お隣どうしの桜と海

八月灯香

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海、高校卒業 

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三年最後の学年末テストで赤点が無いだけの結果を花々しく飾り、担任の河野先生は「夏野は3年間きっちり頑張らなかったな」って言って笑ってた。

「就職も決まってるし、お前ならなんとかやって行けるだろうからなんにも心配してない。
テストでは赤点無かった程度だけど、女装は百点満点だったぞ。」

最後の担任との面談での一コマだ。


「俺の高校生活での担任の印象が値賀と有馬のせいで女装になってるじゃねーか。
どうしてくれるんだ。」

矢作の膝の上で暖を取りながら値賀と有馬に文句を垂れた。

「いやー、3年の文化祭は流石に禁止出ちゃったけど最高だったね。河野先生、指導の大野先生に怒られたって言ってたもんね。」 

そう、三年の文化祭では俺の女装禁止がピンポイントで言い渡された。

俺は当たり前だろと思ったけど、クラスの何人かは先生に抗議してた。
なんでだよっていうか抗議した奴らが女装やれ。


「あとあすかさんが撮った写真なんて夏野完全に女子にしかみえなかったしねぇ。」

「あすかさんって由香里のおねぇちゃんの友達だっけ?」

「そうそう、背が高くてめちゃくちゃ綺麗な人。」

「あのカップル写真はやばかったねぇ~~~!
あ~あ、3年目もやりたかったなぁ~~。」

「アホかやりたかったのお前らだけだわ。」

俺は女装でその後どれも酷い目にあってんだぞ。

清野あすかさんの写真は大学祭で、写真サークルの展示に普通に貼り出されていて、山口って人が再び騒いだのもあって桜狙いの女子達の間であの女は誰だっつってちょっとした騒ぎになったらしい。
でもって桜も開き直って誘いかけられても彼女居るって言ってたらしい。

「やー、流石に3年もやってたら二人とも海君の守護神に二人とも超キレられたと思うよ。」

「守護神?」

「なんでもない!なんでもない!!!」

おい矢作やめろ!いらん事言うな!

値賀と有馬は深追いして来ずまぁいいかって感じで離れていった。

「あ…そうそう、海君みてこれ」

矢作のスマホ画面には漫画の絵が表示されてるけど、どう見てもホモ絵だな。
黒髪の小さいのか茶髪のでかい男に後ろから抱きしめられてるな。
なんなら茶髪の片手服の中に入ってる。
茶髪のほう首輪に鎖までついてて、黒髪がその鎖をもってる。

……んん?なんかこれ…

「これえなちゃんが描いたんだけど。」

だとしたらお前これ………
俺と桜じゃねーのか。

「お正月に実物の海君とソールバルグさんに会えたの相当嬉しかったんだって。」

だって。

じゃねぇな。

「萌えをありがとうだって。」

だからだってじゃねぇって。

正月のあの後、えなちゃんはずっと俺と桜が本当に付き合ってたらいいのにを連発してたらしい。
矢作はもう付き合ってるよ!とは言わなかったみたいだけど、そういう妄想が暴走しちゃうのはもう諦めてるみたい。

「お前んとこも苦労するなぁ。」

思わず矢作を憐んでしまった。




卒業式当日は寒さも緩んで快晴だった。
進学や就職で県外に行ってしまうクラスメイト達もいて、本当に今日で区切りなんだなって思った。

河野先生は教室での別れの挨拶の時にアコギのギター持ってきて歌ってくれたけど、最後の方は泣いて声が震えてた。

なんか、本当にいい高校生活だったなっておもった。

あんなに毎日来ていた学校に明日からはこなくていいのかと思うと不思議な気持ちになる。

そして制服についてたボタンは驚くべき事に全部それぞれ背の高い下級生から「ボタンください」って貰われていった。

一人も俺より背が低い子はいなかった。

矢作はそれを見て「最後まで海君需要と供給のバランスは取れなかったね」って言ってた。

「矢作、これをもって俺の暖房器具としての任務を解く。ご苦労であった。」

というと、矢作は「はは~!」と頭を下げた。
とはいえ矢作とは仲良いからまたちょこちょこ遊ぶんだけどね。


家に帰ると、ソールバルグ家と夏野家揃って卒業を祝ってくれた。

「あれ!ウミ、ボタン全部ないね!」

とグンナーおじさんが目ざとく指摘してくるから

「全部背の高い後輩女子が持ってった。」

人生うまくいかねぇな!とおどけてみせた。

こうして明日から、俺は高校生から社会人になる。

「3年間見守ってくれてありがとうございました。」

と頭を下げると、母さんと菜奈ちゃんが号泣してた。
父さんもちょっと涙目になってるし、グンナーおじさんは「ウミいい子!」って思いっきりハグしてきた。

桜は柔和に笑って俺を見ている。

その日親達は俺の卒業祝いだっていっていつものように遅くまで酒盛りするっぽいから俺は桜と二人で眠りに着いた。

桜は卒業おめでとうっていうのとこれから俺との時間が増えるねって言って嬉しそうにしてた。

桜も今月もうすぐ大学を卒業する。
そしたら本当に一緒の時間が増えるのかと想像すると嬉しくなった。

「俺も桜と一緒に働けるの嬉しい。」

言葉でそう伝えると、桜は破顔して俺をギュッと抱きしめた。





海は突如気が付いてしまった。


桜の部屋のベッドで仰向けに寝転んでポータブルゲームをしていた海がガバッと起き上がってあぐらをかいてちょっと深刻そうな顔をしている。

海の異変に気がついた桜が「どうかした?」と声をかける。

「おい、桜、俺このままいくと死ぬまで童貞じゃねぇかこれ。」

婚約をしたのに今更、とも思うが、海は女の子と付き合えなかった事を時折悔やんでいる気配をさせている事がある。

好みのアイドルを見ては「一回くらい女の子と付き合っておけばよかったな。」などとひとりごちている。

卒業式で制服のボタンを全て持って行かれた事を考えると、やはり女子に需要がないわけではない証明じゃないか、と。

そして海は気づかれてないと思っているが今でもアダルト動画を見てるのを桜は気が付いている。

机でプリントアウトしたインタビュー記事の添削作業の手を止めて桜がベッドに乗り上げた。

「海、俺で喪失する?」

海の身体を後ろに倒して両側に手を置いて海がしたいならいいよ、とキスを落としながら口説くみたいに妖艶に笑いながら色っぽく誘ってくる。

桜の身体は大きく、海の身体を隠してしまえる。
海は少しだけ思案した。

「桜ちょっと立って。」

一度桜をベッドから下ろして自分に背中を向けて立たせた。

「尻に思いっきり力入れて締めてみて」

グ…と桜が力を込める。
デニムの上からでもじゅうぶん過ぎるほど見て分かる鍛え上げられた形のいい筋肉の塊の尻だ。触ってみてもカチカチだ。

海は想像した。

この尻にもし、俺の愚息が厄介になったとして見ろ。
俺より遥かにガタイのいいアスリートの鍛え上げられたケツだぞ…水の中で推進力を生むいわば強烈なエンジンだ。
童貞喪失と共にチンコももげて喪失する…と思わず想像して正座した。


「……いい…しない…」


悲劇を想像して股間が縮み上がった。

そう?と言いながら振り返った桜が軽くキスをしてきた。
海は桜の腹に抱きつくと、桜が海の頭を両手でなでてくる。
手つきが優しくて海は気持ち良さそうに目を細めた。




「海が童貞喪失するとしたら相手は俺しかいないからね。
俺以外の生き物とそういう事したらダメだよ。」


笑顔で言ってくるけど見つめ合った目が一瞬一切笑ってなくて海は抱きつく腕に力を込めてしまう。

桜以外の全人類とその他全ての生き物…指定範囲が広すぎやしないか。


「…オナホはいいの?」と一応聞いてみると


「それはいいよ、買ってあげようか?」と返してくる。

「使うなら俺が抜いてあげたいしセックスしてる時に使うのもありだね。」

旦那さんの性欲発散は嫁の勤めだから。とか言っている。

海はあおひなちゃん事件の時に桜にオナホで抜かれた時をつぶさに思い出した。

桜にオナホ使って抜かれただけで腰が立たなくなったんだぞ…そんなのセックスの時に使われたら絶対意識簡単に飛ぶ…

普段のセックスでも桜がスイッチ入った時はイきっぱなしにされるのに、どうせ尻にデカいのぶち込まれながらオナホで前をすかれる事になるんだろ。

どこもかしこも桜に強烈に気持ちよくされて頭おかしくなるに違いない…すっかり開発されてしまった尻だけでもおかしくなるのに。

海はなんだかそれもゾッとして「いい…いらない…」と声を振り絞った。

桜はとてもいい笑顔になって、欲しかったらいつでもいって、と再び音を立てて軽いキスをしてきた。

オナホは隠れて買うなよって事だよなそれ。と桜の意図を読んだ。

「仕事すぐ片付けちゃうね。終わったらベーカリーに頼んであるパン取ってきてって言われてるから受け取って駅前のカフェ行こ」

と桜が上機嫌で机に戻っていったので、海は再びベッドに寝転んでゲームをした。

…どうやら俺の童貞は桜と別れない限り確実な物だ…

一生童貞、と口にしたのも「もし」だとしても「別れる」というワードで桜がブチ切れる可能性があるからだ。
怒った桜に足腰立たなくなるやつやられたらヤバい事になる…と想像してしまう。

海は桜の自分への執着心を理解している。
海も桜と別れる気なんて毛頭ないし。

もう仕方ない事だな残念だが桜を好きになった時点で魔法使いどころか賢者決定だ、諦めろ俺。と自分を納得させた。

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