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桜と海番外編
酔っ払い(桜視点)
しおりを挟む仕事の打ち合わせが夜まで長引いてしまった。
スマホにはウチで酒盛りを始めたという連絡と、グラスを持って笑う海の写真が送られてきた。
二十歳になった海は親達の晩酌に付き合うようになった。
うちの親も海の親も酒豪なのでとにかくよく飲む。
そして海もその血をしっかりと継いでいてかなりの量を飲んでも顔色ひとつ変えないでケロリとしているので、毎日じゃないしそんなに心配はしていない。
が
玄関をあけたら「さくらおかえりぃ」と酔っ払った口調の、女装した海が出迎えて抱きついてきて驚いた。
「海?」
久しぶりに違和感のないその姿をマジマジと見て居ると唇を突き出してくる。
唇を落としてやるとニコニコしながら腕を引っ張った。
「海の旦那さんかえってきたぁ!」
…これは完全に酔っ払っている。
海が俺の腕にしがみつきながらリビングで出来上がっている親達に向かって言い放つ。
母さんが嬉しそうに笑い声をあげてこちらを見ている。
これは母さんと楓さんにおもちゃにされたな…………
楓さんが海の大好きな旦那さんとか言うもんだから情緒がおかしくなってきた…
「海のだんなさぁん」と呂律の怪しい海がダメ押しをしてくる。
「シグルド顔が犯罪者なってるよ」と父さんに言われて思わず右手で顔を覆った。
深呼吸して気を落ち着け、テーブルを見るとありとあらゆる酒があるんじゃないかと思われた。
床に置いた箱にも祭壇の様に酒がおいてある。
全部空いてるわけじゃ無いだろうが有様が酷い。
成る程、海は親達にならってチャンポンしたのか、と推察して海に帰ろうと言うと親達は残念がっていたが素直に従ってくれた。
俺が運転して連れて返ってもいいが、海を家に置いて車を返しにこなくてはならなくなるし車を動かせる大人がみんな酒気を帯びて居るのでタクシーを呼んだ、抱いて帰るよりはやい。
「よろしくお願いしまぁす。」
と言いながら乗り込んで来た海を中年の運転手がやにさがった顔で迎えた。
車の振動でうとうとしかかる海に楽しかったか聞くと、笑顔でウンウンと頷いた。
チラチラと運転手が後部座席の海を値踏みする様に見ている。
バックミラー越しに運転手と目が合い思わず視線が鋭くなる。
マンションの前に着いて車を降りようとすると、海は完全に酔いが回って「たてない」と言うので抱いて連れていっていいか聞いたら「つれてって」と甘える様に首に腕を巻いてきた。
時々海が首に顔を埋めて首筋を吸って舐めてくる。
これはたまらない。
玄関で靴を脱がせてソファへ下ろして冷たい水を飲ませた。
両手でグラスを持ってるのが可愛い。
「さくらだっこ…」
手を伸ばしてくるので両脇に手を入れて抱き上げると腰に脚がしがみついてくる、
抱き上げてから俺がソファに腰掛けた。
薄い背中を撫でて気持ち悪くなって無いか聞くと「きもちわうくない」といってケラケラ笑いはじめる。
肩に海の手が伸びて海が膝立ちになって潤んだ眼で俺を見つめて唇を舐めてくる。
「さくら…すき…」
と海が言うから、気持ちが高揚する。
海からの好意的な言葉だから酔って居る時の言葉だとしても嬉しくなってしまう。
いつもと違う手触りの首の後ろに手をやり本格的なキスを仕掛け、海の口のから溢れる唾液をなめ取る。
太腿を掴んで身体に寄せると海の中心が主張している。
鼻から抜ける甘い声がたまらないが、いつもはしない化粧の匂いが海を隠してしまっている。
唇を離すと唾液が糸を引いた。
海の欲情した目が色っぽい。
「ちょっと待ってて」
たしか洗面台に撮影の時に使って持って返ってきたメイク落としのシートがあるはずだ。
「あった」
ソファに戻って海を抱かえなおす。
海のキスに応えながらメイクを拭う。
少しずつ海が露わになる。
長い髪もいらない、アイシャドウもマスカラもいらない。
俺は素の海がいい。
ウィッグをとって髪の毛を手ですいて整えてやると気持ち良さそうに目を細めた。
「女の子の海も可愛いけど、俺は素の海が一番いい。」
と抱きしめると「へへ」と笑って身体を密着させてくる。
「さくらぁ…しよぉ…」と海が腰を押し付けて、一瞬首に巻き付く腕の力が強くなる。
しかし次第にしがみつく身体の力が抜けていつもより重たく感じる。
「海?」
これは寝たか。
背中をさすっても反応はなく、寝息を立てて居る。
なんとなく予測はしていたけれど、可愛く誘っておいての肩透かしは少し来るものがあるな…
ぐにゃぐにゃになっている海をベッドに運んで服を着替えさせた。
多分二日酔いになる予感がする。
後でコンビニ行っておこう。
*
朝、海が寝床で呻いている。
自分の呻き声が頭に響くのか、枕に顔を押し付けてしんどそうだ。
「ぐぉ………あだまいだい………」
吐きそうな顔をして海が緩慢な動作で顔を上げる
冷たいペットボトルの水を飲ませて、液体の二日酔いの薬を渡す。
一気に煽って渋い顔をしたら少し落ち着いたのか
「俺、途中で記憶無いんだけど何かした…?」
と聞いてくる。
「したいって言ってきたけど次の瞬間にはもう寝てた」と返すと両手をベッドにつけてがっくりと項垂れた。
俺もうほんと最悪と小さく聞こえた。
「桜ごめんな」
と海が眉を下げていってくる。
「海が楽しかったならいいよ」と本心からの言葉を返した。
が
「シグルドこれ見て」と母さんが喜色満面でスマホを見せてくる。
そこには父さんの膝に座って笑ってる海の写真が表示されていた。
「海君とビョーンちゃんめちゃくちゃ可愛くない?」
と母さんが言って来るけど俺は内心父さんにブチギレている。
落とさない様に腹に手を回してるのはわかるが、やにさがった自分の父親の顔面に殺意が湧く。
その気が無いのはわかるが本当にこういうのはふざけてやったとかも無しにして欲しい。
母さんの顔がだんだん「しまった」って顔になってるけど写真を見てしまった今はもう遅い。
「…父さんに2度としないでって言っておいて」
というと「はぁい…」と返って来た。
その日一日中怒りは収まらなかった。
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