に抵抗してもこっちが痛い思いをするだけだ。

屋敷に着くと車から無理矢理降ろされ、一言も発せず俺を引きずって浴室に放り込んだ。

使用人達は「またか」という空気を出している、

乱暴に服は剥ぎ取られ、壁に身体を押し付けられる。
嫌でも力の差をわからされてしまう。

シャワーを全身に浴びせかけられ、流星が納得いくまで洗われる。

これも何回もやられてるからもう抵抗はしない。

尻の穴にも散々指をいれられた。

ここまで来るとその瞬間は出ていくとかそういう気持ちは全部なくなる。

血が繋がった立場的には甥にあたる流星に制圧されてる。

前に逃げようとしたら、直ぐに床に転ばされて、

「逃げたら足首このまま折るぞ。」

と足首に体重をかけて踵で踏みつけられた。

あ、これは本当に折られるって思った。

本当にムカつく。
俺は下から無様に睨み返すしかなかった。

身体を拭いて出ると、ソファで流星が片手で頭を抱えていた。

「そんな疲れるなら探さなきゃいいだろ。」

何で毎回こんな直ぐに見つかんのか不思議に思ってたんだけど、母親にボコられて入院した時に身体のどっかに発信機みたいなの埋められてるって。

「外でのたれ死んだ方が宝来にとってもいいくせに」

小さい声で言うと、流星が立ち上がって近づいてきて俺を睨みつけて見下ろした。

…何にも怖くないからな。

「何、のたれ死なれるのが困るんだったら上手にそっちで始末してよ。
臓器困った人にばら撒くなりしてくれたらゴミみたいな俺でもちょっとは役に立つじゃん」

自嘲気味に言う俺に何か言いたげにしてたけど、流星は眉間に皺を寄せた後直ぐに部屋を出ていった。

気分的には殴られた方がマシだった。

流星は怒りでは無く、ショックを受けた様な痛々しい表情をしていた。

俺はこんな事しか流星に言えないのだろうか。

自分に嫌気がさしてはじめてしんどくて涙が出た。

俺が何度逃げようとも流星は迎えに来る。
どれだけ俺が酷い事を流星に言っても。

喚いて暴れようとも、屋敷から追い出された事は一度もなかった事にその時気が付いた。

俺だけがこの屋敷で異質。
外にも、何処にも居場所が無い。

生きたくないのに死ぬ事も許されない。

それから暫くは大人しく過ごした。
同じ大学の中に宝来の関係者の息子が居て、俺のそばをついて回る様になった。

最後に尻を貸した奴はあの後喧嘩がひどくなって別れたって噂に聞いた。

ヤらせてよ、と言いに来る奴も居なくなった。
そばに目付けがいるから。

最初からコイツがいたら何も起きなかったんじゃ無いのかとも思う。

ただ、コイツからもよくは思われてないっぽいから会話はない。

話しかけても無視されるだけだった。

徹底的に孤独にされてる気になった。

頭がおかしくなったフリして、橋の欄干の上を歩いた。
身が危険を感じてゾワゾワした。

「イエーイ!」

「危ない!」

やめさせようとしてくるけど、逆につき落とす事になるかもしれないと揉み合う様な事はしてこなかった。

宝来の関係者の息子は険しい顔で何処かに電話をしはじめて、少しこちらから顔を逸らした。

「アハハ!バイバーイ」

トン、と手すりを軽く蹴るとあっという間に身体は逆さまになって頭から川に落ちた。

風が顔を撫でる。
空は抜けるくらい青かった。





いつだったかの正月に祖父が孕ませたという子供を連れて来た女がいた。

小さく痩せた子供。

親戚が集まる中、女は最初はおとなしくしていたが、徐々に喚きながら子供の血が繋がってる事を主張した。

子供は不安そうに女の顔を見ていたが、女は子供を置いて出て行こうとした。

母親を追いかけて殴り飛ばされて床にへたり込む子供に大人達は戸惑いの目を向けるばかりだった。

あんな風に大人に殴られる子供を初めて見た。

子供は父さんの一番下の弟になるらしい。

宝来倭

戸籍にはきちんとそう記されていた。
寝たきりとはいえ、ボケてはいない祖父は倭の事が祖母にバレてしまったが、倭が自分の子供である事をはっきりと明言した。

倭は、俺と同じオッドアイの瞳を持っていた。

儚げな表情で、同い年と思えないほど華奢な倭…

話しかけても、遊びに誘っても倭はどうしたらいいのかわからない様子で、

「構うな」
「ほっとけ」
「触るな」

声変わりのしてない高い声で短い拒絶の言葉を毎日吐いた。

父さんにも母さんにも、祖父母にも懐かずに、広い家で孤独になろうとしていた。

部屋の角に膝を抱えて座り込んで周りを睨みつけていた。

誰が声をかけようとしても拒絶した。

兄弟達は野生動物の様な倭に近づこうにも怒られるので遠巻きに見ていた。

食事も一緒には摂らないので、部屋に持って行くが、毎食殆どが残されていた。


教育もまともに受けてない様に大人達は困ってとりあえず教養位はと口の硬い者を倭につけてみたものの、初めの頃は倭のあまりの口と態度の悪さにため息をついていた。

それでも地頭は悪くなかったので、学ぶ事が楽しいと思い始めたらしい倭はいろんな事を吸収し始めた。

「倭!お母さんの所に帰って来て!」

倭が中学に上がる頃、あの女が泣きながら倭を取り戻しにやって来た。
玄関先で使用人達に取り押さえられていたが、喚き声に気が付いた倭が部屋から走り出て行き女に抱きついていた。

何を勝手な事をと俺は怒ったが、縋る倭を見てどんな形であれ、あの様子だと母親と居た方がいいかもしれないと返す事になった。

この判断は後に大人達を酷く後悔させる事になった。

次に倭に会えた時は、皮膚が青くなるほど顔面を殴られて、ベッドの上で眠る姿だった。

美しい顔は腫れ上がって縦にガラスで切った傷が入り、一生残るかもしれないと医者が言った。

細い腕には大量に横線が入っていて、
新しいものもあり、それが自分で作った切り傷だと言うことがわかる。

「リストカット癖がありますね。」

医者がそう言った。

身体をみたけど、性的暴行の跡もある。
事故と聞いてるけど多分この傷も家の中で起きた事の可能性が高い。
カウンセラーが必要かもしれない、と言われた。

父さんも母さんも変わり果てた倭の姿を見て青ざめていた。

はらわたが煮えくり帰りそうになったが、子供の自分がいくら喚こうが、出来る事には限界がある。

再び倭は屋敷で生活する様になった。

ホッとした気持ちになったが、倭は小さな頃より目つきも闇く胸騒ぎがする空気を纏っていた。

家でも自傷は止まらなかった。
やめろと言っても「うるせえな構うな」と睨まれた。

あまり追い詰めると大きな声を上げながら、傷をわざと爪を立てて掻きむしって見せてくる。

その度に金井が「倭坊ちゃん!いけません!」と止めに入った。

そして高校になってから再び倭から普通じゃない、誰かに手を出されたんだなとわかる気配をさせる時があった。

倭の外見はそう言う類を寄せる。

まるで美しい野生動物の様で触れて手籠にしたい欲求が湧く。

その欲求に関しては手を出さないだけで俺も同じだった。

そして再び倭は自分を傷付けた。

何となく胸騒ぎがした。

部屋をノックしたが反応は無くて。

いつもなら「何」とぶっきらぼうに声が返ってくるのに。

ドアを開けたら倭は机に伏せていた。

「倭?」

眠っているのか声をかけても反応はなく、下がった腕からゴミ箱に液体が垂れていた。

ゴミ箱に溜まった液体が何なのかわかった瞬間、ゾッとして血を止める為に腕を縛り上げ、抱き上げた。

急いで病院に連れて行き、処置をした。
屋敷は再びの倭の行動に騒然とした。

「大丈夫ですよ、結構出血してますけど致死量じゃなかったです。」

毎度困ったもんですね、と医者は言った。

何度も繰り返される自傷。
何とか止められないものかと部屋を同じにしてもらった。

父さんも母さんも倭の事を心配はしていた。
しかし倭は一向に心を開くことはなかった。
大人達には機械の様に表情をなくしながら受け答えはしていた。

大学にも入学できたが、倭はよりやけになっていた。

宝来の名前が悪いのかと倭が唯一まともに話すことのできる金井の姓を名乗らせた。

大学に通う様になって、どんどん破滅的になって行ってしまう。

倭と俺の通う大学が別だったので直接守る事が出来ないので宝来の分家の者に見守りをさせていた。

ある日、倭が構内でウリをやっていると言う報告が届いた。

よくよく調べさせると、始まりは倭に振られた奴が腹いせにまいたデマが、いつしか倭が本当にしてしまっていた様だった。

倭が何処に行ったか、誰と居るかを数人に報告させる様にした。

倭は体内に何か埋められたと思っているがそんな事はしない。
もし本当にそうならば、どれも事前に止めに入れた。

思い込んでいるならその方が好都合かもしれないから「そうだ」と言った。

何度も倭が男と関係を持った様子だと報告がきて、誰かに身体を許した倭を風呂場に押し込む度に頭が熱くなった。

倭の全身を洗いながらここを誰に許したんだと口には出せずに執拗に倭の後ろの孔に指を差し込んだ。


最初はやめろと喚いて抵抗していたが、もうそれも無くなった。

一度、逃げようとした倭を逃げるなら足を踏み折ると脅してしまった。

リストカットもいくら刃物を没収したところで、切るものを簡単に入手されてしまって止まらなかった。


倭の大学の理性の無い猿どもには辟易とした。
一人排除してもまた次が居る。

遠巻きに見まもらせるだけだった監視の一人を倭の側につけた。

その事が幸いして倭が声をかけられることはなくなった様だった。

しかし数日後、

「倭さんが喚きながら橋の欄干に登って…落ちるかもしれません。」

位置を聞いて直ぐに向かった。

倭は既に川に落下した後だった。

幸いながらその日の水位が高く、流れも早くなく、直ぐ川から救出されたのもあって、多少水を飲んでいたものの倭は意識を失うだけで済んだ。


何度止めても倭は死のうとする。

俺は何度倭を失いそうになればいいのだろう。

倭の世界に、どうしたら介入出来るのだろう。


病院の個室のベッドに意識を失った倭。
この光景を目にするのは何度目か。
せん妄を起こして点滴を引き抜いて暴れた過去がある為、倭はベッドに拘束されて居る。


倭。
もう俺はお前が自分を傷付けて死のうとするのが許せない。
倭が自分を要らないのなら、俺が倭の全部を貰う。

倭が目を開けた。

少しぼんやりしてから、ヤケになって笑った。

「まじウケる、毎回毎回なんなんだよ……
俺なんかもういらねーんだって。」

ふざけんなよ、と天井に向かって倭は叫んだ。

思わず倭の顎を掴んだ。

側に居ると思って居なかったのか倭の瞳が俺を見て怯える様に震えた。

「倭が自分を要らないと言うのなら、倭は俺がもらう。 
勝手に死ぬのは許さん。」

「なん…!」

噛み付く様に倭に口づける。
最初からこうすれば良かった。

倭の生活を尊重しようなどと、しなければ良かった。
温室に押し込めて、外になど出さなければ良かった。
過去の行動の間違いに怒りの火が直ぐに身体中をまわる。

「ん…ぐ!!!」

倭が手を動かすと、支柱に固定された拘束具がガシャガシャと音を立てた。

倭の顔を両手で掴んで固定した。
不安に揺れた瞳が一瞬見返してくるがすぐに逸らされた。

「倭、いいか。」

顔を掴んでもなおこちらを見ない倭に激しく焦れる。

「倭!聞け!俺を良く見ろ!お前は要らなくない。
宝来に連れて来られた日からずっと俺はお前をどうしたら救えるのかを考えている。
お前を傷つけるもの全てを、どうしたら遠ざけられるかを。

倭が窮屈にならないようにと普通の生活をと思ってやった事が裏目に出てこうなってしまったんならもうやめる。
もう家から出さない。
人目のつかない所に閉じ込める。

倭、お前の全ては俺の物だ。
お前が要らないと捨てたんだ。
いいか、倭。
俺にはお前が必要だ。
倭が居なくなると想像するのも耐えられない。」

「流星…」

倭は表情を歪めて泣き始めた。
小さい子供が、親に叱られた時の様な泣き方だった。

ずっと嫌な事を我慢して、我慢し続けた倭がきちんと泣けた事なんて人生で何度あったのか。

あの母親の元では子供らしく育つ事など出来はしなかっただろう。

拘束具を外して、ベッドに腰掛けながら倭を膝の上に抱き上げると、素直にしがみついて泣き続けた。

倭は色んなものに振り回されて、全ての人間を信じられなくなった。

宝来が"よかれ"と思って普通の生活をと思ったが倭が生きるためには通用しなかった。

目まぐるしく強制的に変わる環境、集まってきてしまう好色の目を持った人間の悪意。

倭はそれらに晒されて、何度も生きる事をやめたくなった。
拒もうが、奪い去られる。

「いいか倭、お前はもうお前の物じゃない。
俺の物なんだ。
もう傷つけないでくれ。」

背中を撫でながら言い聞かせると、少しだけ倭は頷いた。

「宝来の家の者は皆、倭の敵ではないし、父も母も倭を心配している。
ここの医者もそうだ。
誰も倭を疎んではいない。
酷い目に遭ったかもしれないが、俺は倭が二度とそうならない様に努力する。」

倭は暫くそのまま泣いて、次第に落ち着いて行き、眠りに落ちて行った。

少しだけ倭の世界に介入出来た様な気がした。



倭の状態が落ち着いてから、屋敷で流星は毎日倭と同じベッドで眠りにつく。

大きなベッドの端っこにいる倭を毎日背中から抱き寄せた。

小さい身体がきちんと呼吸してるのを確認して安心する。


先に起きて倭を胸に乗り上げさせ、無防備に涎を垂らしながら眠る姿を見る度に愛おしさが増した。

リストカットの跡も倭は素直に治療を受け始めた。

顔面の傷も薄くできる様だ。

態度も徐々に軟化して野生動物の様な鋭さのあった表情が、少しずつ柔らかくなり、食事も家族と摂る事ができる様になった。

母親との生活の事も少しずつ聞き出せたが、あまりの酷さに流星は怒りでいっぱいになった。

それで分かったことは小さい頃の食生活の影響なのか、倭はとてつもなく偏食だった。






「倭さんおはようございます。」

「徹也君おはよう。」

倭の監視役をしていた同級生の鬼崎徹也とも口を聞く様になった。

徹也は宝来の関係者の息子で、宝来は本家、鬼崎は分家の立場故に、親からもくれぐれもと言われていたし、倭と気安く口を聞いてはいけないと思い込んでいた。

橋の欄干から倭が飛び降りた後、流星から直接大学生活で友人として寄り添ってやってくれと言われた。

人が高い所から落ちるのを見る事になるとは思わなかった。

川底が剥き出しになっている場所だったら、倭は今こうやって生きていなかっただろう。
義務で見守って居たが、倭の人間性を知ってしまうと思い出すだけでゾッとした。

あんな簡単に飛び降りるなんて。

流星から倭の育ちの事はある程度聞いていたが、話をしてみると倭は時々口の悪さは出るが、性格に棘のない普通の同世代だった。

見た目の造形の良さがあるのに育ちのせいで人を拒む空気が逆に変な人間を寄せ付けてしまっていたのかもしれなかった。

倭がやたらと男に身体を許す様な人間には思えなかった。

他愛のない話にも笑う様になった。
花が咲く様に笑うというのはこう言う事なのかと徹也は思った。

「徹也、倭に近づきすぎるな。」

友人として仲良く、と言われていたのが今度は流星からあからさまに言葉で牽制される。

どうやら家で徹也の事を嬉しそうに倭が報告するのだそうで。

再び言葉を交わさず見守るのがいいのか…とも思ったが、倭がまたあの状態に戻ってしまう方が徹也の立場がやばくなる、ただの流星の嫉妬と思っておく事にした。


「…倭さん、俺の事あんまり家で流星さんに言わない方がいいですよ。」

「え、徹也君、流星になんか言われた?」

「倭さんに近づきすぎるなって。」

「どういう事…同じ大学だし徹也君しか頼る人いねーのにそんなの流星に言われても困るやつ…」

また俺の事無視すんの…?
と倭が俯いてしまった。

「しませんよ。
ただの流星さんの嫉妬ですから。」

「何で流星が嫉妬すんの?」

「それは流星さんから聞いてください。」

俺から言ったらそれこそ俺が消されそうなので。

徹也の言葉に倭はハテナを浮かべるばかりだった。


屋敷に帰って、倭はマジマジと流星を観察してしまった。

時々目があって「どうした」と聞いてくるが、流星に変わった所は無く、倭は頭を傾げた。

夜、寝床に入ると当たり前の様に流星はベッドに入ってきた。
流星のベッドも別の部屋にちゃんとあるのに。

夜中に目を覚ますと、背中に流星がくっついている。

朝起きるといつのまにか流星の上に乗っている。


「なぁ流星、俺の事好きなの?」


思わず言葉が出た。

流星がガバッと身体を起こしたからびっくりしてしまう。

「…徹也から何か言われたのか?」

ちょっと不機嫌そうな視線。
倭は首を振った。

「言われてない…俺が何回死のうとしても助けるし、
お前は俺の物とか言ってたし、
自分のベッドあんのに毎日入ってくるし、

そうかなぁって。
違ったら忘れて。」

倭がおやすみ、と身体を反対に向けようとしたのを止められる。

「倭が自分でそう思ったのか?」

「そう。あ、徹也君に俺に近づくなとか言うのやめろ。」

せっかく友達出来たと思ってんのに、と言おうとしたところでキスをされる。

「倭」

好きだよ、と言いながら倭は深く抱き込まれて息が詰まった。

「くる…し…」

流星は身体を離してすまないと言いながらも、キスも抱きしめるのも、倭はもう俺のだからやめない、と言って再びキスをした。

でも俺が流星の事を好きなのかはわからない。と言うとそれでもいいと流星は返した。


それから流星は屋敷内で人が居なくなるとキスしてくる様になった。

起きたら、
玄関を出る前に、
帰ってきたら、
寝る前、

ゴミを取るふり、
襟をなおすふり、
用事のあるふり…

なんかテンションが上がった時なんかは舌を入れて来ることもある…。


「徹也君、普通の人って家の中のどこでもチューするもんなん?」

「…する人はするんじゃないですか…。」

え、あの人あんな涼しそうな顔してそんな事になってるのかと徹也は思った。

「徹也君は恋人にそういうのする方?」

「…し…ま……………す、します。」

余計な事を言って"徹也君はしないって言ってたぞ"などと倭が流星を避ける様な事になって鬼崎家が睨まれるのは困る。

倭はふーん、と納得したのかしてないのかわからない相槌をかえした。




その日の夜、倭はベッドに寝転んで、自分から流星にキスをしてみた。

流星は驚いていたが、徹也から今日の事を聞いていた流星は倭の身体に腕を回して「勘違いしそう」と苦しそうに言った。

倭は流星の身体に乗り上げてキスを落とした。
しばらく唇をつついて身体を起こすと、倭の尻に流星の昂りが当たった。

「倭…」

腰を下にずらして、倭の股間を流星のそれにすり寄せてみると甘く腰が痺れた。

「んぅ…」

流星が腰を掴んで強く擦り付けた。

「ん…ん………ふ……ぅ……!」

誰かに欲情するのは、こんな風になるのかと倭はぼんやりとおもった。

強くあて擦られて身体が熱くなる。

流星が身体を起こし、倭を下にした。
余裕のない顔で、下履きを剥ぎ取り足の間に身体を割り入れる。

ズリ、と剥き出しの性器を擦り付けられる。

熱くて、自分より大きい身体。

「は……ん……!」

大きな手に一緒にして握り込まれて息が詰まった。
流星が口の中に舌を入れて来きてあっという間に倭の息があがった。

「倭も触って…」

手を下にやると一緒に握り込まれた。
上着が胸元まで捲り上げられ、ニチュニチュと音が聞こえてきて倭はどんどん追い込まれた。

「あ…で………る!出る……!!ンァ…!」

ジンと下肢が痺れた。
遅れて流星が倭の腹の上に吐精した。

流星のオッドアイの瞳が射抜いてくる。
優しく唇を啄まれた。
薄く口を開くとすぐに舌が差し込まれる。
流星に口の中を丁寧に舐められる。

「…ン…」

流星は倭の腹をティッシュで拭ってから、ベッドを降りてタオルを濡らして持ってきて再び倭の腹を綺麗に拭いた。

「しないの?」

「倭が俺を好きになったらね。」

倭はすこし流星を眩しそうに見た。

流星は、今まで自分に言い寄ってきた男達とは違うのかもしれない。

こっちの気持ちを無視して一方的に倭を好きだから、と無理に組み敷いたりしない。

倭は満ち足りた気持ちで眠りについた。


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