お隣どうしの桜と海

八月灯香

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婚約した。

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{なんか知らんが婚約した。}

秀一にメッセージしたらちょっと詳しく話聞かせて、と返事が返ってきて、週末に会うことになった。

詳しくも何も無いけど、秀一は三上くんとお付き合いしてて、同性同士で付き合ってる。俺と桜と同じだ。

秀一には相手が同性って事で色々話してはいたけど、自分の気持ちなんか言えない、とか映画観てまじ凹みしてたのが突然付き合う通り越して婚約ってなったらそりゃ何事だってなるよな。

前から行きたかった外観が御伽話に出てくるみたいなカフェに脚を伸ばす。

低い山のすぐ近くにあって、軽登山から帰ってきたっぽい客も多い。
内装も重厚感があってファンタジー映画の中に来たみたいだ。

桜から海外行く先から送られてきた写真でもこういう建物本当にあるっぽいからいつか行きたい。

「すご、あんな高い壁にも馬の絵が描いてある!」

木組みの高い天井を見上げて俺のテンションは鰻登りだ。

三上くん調度品の甲冑着てくれないかな、絶対似合うじゃん。


店員さんが秘密の小部屋みたいになってる席に案内してくれたな。

薄暗くて壁も丸太が組まれて出来てる。
小窓は古いステンドグラスがはまってるし間接照明のランプも雰囲気抜群の明るさで、魔法使いや騎士が密談するみたいな雰囲気でたまらん。





頼んだキノコとベーコンのガレットが運ばれてくる。
サラダもプレートの上に一緒に乗ってて見た目が綺麗で目にも楽しい。

「えええ…何、付き合って半日経たずに婚約してた??… まぁシグルドさん俺の目にもずっと海の事思ってるように見えたし、ガンちゃんもシグルドさんの海の周りへの牽制がやばいって言ってたもんな…」

「マジか…俺そういうの全然気が付かなかったんだけど…」

お互いに好きだったことがわかって、付き合おうってなったけど、朝起きたらなんか知らんが婚約したって桜が言ってたっていう言い方になる。
秀一がそれってなんかやばい感じない?とかいうけど前後不覚までセックスされてわけわからんうちにうんって言ったとは流石に言えないし。
三上くんがキラキラした目を俺に向けてくる。

「まぁ、婚約って言っても日本じゃ同性同士はどうもなんねーから、お互いのお気持ち次第だけどな。」

と、言うと、三上くんはやっぱりそうか。という顔になった。

「海さんは女の子好きなんだって秀から聞いてましたけど…」

そうだね。
なんなら多分今でも普通に女の子は好きだ。
バラエティで可愛い女の子を見ては癒されてるし、手も繋ぎたいと思う。
付き合いたい気持ちがないわけでは無いけど。

「桜は特別かな。」

と一言だけが出た。

ガレットを綺麗に食べおわって、しばらくいろんな話をした。

「そう言えば、海だけにあんだけ優しいシグルドさんの海だけがしちゃいけない地雷ってあんの?」

と秀一が聞いてくる。

外から見てると桜は俺にだけ果てしなく寛大に見えるんだって。

海以外の人には厳しい通り越して無じゃん、と言われる。
三上くんは桜にまだ一度もあった事は無いので、秀一からの話だけで背がデカくて俺への執着がやばくて顔が綺麗な表情が無い男って思ってると思う。
ただ間違っては無いところがなかなか。

それを言われても「誤解だよ三上くん」ってなんないもん。

執着がやばいのはこないだの婚約した事になってた一件で流石の俺もあれ、これはって思ったもんな。

桜だから受け入れてるだけで。

「地雷…あるある。
なんかアイツ俺以外の人に「嫌い」とか「嫌」とか言われるのなーーんも思ってなそうなのに、俺が「桜嫌い」っていうとスッと表情消して静かにブチギレる。むっちゃくちゃ怖いんだよ。

ほら、秀一覚えてる?幼稚園くらいの時に嫌いって友達に言うの流行ってた事あるじゃん。
あれ家で桜にかましたら真顔になって桜、即家帰っちゃって。
なんかめちゃくちゃキレて泣いて大変だったらしい」

その後も小学生くらいの時になんかで母さんと言い合いになって、宥めようとしてくれた桜が俺の味方じゃ無いって思っちゃって癇癪起こして「桜嫌い」って言ったら真顔で「ダメ、それは言ったらダメだよ海」って詰められて怖すぎて泣いたんだよ。

大抵は俺が泣いたら許す桜が俺が許さなかった。

俺は泣きながらえづいて「桜嫌いじゃ無い、好き」と軍隊よろしく反芻させられたんだ。
その後ごめんなさいした時はずっとニコニコしながら「もう言わないで」って抱きしめられたけど。


って言ったら秀一は「いいそう、やりそう」ってなってるし、三上くんは「大丈夫かその人」ってなってる。
大丈夫…多分。

今言ったらどうなんのかなって想像するとちょっとゾッとするよな。

「あと俺がシグルドって呼ぶのもなんか嫌がる。他の人から桜って呼ばれるのも嫌がるな。」

そう、桜の事を桜と呼ぶのは俺だけ。
なんか俺の呼び方聞いた他の人が桜さんとか桜君って呼ぼうとすると「その呼び方やめてもらっていいですか」ってなってる。

桜の親と俺の親ですら呼んでるのは聞いた事ない。

「世界で桜って呼んでいいのが海だけって事でしょ?徹底し過ぎてて怖い。」

って秀一が改めて言った。




はぁ、この店紅茶も美味しい。
ケーキも頼もうかな…と思ってたらテーブルの上のスマホが震える。

{仕事終わったからそっちいっていい?}

って桜から連絡が入った。

「秀一、桜がここ来ていいかって。これ多分もうこっち向かってる。」

秀一はちょっと緊張した顔になるけど三上君は興味津々の顔してる。
そりゃこんだけ話聞いたら怖いもの見たさでどんな奴か見てみたくなるわな。
多分二人の時も色々聞いてるだろうし。

「あ、お店の住所いる?」と秀一に言われて「大丈夫、何処行くか伝えてあるし俺のスマホGPSアプリ入れられてるから」とぺろっと言っちゃったもんで、二人がドン引きの顔してる。

あれ、これ言わなかった方がいいやつだ。


「それ浮気疑った人がやる奴じゃ無いんですか」とか三上君が言ってるけど別にそうじゃ無い。

「や、うーん、桜が俺がどこに居るかいつでも知ってたいって言うし…俺がズボラだから連絡つかなくてイライラされるよりは………」

海さんも相手に入れてるんですかって聞かれたけど俺は別にいいやってなったから桜のスマホにはやってない。って返したら三上君は「すげえ、いいな」って言ってだけど秀一は「お前そう言うのはうちは禁止だからな」と釘を刺していた。

どこでカツアゲられるかわかんないから入れといてもらえばいいのにと思ったけど秀一に怒られそうだからやめた。
過去をほじくってイジったらブーメランが返ってきそうだ。

「海、席替えしとこ。」

突然秀一が何かに気がついた様に立った。

店に入った時は並んで座ると海がニヤニヤしてくるからって言ってたのに。

今、四人がけのテーブルに秀一と俺が並んで座ってたんだけど、秀一が三上君の横に移動した。

秀一が「目で殺される可能性がある」とか三上君に言ってんの。

「暗殺兵器じゃあるまいし」

って笑ったら「そんなつもりひとつもないのに海の隣に座ってるってだけで笑ってない目で責められる可能性があるから」だって。

流石に今はそんな事しないと思うんだけど。

まぁ、小さい時にちゃんと会話しないとか、他にも公園でいっぱいなんかあったっぽいし。



ケーキ桜来てから頼もうかな。



15分くらいしたら桜が店に入って来たのか、入り口が見えていた秀一が「あ、きた」と声を出した。
俺は小部屋席の入り口から首だけ出してそっちをみた。

わー、馬鹿みたいに脚の長い男入って来た、と笑ってしまう。
撮影って言ってたから髪の毛もセットされてるし。

ファンタジーな店内にリアルファンタジー王子様入って来たみたいになってて、店員さんも見ちゃった他の客もびっくりしてる。


漫画か。アイツは漫画のキャラか。
店内キョロキョロしてたから小部屋の入り口から手をあげてふったら、こっちにすぐに気が付いて笑顔で店の中を歩くから店内がちょっと色めき立つ。

スーパー王子様スマイルの流れ弾をくらった女性客が口元を押さえてる。お姉さんわるいな、この男は俺のものだ。わはは。

全身キラキラの発光物が暗い小部屋に入って来た。
部屋は暗いのに眩しいなってなる。

三上君は桜の容姿にポカーンとなってるし、秀一は緊張してるし店の一角変な空気になってる。

「清水君久しぶり」と桜が王子様スマイルを秀一にかましたけど、過去を思い出してなのかちょっとウッてなってて面白い。

三上君に目を向けて、誰?ってなってたので

「三上龍介君、秀一の彼氏」

と俺が紹介すると三上君がいい笑顔になった。
三上君は多分桜と同じでちゃんと自分の立場を主張したいタイプだ。
秀一は付き合って結構経ってるのにまだモジモジしてるから自分からはどう言う関係ですは言えないっぽい。

「三上君、これ、俺の婚約者のシグルド・ソールバルグ・桜。名前は派手だけど普通に日本語いけるから」

はじめまして、って桜と握手してた。
並ぶと三上君の体格と桜の体格は種類が違うんだなっていうのが良くわかる。
背は桜の方が高い。


秀一は「彼氏…」と呟いて真っ赤になってしまって両手で顔を覆ってる。
ピュアだな、お前。

桜は俺が婚約者って言った事にご機嫌がマックスになって会計持つからなんでも好きな物頼んでいいよとか言ってるし。
二人は恐縮してたけど俺は遠慮なく食べたいケーキを頼んだ。
チョコレートの生地にオレンジが組み合わさってるやつを桜と半分こした。

持つべきものは甘やかしてくれる大人の桜だ。

三上君は「桜さんって呼ぶなよ」と桜がくる前に散々忠告を受けて秀一と同じにシグルドさんって呼んでた。
秀一はあんだけ「ダケちゃん」っていつも呼んでるのに桜の前で一回も出ないの凄いなって思った。



帰りはのんびり四人で電車で帰る事にした。
乗ってる人も少なくてボックス席に秀一と三上君と向かい合わせで座った。

桜がちゃんと会話してくれるもんだから秀一が変な顔にずっとなってる。

ずっと怖い人だと思ってた相手の態度が突然軟化したらこんななるんだな…
三上君は身体の造り方の話を熱心に聞いてるし。

シートの柔らかさと隣に座る桜の物理的な暖かさが気持ちよくて俺は数分と持たずに眠気に襲われる。
俺は桜の匂いと体温に弱い。
会話もだんだん途切れがちになってしまう。


「着く前に起こすから寝ていいよ」と桜が言うから甘えて腕にもたれるとすぐ意識が吸い込まれる。




「海さん猫みたいですね」と三上君が言う。
海が本当に猫だったら、可愛がって家から一歩も出さないのに。

体勢を安定させようと海が俺の腕にしがみついて握ってくる。
寝息が本格的になっている。

「海、元気になってて安心しました。」と秀一君が寝ている海の顔を見ながら小さい声で言った。

「夏休みに家に行った時、元気なかったんです。めちゃくちゃ悩んでて。
これ言ったって知ったら海怒るかもしれないけど、シグルドさんの事頭がおかしくなるくらい好きって。いってました。」

秀一君が俺の知らなかった海の様子を教えてくれた。

ああ、海かわいいな…
そんな風に両想いだなんて思ってもみなかった。

「さっきも特別って言ってもんな」
と三上君が言う。

「ええ…そんな顔で笑うんだ…」って秀一君が俺を見て驚いて小さな声で囁く。


家に着いてから海に「もう結婚しよっか」って窓越しに言ったら

「バカまだ早いわ!調子に乗るな!」と真っ赤な顔で返されて窓を閉められてしまった。

親達にはまだ言わないで、とお願いされたからしばらくは秘密の婚約者を楽しもうと思う。
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