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シュテルンの幸福
しおりを挟む自分の呻き声で目が覚めた。
身体も頭も鉛のように重い。
指を動かすだけでも酷く億劫でたまらない。
やっと瞼が開いたと思ったら真っ暗闇だ。
ここはいったい何処だ。
腕を少し動かすとしゃらしゃらと音が鳴った、どうやら布の上に寝かされているらしい。
服は着ているようだ、先程より微かに力が戻ってきている。
脚は動くか…緩慢な動作で触ると左足首には金属の感触がする。
鎖のついた枷が嵌められているようだ。
蹲る体制になってから上半身を起こす。
首にも装飾品が付けられている。
身を動かすたびに薄い金属の飾りがぶつかって揺れて音をたてる。
目は闇に慣れずに見回しても何も見えてこない。
だが思い当たる事がある。
ああ…そうだったとシュテルンは思った。
俺は贄にされた。
この自然に囲まれた山陰の街には言い伝えがある。
神の加護を受け続け栄えたければ渓谷の洞窟の中に棲まう神に嫁御を届けよ。
さすらば疫病、天災や飢えに困る事は無し
神の加護によりて全ての者は守られ暮らしは安泰となる。
ただし30年に一度、若く美しい娘を神の嫁御として洞窟の中に建立された神の屋敷に捧げよ、決して忘れるな。
馬鹿げた迷信だと笑う人も居るがそういうお告げを聞いた僧侶が何百年も前にいて、人々はそれを忠実に守ってきた。
*
シュテルンには家も、家族も無かった。
病と貧しさで両親は早くに亡くなり、兄妹もなくただシュテルン一人が遺された。
親がいなくなった子供の面倒を見るほどのお人好しは現れず、シュテルンは可哀想に思った大人に手を引かれ街の寺院へと連れて行かれた。
面倒を見て貰ったと言っても、最低限の食事を与えられ死なない様には施しをうけた、手伝いは色々させられたが教育は受けさせては貰えなかった。
ここ最近街の老人達はざわついていた。
「そろそろ贄を選出せなならん。」
「しかし今適任の若い娘は皆結婚しておるし金貸しのあの家の娘達くらいだ…あとはまだ乳臭い子供だ。」
「あの金貸しの親父は3人娘はおるが出さんだろう、となると外から奴隷の娘を買うかしかない」
「困ったな誰がそんな金を出すんだ。」
と難しい顔をしていたのを聞いた。
その時のシュテルンは男だし自分にその贄の役が降りかかるだなんて思ってもいなかった。
*
寺院ではシュテルン以外にも子供を数人預かっている、みんな幼くして捨てられたりして身寄りがなかった。
成人を迎えてから寺の駒使いの役割を担っている。
神を祀り、命の尊さを説き、時には心の拠り所となって寄付や施しを貰っている以上、この寺院が身寄りの無い子供達を拒む事はない。
拒む事がないが陰で貴族やいかがわしい人間に子供達を売り払ったりして居る。
シュテルンはそういう子供が出るたびに悲しい気持ちに襲われた。
どうか、買われた先で少しでも飢えることなく幸せにいて欲しいと礼拝堂の床に何度も頭をつけ指を硬く組み、居るのかわからない神に祈るしかできなかった。
私欲で肥えた腹を揺らす座主の汚い笑い顔が嫌いだった。
シュテルンは座主のお気に入りだったから、手放されずにここまでいられただけだ。
*
「シュテルン、この処方箋を持って街の外れの薬屋で薬を受け取ってきてくれ」
と蛇のような眼をした僧侶にお使いを言い渡される。
隙あらば性的な意図を持って肌に触れようとしてくるから、こいつの事も大嫌いだ。
文字の書かれた紙を受け取ろうとするとギュッと手を握ってきた。
嫌悪感から手を引こうとしても離してくれなかった。
ねっとりとした気持ちの悪い指先で手の甲を撫でられる。
「可哀想に」と小さく呟いた気がしたが、手を振り解いて走って寺院から出た。
鳥肌が止まらない。
気持ちが悪い。
中央広場まで走り出て噴水で手を洗った。
シュテルンは面立ちが整っていて、時折そういった癖をもった男が近寄ってくる。
髪も淡い金色で長く、瞳は澄んだ青色をして肌の色も白い。
本人だけが気が付いていないが、時折匂い立つような色気を放って居る。
怒りで叫び声をあげそうになるのを殺して噴水の縁に腰をかけ息を整え、顔を晒さないように肩に巻いていたストールをフードのように頭にまいた。
街は祭りの準備で活気だっていた、人々の顔は期待のこもった明るい笑い声で溢れているのに、シュテルンだけは鬱々として用事を遂行させられている。
街の外れまで来ると、人気が少なくなり、治安が極端に悪くなる為普段はあまり来てはいけないと言われていた場所だ。
古く朽ちかけた薬屋の看板を見つけ、建物の中に入り「すみません」と店の奥に届くように問う、
中は埃っぽく、本当に営業しているのかと疑いたくなった、再び問いかけようとすると突然入り口のドアを外から施錠する音がした。
驚いて振り返ると薬品で湿った布を口に押し当てられ、咄嗟に腕を解こうにも体格の差もあり力の差は歴然だった。
処方箋だと渡された紙を取り上げ、男が紙を拡げてもう一人居た男に鼻で笑いながら言う。
「コイツで間違いない。成る程、これなら変わりも務まるだろう」
*
気がつくと、知らない部屋に居た。
手脚は縛られて口枷まで嵌められ椅子に縛りつけられている。
「気が付いたか」
目の前のソファに高そうな服に身を包んだ太った中年の男が座っていた。
指にはごつい金のシグネットリングが嵌められている。
「お前、ウチの娘らのかわりに生贄になってもらうぞ。」
と言い放った、リングの紋章から金貸しをやって居る男だと気が付いた。
娘は婚姻で地位と金を生むから、只で贄にくれてやるわけにはいかんのだと笑っている。
「寺にはもう高い金を払ってある。お前に拒否権はない。大人しく贄になってもらう。」
立ち上がりこちらに近づいてくる。
「しかし惜しい顔してるな。お前をもっと前に知っていればあんな寺院に押し込めずに俺がお前を使い込んでやれたのに」
下卑た笑いを発しながら頬を舐められた。
生臭い息が顔にかかる。
「まあ…明日には贄になるのにいらん手垢をつけて神の怒りを買うわけにもいかんからな」
不愉快な笑いが鼓膜に届く。
シュテルンは身を硬くして耐えた。
*
贄の儀式の日は酷かった。
ずっと薬を嗅がされて何も抵抗出来ずに身体を清められ、服を着せられて装飾品をつけられた。
この地方の花嫁衣装で全身を飾り立てられる。
そこにシュテルンの意思などなく、ただの人形の様に扱われていた。
朦朧としたまま、生花で飾り立てられた神輿に乗せられる。
街は神事で湧き上がり出店も賑わって楽器隊だっていた。
華やかな外見とは裏腹に、贄になってしまったシュテルンの意思と自分は奪われ、身じろぐ事すら許されない。
むせかえる花の香りの中でシュテルンの乗った輿の中では鎮静作用のある香が炊かれている。
神事は毎年決まった日に行われ、贄が献上されるのは30年に一度だ。
毎年花嫁神輿は出るが、今回は人形の花嫁ではなく贄が乗せられている。
30年前に贄を目にしたことのある人達は一斉に神輿に向かって組んだ手を額にあてて祈りを捧げていた。
その様子を見て真似て祈る人も多い。
本物の人と人形の区別がついていない子供らが嬉々として神輿の後を追いかけてまわる。
去年はシュテルンも祭りを子供らを連れて楽しんだ、その歓喜の声が今は自分に向けられている。
シュテルンは朦朧としたまま神輿にのって街を横断し、禁足地と呼ばれる渓谷の洞窟へと運ばれた。
洞窟の真ん中に建立された神殿は街の人達の畏怖の対象だ。
神のウロや冥界の口とも呼ばれていた。
ここは一足でも踏み込めば空気が途端に変わる。
青年らが時折肝試しに踏み込もうとしては年配の大人達に叱られている。
実際、禁足地に足を踏み入れ命をとられた者もいる。
獣に食い荒らされたにしてはおかしい死体が出る。
茶化してはいけない、遊びで命を取られたくはなかろう。
あそこは人ならざる物の出ずる場所。
姿が見えなくともさまざまな場所にそれらは潜んでいる。
あの神殿も人が建てた物なのかもわからない。
普段開かれる事のない重厚な扉が開かれる。
護符の数珠を身につけた男達に中に運び入れられる。
下ろされた先は祭壇の前に置かれた寝台だった。
そして再び薬を鼻と口を覆うように嗅がされて深く意識は落ちていった。
*
シュテルン 私達の大切なシュテルン
ごらんなさい、あなたはこの光る夜空の星と同じように美しくて尊いのよ
子供の頃に母が夜の海岸でシュテルンの手をひきながら星空を指差したのを思い出す。
貧しい思いをさせてごめんなさいね でも必ずあなたは幸福を掴むわ
私もお父さんもたくさんの祈りを込めてあなたにシュテルンと名付けたのだから
お母さん、お父さん、たくさん祈ってくれたのに行き着く先が生贄だなんて、ごめんね。
神の花嫁の為の身代わりの贄になる。
そしてきっと神を騙したと怒りに触れて罰を受ける。
幸せになれなかった。
愛してくれたのに、ごめんね。
*
頭がはっきりとしてくると、目が慣れてきて暗闇の中でも内部が少しだけ見えてきた。
人の目はすごいな、とシュテルンは感心する。
部屋は円の形をしており、その真ん中は高い台になっており、その上に寝台が置かれている。
重厚な寝台は一人で動かせる様な重さでは無い。
足首の枷には鎖が付いており寝台の脚に繋がれていた。
試しに台を降りて歩いてみたが、鎖の長さは短く扉までは程遠かった。
中に入る事など言語道断だと言われていた神殿内にただ一人繋がれている。
どこからか濃い血のにおいがしている。
ここでこんな豪奢な花嫁姿で孤独に飢えて死ぬのか…かつての贄達はどうなっていったのだろうか、獣が通る道があって、食い散らかされるのか。
いっそ、舌を噛んで死のうかと暗闇の中で途方に暮れて居ると。
『お前が花嫁か』
暗闇の中から突如低く澄んだ声が聞こえた。
ギョッとして振り返り声の方を凝視すると、寝台の飾りのヘリに暗闇で微細に光を放つ一羽の大きな梟が居た。
気が付かなかったがずっと居たのだろうか。
『お前が花嫁か』
再び声がする。
まさかこの梟が喋ったのだろうか。
この梟は神の使いなのか。
「…は…い」
シュテルンは腹を括って答えると、梟が一度身体を震わせ、光を纏ってみるみるうちに人の姿となった。
上質な布の衣服を纏う褐色の肌の、体躯も立派なとても美しい男だった。
驚いて後ろに下がろうとすると、限界まで伸びた鎖が左足を引いて倒れそうになる
「っ………!」
『怯えるな、人の子よ。』
不思議なことに神殿の中も灯りがついた様に明るくなり、アイボリーの壁面に金色の装飾がとても美しい、神殿と呼ぶに相応しい壁面が露わになる。
『名は』
と近づきながら男が問う。
もしかしたら魔の物かもしれない、応えていいものだろうか…
しかし足を繋がれ退路もない今、逆らって酷い事になるのは避けたかった。
「…シュテルン」
『シュテルン』
男がシュテルンの前に移動してくる。
『我が名はモーント』
モーントは左手を上にむけて差し出した。
『手を』
男の指先は金色に光を放っている、シュテルンは戸惑いを隠せず左手を宙に彷徨わせて居ると、不意にモーントにその手をとられる。
するとモーントの指先の光がシュテルンの手の甲に移動する様に美しい模様を描いた。
驚いて手を離そうとするがぎゅっと握り込まれてしまった。
痛くは無いが振り解けない。
己の左手の光のいく末を注視した。
光は手の甲に吸い込まれ、華の様な模様を刻んだ。
これは不味い事になった気がする。
『シュテルン、今、この時より汝は我モーントのつがいとなった。
永久の時を我と共に生き、片翼として共に寄り添おう。
この腕の模様はつがいの証、誰にも消せぬ契りである。』
シュテルンはモーントの言葉に青ざめ、身体が震え出す。
自分は神を欺く行為をしてしまった。
押し付けられたとはいえ、事の重大さは許されるものではない。
ましてや寺院で暮らす身なのに、神を欺く行為に加担してしまった。
贄にされたく無い娘の変わりに連れてこられた、ただの男のくせに花嫁かと訊かれてそうだと言ってしまい、契りが成立してしまった。
「わ…わたしは……なんと言う事を……」
自分のせいでこの街に災厄が降り掛かる。
今、自白しても取り返しはつかない。
このままばれずにおられるはずもないだろう。
手の甲にはモーントの所有の証が刻まれてしまった。
光る手の甲を隠す様に膝を着いてうずくまる。
「申し訳ありません…どうか、どうかお許しください。」
冷たい石の床にふせ、シュテルンは震えながら必死に謝る。
怖くて、寒いのに全身から汗が吹き出る。
「わたしは…俺は男です。花嫁になどなれる筈などありません。
あなたを欺いて……俺は………
俺の命は如何様にもしてくださって構いません。
どうか….街の人達にお慈悲を…!」
ガタガタと震えながら頭を床に押し付ける。
花嫁衣装についた飾りが音を立てる。
『面をあげろ。』
感情の読めない声が頭上から降り注ぐ。
震えの止まらない身体を命じられるままに起こした。
神の怒りに触れて、子供達の将来を厄災で覆ってしまう事になったかもしれない。
シュテルンは酷く怯えた表情で両眼から涙を溢れかえらせている。
モーントの輝く指先が涙を拭う。
『そなたが男である事は元より承知。
私はそなたがご母堂に宿った時よりずっと見守ってきた。
人の為に尽くし、搾取されてきた事を我はこの眼で見て知っている。
この時が来るのをずっと待っていた。
そして今、我の願いが成就したのだ。』
シュテルンは震えながらモーントを見つめた。
街角や、バザーの人混みの中でふと目に止まる記憶の中に居る美しい男を思い出した。
この眼差しとは何度も目があった。
目はあうのに、気がついた瞬間に姿を追えなくなって幻かと不思議に思っていた。
「まさか…」
とかぶりを振るが、記憶の中に居る者は私で間違いないとモーントが返した。
『シュテルン、私はお前を望んでいる。私のつがいはお前以外は望まない。』
モーントは両手でシュテルンの頬を包み込むと、床に片膝をついた。
『やっと、お前に触れられる。』
モーントの愛しむ様な瞳は不思議な色をしていた。
瞳の中に小さな星が幾つもみえ、動いている。
青になったり紫になったりその瞬間でどんどん変わっているように思えた。
今はまるで小さい頃、母に手を引かれ夜の海岸で見た満天の星空の様だった。
まるで吸い寄せられる様にシュテルンはその瞳を見つめた。
「…ん」
モーントの唇がシュテルンの唇を柔く塞ぐ。
舌が歯列をなぞり、口を開けろと動く。
シュテルンの舌を吸い上げ、上顎を撫でる。
乱暴さも嫌悪感も微塵も無く、感じたことの無い心地よいゾワゾワが皮膚を撫でる。
しかし抱き上げられ、寝台に乗せられるとシュテルンの身は途端にすくみあがった。
モーントが今自分にしようとして居る事が恐ろしくてたまらずに再び身体が震え出してしまう。
モーントの身体を押し返そうと両手を突き出した。
「…で…できません…………」
交合は初めてではない。
シュテルンは身体すらも搾取されてきた。
路地裏に引き摺り込まれ、壁に頭を押さえつけられて苦痛でしかない交合を何度もさせられ、一方的に欲望の捌け口にされた。
金を持たされるのはまだいい方で、勝手に売られ暴行だけを喰らう事も多々あった。
凶器のような男のそれで無理矢理後ろを貫かれ、下肢が血塗れになった事もある。
人気のない小川で身を清め帰ると、帰宅が遅かった罰だとあの気持ちの悪い蛇のような僧侶に口淫を強制された。
なにもない時にも、僧侶がもよおせば私室に呼び出され口淫させられる。
シュテルンに陰茎を咥えさせ、恍惚とした顔で神に仕える聖職者ゆえにお前と交合はできないのが悔やまれるなどと言っていた。
やめてくれというとならば他の子供に代わってもらう他ないと言われた。
十にもならない子供達にこんな事をさせてなるものかとシュテルンは涙を飲んだ。
その度にも神に祈りを捧げてきた。
何もかも、怖くて痛くて嫌だ、誰か助けて。
守るべき子供達がいる限り、自分の変わりにされる子供が居ることを思うと命を断つことも出来なかった。
苦痛でしか無い事が思い出され、寝台の上で上ごとのように出来ないと泣くシュテルンの頬をモーントが撫で、口付ける。
愛しみの眼差しをむけられてシュテルンは落ち着きを取り戻してゆく。
『大丈夫だ。すまないがやめてやる事は出来ない。』
金色に光る指が優しく頬を撫でてから身体を触ってくる、シュテルンの泣いて興奮した身体が落ち着いていく。
そうだ、俺は贄なのに。
できないなど言ってられる立場じゃない…
触られたところの皮膚が泡立っている様な刺激を感じたが嫌悪感ではない。
花嫁衣装が少しずつ剥がされ、シュテルンの裸体が顕になる。
まるで穢れなどない様な美しい肢体にモーントは尊い物を見ているかの様に目をすがめた。
『お前は人間どもに何をされようがどこもかしこも清い、お前を助けたくとも、私がお前の世界に干渉する事が出来ずに幾度も歯痒い思いをした。』
それも今日まで。
お前とこの神殿で婚姻を結んだ今、お前の世界に干渉できる。と。
この、何度も無理矢理開かれた汚染された身体を。
知らない男達の精を喉の奥にも、腹にも何度も放たれてきた身体を穢れていないと言う。
この神殿は人と人ならざるものを繋げる架け橋なのだとモーントが言った。
『シュテルン』
美しい瞳で見つめられ名前を呼ばれると緊張が緩んでいくのがわかる。
口付けを受け入れ、愛撫が再開される。
感じたことのない感覚が腹の奥から芽吹いてシュテルンは戸惑う。
シュテルンの細い脚の間にモーントが身体を割り込ませ、モーントのしっかりと肉のついた足にシュテルンの細い脚が乗せられる。
手が下肢へと伸び、シュテルンの陰茎を柔く握り込んだ。
「あ…あ………こんな……」
柔らかかった陰茎が芯をもち、しだいに濡れた音が聞こえてくる。
抑えきれない欲情の火がついて、ししどに蜜を溢れさせる。
こんな事今までになった事がない。
腹の奥が熱くて、燃えている様に思えた。
「あ…たすけて…や………あ…たすけ…て……ぇ……!!」
熱をどう解放したら良いのかわからず喉が詰まって微かに声を上げる。
モーントの陰茎を刺激していた指が、滑りを帯びたままシュテルンの後ろの孔へと滑り込む。
「ア…ッ…!!!!」
腹の中のしこりを押され、信じられない快感が爆発した。
「あ…ァ……ぅ………」
背がそり、シーツを握りしめて達した。
精液が腹の上に吐き出され、内腿が震えて止まらない。
無理矢理手篭めにされて尻を嬲られても快感に震えることなどなかったのに。
その様を見てモーントが微笑みを浮かべてシュテルンに口付ける。
余韻がひかぬところをモーントの指は奥を広げて探る様に動く。
シュテルンは翻弄されて泣きながら快楽を甘受した。
身体を開かれる事は、こんなにも満たされる物だとは思ってもみなかった。
時折胸の飾りを愛撫されるとシュテルンはより甘えた声を上げた。
モーントの熱い舌が皮膚をなぞるたびに快感で身を捩った。
グズグズに溶かされ、怖い事も痛い事もない。
モーントからもたらされるものは全て愛しみの籠ったものだ。
くるりと身体をうつ伏せに返され膝を突いて腰を高く上げさせられる。
『挿れるぞ』
とモーントが滑るものを後ろにあてがい、それはシュテルンに返事のいとまも与えずに腹の中を進んだ。
「ひ…う………!!!」
熱く長大な陰茎がシュテルンの後ろを満たす。
尻にモーントの腰がつく頃には、シュテルンの陰茎はたまらずに再び射精をしていた。
シーツに頭をつけ、モーントの揺さぶりからくる刺激を堪えた。
こんなの知らない。
こんな快感知らない。
一方的に奪われて来たばかりで与えられる事がこんなにも気持ちのいいものだと思いもしなかった。
シュテルンの細くしなる腰をモーントが掴み奥を突く。
「ア………あぅ……は………」
背中に覆い被さり、逃げれない様に抱き込まれた瞬間、腹の中を熱いものが逆流してきてシュテルンは逃げようともがいてしまう。
「や…やぁ……!や…あ…ぁああ!!!」
強烈な絶頂が脳みそを焼いた。
シュテルンの陰茎から再び少ない精液が噴き出る。
腹の中が震えてモーントの陰茎を吸い上げているのがわかった。
なのに、
「あ…あ………や……いま…や!!!やらぁ!!!やぁ……!!!ひ…ひ……あぁ…あぅ………!!」
モーントが腹の中を揺さぶって突いてくる。
やめてほしいのに、あさましく自分も腰を振ってモーントの陰茎を舐めしゃぶるように動いてしまう。
力の入らない腕でモーントの腰を押そうとするのに、引き抜かれる寸前で再び奥まで突き込まれシュテルンは悲鳴を上げる。
「や…やらぁ………!も…むり…むり……も…きもち…のむりぃ……やらぁああ…!」
頭がおかしくなる。
ずっとゾワゾワが止められず何度も絶頂しすぎてもはや前からは何もでない。
できない、もうできないと甘い声で泣いているのに揺さぶりをかけられると、敏感に快感を拾って中から絶頂に押し上げられる。
腹の中がうねり、その度に腹の中にモーントが奥に精を注ぎ込んでくる。
唇や手は優しく甘やかすのに、下肢は容赦なく責め立てられる。
結い上げられた髪もとうに乱れていた。
あまりの快楽の責め苦に耐えきれずに嗚咽を漏らすと、モーントは宥めるように優しく頭を撫でてくる。
『少し眠るといい』と甘く囁かれてシュテルンは眠りに落ちていく。
*
「あ…や……ぁは………」
起きればまた再び揺さぶられる。
眠っている間もモーントの陰茎は腹におさまったままだった。
正面からゆっくり腹の中を撫でられる。
何度もモーントがシュテルンの口の中を舐める。
たまらずに絶頂しては腹の中のモーントの精を搾り取って飲み込んでいる。
「あ…あたま…おかひく…なる…あ……や……」
ひくひくと勝手に身体が揺れてしまう。
大丈夫、と頭を撫でられて唇が塞がれる。
『シュテルン』
時折名前を耳元で呼ばれてそれすらも快感にすり替わって甘く達してしまう。
『モーントと呼んで』
小さい子供に言い聞かせる様にモーントが囁く。
「ん…ン……は…ぁ………モーント…あ……モーント…」
口に出すと愛おしさが溢れ出てどうにかなりそうだった。
揺さぶられ、夢現で名前を呼んでその身体に縋り付こうと手を伸ばすと、モーントはうっとりとした顔になった。
『そう、お前のつがいの名だ。』
まるで褒める様な口ぶりを聞いて何も出ない前を震わせて恍惚とした顔でシュテルンが縋りついてきて絶頂する。
その様をモーントは見つめてなお責めたてる。
食事も水も摂らずに、そんな行為が10日も続いた。
人間であれば身体は壊れ絶命しているであろうその行為で、シュテルンは自分がモーントに作り替えられているのではないかと感じた。
シュテルンの指先が淡く光を持ち始めたからだ。
それにあんなに腹のなかに出されたものが一滴たりとも外に出てこない。
「俺の身体はどうなったのでしょう…」
未だモーントの長い腕に抱かれたままシュテルンが尋ねる。
『…お前が人のままでは寿命が尽きるのが早い…私はすぐに孤独になってしまう。私はお前が育つのを見守ってきたが、もう手放す事は出来ないほどお前を想って居る。私と交わった事でお前の身体は同じではないがより近いものとなったのだよ。』
シュテルンを強く抱き寄せ、頬に唇を押し当てた。
シュテルンはそれに応える様にモーントに腕を回した。
ガシャン、と音が神殿内に鳴り響く。
足首をとらえていた枷をモーントが外した音だった。
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