お隣どうしの桜と海

八月灯香

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夏休みのトラブル

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夏休みに入ってすぐの日曜日に秀一と三上君と遊ぶ事になった。
デートの邪魔しちゃうからいいよぉ~ってニヤニヤしながら返事打ち込んで返したらすぐ電話かかってきて「黙って来い」っておこられた。
人の恋愛あんまいじりすぎるの良く無いな、いつか自分に返ってくるかもしれん。

商店街で待ち合わせして映画観てコーヒー買って公園の日陰でいっぱい喋って。
インド映画元気でいいよなぁって三人で盛り上がった。
三上君は社会派とか頭使う作品はあんまり得意じゃ無いけど、派手で元気な作品はなんも考えなくて観てても楽しいから映画館に行くのは好きなんだって。

今日分かったことは三上君は小さい時めっちゃくちゃ濃い顔の美少年だったということ。
眉毛しっかりしてて目がキリッとしてて。
こんなはっきりした顔の幼稚園児初めて見た。

「え!ボクシングやって目つき悪くなったってこと!?」
って思わず言ったら秀一が「龍介にそんな事言えんの海くらいだわ」とか言って笑いすぎてむせてた。
三上君はお父さんがボクシング好きで始めは無理矢理だったけど、勝つと気持ちいいしスカッとするから今は楽しいんだって。
殴られて痛くないのか聞いたらそれは普通に痛いらしい。
痛い目に会いたくなかったら強くなるしかない所も性分にあってるって言ってた。


さて、そろそろ帰ろうか、と公園から出て横断歩道に入ったところでスマホ見ながら走ってきた自転車が秀一に向かって突進してきた。
「危ない!」
と秀一を突き飛ばしたところで自転車は俺にぶつかって俺も自転車も派手な音を立てて倒れた。
左腕を強かに打って呻く。
めちゃくちゃ痛かったけど痺れも無いし手は動いた。
自転車はすぐ起きて逃げようとしたところを三上君に捕まってすごい剣幕で怒鳴られてる。

怒鳴られすぎて青くなってる自転車の人は中学生だった。
顔面蒼白で謝ってきたのでとりあえず自転車乗る時はちゃんと周り見て、と注意して帰した。

秀一と三上君にしきりに大丈夫か聞かれたけど本当に打っただけで他はなんともなそうだから解散した。



結論から言うと、ぜんぜん大丈夫じゃなかった。
朝起きたら昨日自転車と接触した左腕の上腕が真っ黒に腫れ上がってた。
見た事ない皮膚の色に若干ビビっている…
めちゃくちゃ痛い…脂汗でる…

折れてるなこれ… 

俺はキッチンに降りて行って母さんに「病院連れてってくれ」とお願いした。
母さんが俺の腕左腕を凝視して小さい悲鳴をあげて慌て始めた。ごめん。
父さんは仕事で家を出てて居ない。
母さんは車の運転は免許とったその日からしてないから怖くて運転は出来ないからタクシー呼ぶか、となっていた。

今日はお隣さんのお仕事お手伝いの日だったので、グンナーおじさんにバイトは病院で遅れる事をお伝えしたら1分かかんないでグンナーおじさんと、仕事行く前の菜奈ちゃんが青い顔してすっ飛んできてくれて、グンナーおじさんが車を出してくれる事になった。

桜は泳ぎの合宿で居ない。
大会近いし大事にしないでって言ったけど菜奈ちゃんがもうすでに桜にメッセージ送ってた。



「折れてますね。これ、2本あるうちのこっち、橈骨(しゃっこつ)って言うんだけどね。ここ、細くなってるところ綺麗にぱちーんと切れ目入ってるでしょ。」

と先生がレントゲンをモニターに出したのを見せながら説明してくれた。
俺の左腕の骨の一部に斜めに切れ込みが入っていた。

「相当痛かったでしょ。この折れ方なら無茶しなかったら綺麗になおるよ。まぁ三週間はギプスだね。」

痛み止め出しておくから、超音波治療受けにめんどくさがらずに通ってね。
暫くはスリングで腕吊っといて。
ギプスの中痒くなる事あるけど無理に掻いたらダメだよ。

とヒゲの先生が言った。

俺の夏休みの予定はバイトの他に通院が追加された。

家に着いたらまだあと2日合宿あるはずの桜が帰ってきてて、菜奈ちゃんが「ごめん、大丈夫っていうの忘れてた」と言ってた。

「海君怪我した」のメッセージがきてすぐすっ飛んで帰ってきてくれたみたいだけど…大会前の大事な合宿なのに…と言うと「絶対勝つし合宿よりも海の方が大事」って言ってきた。
夏休みの間は俺は桜の部屋に渡るのを禁止された。
そのかわりほぼ毎日桜が俺の部屋に来るしなんならアイツ俺の部屋で寝ていく。
デカいしベッド狭いし暑苦しい………

風呂は濡れないように腕にビニールをかけて父さんに頭を洗ってもらう事になった。

秀一とガンちゃんに泳ぎに行こうって言われてたけど無しになった。
矢作はこないだ別れたと思ったら昨日出来た新しい彼女とデートするからって俺の誘いを全部拒否したから爆発してほしい。
「海君カルシウム大事だよ!」ってこれ食べときゃ骨強くなるよって感じのお菓子の詰め合わせが送られてきた。
会った事もない矢作の彼女の「早く良くなって」っていう手書きのメッセージまで入っていてなんか速攻でそれは破り捨てた。

仕事も利き手が生きてるから別に支障ないし、折れてる方も指は全然動かせる。
軽作業なのにめちゃくちゃ軽い荷物ですらグンナーおじさんが「ウミ、早く治さないとダメだよ、もってくのはおじさんがやるから」とか言いながら持っていくし、これだと役に立って無いから申し訳ないって言うと桜が「海は居るだけでいい」とかグンナーおじさんが「シグルドと二人きりだと息が詰まるから来てくれないと困る」とかいってくる。

お隣一家が俺に過保護すぎる…こんなんで給料もらっていいわけないだろ。
給料受け取り拒否したらグンナーおじさんと桜二人に「それはダメ」とか言われて問答無用で振込まれてた。

秀一は俺の骨折を知っていいって言ってるのに菓子折りを持って三上君と家に来た。

ご心配おかけしてすまない…。

夏休み中だったので他のクラスメイトにも知られる事はないし。
骨が折れてる以外は平穏な夏休みとなった。

夏休みは鬼門な気がしてならん…。

因みに桜は大会で言ってた通りきっちり勝っていた。




「ふ…ぐ……う………う…おがぁざん…」

隣で海が映画を観て号泣している。
腕の骨はくっついてギプスが夏休み最後の昨日取れた。
固定されていた腕は少し細くなっている。
【海君怪我した】とメッセージが来た時は度合いがわからずどうなるかと思った。

海にぶつかって骨を折らせた中学生はその場で家に返してしまったので責任は追えない。

「まー、腕で済んだし。」

と海が言うのでそれ以上は何も言えない。


今日の映画は病気の母親を亡くす事がわかっている少年の話だ。
奇跡を信じる一方で、自分の家での生活と学校の生活とのバランスがうまく取れず、内側の狂気を制御出来ずに暴力的になっていく。
そして最終的に少年は色んな感情と現状に折り合いをつけていかされる。
海はこういう作品で感情移入が強くて登場人物と一緒になって一喜一憂している。

横から背中をさすってティッシュで涙と鼻水を拭いてやりお茶を飲ませる。

「あ…あぃがと…」

またポロポロと涙をこぼす。
可愛すぎてこめかみにキスをした。
愛情に飢えてる主人公と、愛情を感じる行為を受ける自分とのギャップに耐えきれず海が「うぅ~~~~」と再び号泣しはじめた。
「誰かこいつを抱きしめてあげてよ」と言い泣きながら画面を見ている。

理不尽で救われない話とつまらないホラーは途中でやめればいいのに最後までつけていつも憤慨している。

海は表情が豊かだ。この誰にも邪魔されない二人だけの時間が最高だなといつも思っている。

映画の最後は祖母と少年の関係が良好になって、海は満ち足りた気持ちで再び号泣していた。



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