2 / 76
文化祭
しおりを挟む高校入って初めての地獄のテスト期間が終わって6月、俺の成績は赤点が無いだけで可もなく不可もない。
母さんには「地頭は悪く無いはずなのに努力する気がまるで無い」と言われている。
その通りすぎて何も言い返せない。
そして高校生になって初めての文化祭の時期になった。
お祭り事は大好きだし、割とウチの学校の文化祭は規模が大きいって聞くから楽しみだ。
うちのクラスはベタにお化け屋敷をやることになったので、毎日飾り作りを協力して手伝った。
俺は手先の器用さは持ち合わせてないからゴミ捨てに行ったりなんかとってきてって言われたら取りに行くのをなるべく率先してやった。
準備を始めると時間なんて豪速球ですぎていく。
毎日みんな遅くまで頑張った甲斐があって教室は立派なお化け屋敷に変化していった。
出来の良し悪しは別としてみんなよく頑張った。
*
文化祭二日目、クラスの当番も終わってあらかた見て回って、矢作と暇を持て余していた。
矢作奨真は中学からの同級生で、高校も同じところに進学した俺のエロの師匠だ。
仲良くなったのは高校で同じクラスになってから。よくおすすめのセクシー女優情報をくれる。
校舎は賑わっていてみんな楽しそうなのを眺めてるだけでも気分がいいな。
きっとこの文化祭でロマンスが生まれてる奴もいるのだろう、羨ましい爆発しろ。
空いてる教室に矢作と座ってパックのジュースを飲んでいると割とよく話すクラスの女子の値賀亜由と有馬由香里が「夏野ー!」と紙袋を手に走ってきた。この二人はいつも一緒にいる。
「何?」と返すと体育館で2時半からミスコンやるから出て。とか言ってくる。
矢作がえ?と言う顔した後にやるやる!って俺の代わりに言った。
ふざけてんのかなんでお前が快諾してんだよ。
無理矢理バリアフリートイレに押し込まれて足首まである薄手のふわっとしたワンピースを着せられ、ウエスト部分には意味あんの?っていうくらい華奢なフェイクレザーのベルトを巻かれる。
靴はスニーカーなのはまぁいいとして靴下は足が完全に見えない女物にかえられた。
プロのメイクさんになりたいという有馬にメイクをされ、
セミロングのウィッグを被せられて、ベレー帽を被せられて軽く甘いの匂いのする香水をつけられた。
「うわぁ…」
「やば…」
「おほほ…」
と値賀と有馬と矢作が言ってくる。
なんだ、そんなにやばいブスが出来上がったのか?
なんか色々塗られて顔が痒い。
かこうとしたら手を値賀に叩き落とされて「ダメ!」と怒られて「顔触らないようにして」と有馬に注意される。
どれどれと思って鏡を見たらめちゃくちゃ女子になってた。
「おわっ!」
ちょっと自分でもびっくりする出来上がりだった。
化粧すごい…
文化祭だけは私服が許されているので制服じゃない事を怒られる事はない。
「夏野は口が悪いから喋ったらバレるから一言も何も言うな」と値賀に念を押されている。
バリアフリートイレから体育館に向かう。
途中チラチラ上級生の男子に見られた。
女装を疑われたのかな…変な汗出る。
受付が知らない人だったから名前で男だってわかんねーだろうと思って普通に自分の名前を書いた。
舞台上に顔面に自信のある女子が並んでいる。
わかる、みんなそれぞれ可愛い。
スタイルを自慢したい子達ばっかりで脚出したり肩が出てたりしてる。
それぞれ名前を呼ばれて自己紹介してる。
声を出すとバレてしまうから、ベタだが喉を痛めてるというフリで行くことにした。
俺の時は有馬が代わりに俺の自己紹介をした。
俺の名前が呼ばれた時、その場にいたクラスの居合わせた何人かが有馬が隣に居ることもあって「え?」って声をあげていたけど、それで俺に気がついて指差して笑ってるやつもいた。
シーって口に指を当てると「やばい」とか言いながら笑ってる。
体育館に居る人たちの投票で順位が決められる。開票作業の間エントリーした女子達に「何組?一年に夏野さんなんて女子居たっけ?」とか質問攻めにされたけど、有馬が上手い事かわしていた。
座ってる時に足を開いてしまって有馬に軽く蹴られた。
開票の結果が出たので再び舞台に出てと促される。
そして投票の結果、有馬の化粧の力は凄くて俺は見事に優勝をした。
思わず舞台上で雄叫びをあげてしまい、男である事がバレて優勝は無効になった。
あの瞬間のエントリーしてた女子達の驚いた顔はちょっと申し訳なかった。
だが女子が綺麗になる為の努力をしている事を身をもって俺は知ったから許してくれ。
ミスコンは破壊したが結果会場は盛り上がっていたのでそれもよしとしてくれ。
散々はしゃいでもういいだろ、と思ってだけど、値賀と有馬が青い顔で「ごめんメイク落としがない」とか言い始めて。
文化祭のミスコンに俺を出す事だけしか考えてなくて、帰りの事は頭から抜けてたらしい。
しっかりめでメイクしちゃったから流しで顔洗ってもちゃんと落ちなくてめちゃくちゃになるだけだからお母さんに洗顔料借りてだって。
ウィッグの中も今多分髪の毛ぺったんこになってるだろうし、服や小物は貰ったのとかセカンドハンドで1000円だったし記念にあげると言われた。
え!!俺この格好で一人で家に帰るの!?
どうしよう、と青くなる。
流石にこれはない。
この姿で一人で帰りの電車乗る勇気はない。
仲の良い奴らはみんな帰りの方向が逆なのだ。
値賀と有馬が「ごめーん」とか言ってる。
メイク落としを持っていそうな他の女子はもう帰ってしまっている。
「あれ、海君の家のお隣の競泳男子に迎えきて貰えば」
と矢作が言ってくる。
それだ!
今日は水泳の日だけど時間的にももう終わって家に居るはずだ、安全に帰宅するには桜にボディーガードになってもらうのが一番安全だ!
練習終わってたら今から学校の最寄りの駅にきてくれないかとだけ桜にメッセージを送るとすぐに「今行く」と返事がきた。
少なくとも一人で女装がバレるんじゃないかって嫌な緊張感を持たなくて済む…桜がフットワーク軽くて助かった…
桜が来てくれるまで矢作には付き合って貰った。
矢作の家は中学校も高校もチャリ圏内だ。
俺は中学校は徒歩だったけど高校は家から離れて居るので電車を使っている。
「海君分かってないと思うけど、さっきからめちゃくちゃ何人も男の人に見られてるからね。」
と矢作が言っている。
「え、まさか怪しまれてる?」
女装がバレてるのでは無いかと冷や汗が出始めた。
駅の前で待っていると、改札から背の高いバカみたいに脚の長い男が出てきた。
「あ、きたきた!ソールバルグさーん!こっちですー」と矢作が桜に声をかける。
「本当に実物いつ見てもエグいな」とか言ってるし。
わかるよ、俺は毎日そう思ってる。
桜が俺を探す仕草をしてから少し近づいてきて止まった。
「海?」
と言われて俺は「助かったー」と声をあげた。
事の顛末を矢作が話してる間中、桜はずっと俺を見ていた。
時々スマホで俺の写真撮ってくる。やめろ。
「なるほど、矢作君ありがとう」と桜が言うと矢作は「じゃ、俺帰るわ」と自転車に乗って去っていった。
桜はなんでかちょっと嬉しそうにしてて「海ちょっとデートしよう」とか言ってくる。
おほほー、ふざけんなこの野郎、正直今すぐ直帰して顔洗いたい。
なんなら返さなくていいって言われたし、ゴリラみたいにワンピース引きちぎって脱いでしまいたい。
できるかどうかは知らん。
世間様に女装バレたく無いし…けどわざわざ呼び出しに応じて来て貰ったしまぁ…とか思ってたら指を絡めて手を繋がれてしまった。
でもってその手にキスするもんだから「オイ!」って言いそうになってやめた。
この野郎面白がってわかっててやってんなぁ…
周り見ろ!お前みたいな見た目のやつがそんな事したら目立つだろうがよぉ…
矢作も言ってたけどなんか俺も見られてるんだよ!これは怪しまれてるのか!?
絶対恥をかきたくないから声を出せない。
抗議の気持ちを込めて桜にちょっと体当たりした。
くそ…ノーダメージな上に笑ってやんの…
王子スマイルの桜にちょっとお茶しようかって言われてソファのあるカフェに入ったら「ねぇあのカップルやばいね」とか聴こえてきて居た堪れなくなる、君たち聞いてくれよ、カップルじゃないんだよ…
俺は今絶賛女装だからやばい事には変わりない、女の子の言ったやばいはどういう意味なんだ…………
「海めちゃくちゃ可愛いね、びっくりした。」
と言いながら向かいの席から身を乗り出して肘ついて手をわざわざ握ってくるのやめて。
ちょっとカメラみて、とインカメにして写真撮らないで…手の甲で顔隠すとなんかやらしい店の女の子みたいになるからやめた。
「愛されてる感凄いよね」じゃないんだよ。
この男は女装してる俺のこと面白がってるんだよ….
俺は周りの反応で、怪しまれてるわけじゃ無い事に気がついた。
今、俺は女の子にしか周りからは見えないかもしれないけど普通に高校生男児なので桜が王子様モードで接してくるのがむず痒すぎて恥ずかしくて死ねる…お前これは女の子にやれやぁ…
「考えなしでノリでやるんじゃなかった…帰れなくなるところだったわ…」
と小声で桜に言うと「俺は可愛い海迎えに来れてラッキー」とか言ってまた笑って俺の手にキスしてる。
こっちは一つもラッキーじゃねぇんだよ…
やめろーほんとにやめろーめちゃくちゃ見られてるー、後ろにいる可愛い女の子に「いいなー」とか言われてるーなんなら俺が君にしてあげたい~~~
顔から火が出そうだ。
しばらく小声で喋ってたらトイレに行きたくなってきた…
やばい…
ソワソワしてたら「海?」と桜が聞いてくる。耳打ちで「しっこしたい」というとちょっと待てる?と言われたので頷いたら桜がパッと店内のトイレを確認しにいった。
すぐに戻ってきて「この店男女兼用の個室ある、今空いてるから行っておいで」と言われた。
お前出来た男だなぁ。
こういうその人が置かれた状況に合わせた配慮ができる男はモテる、俺にはわかる、俺も見習う。
俺女の子だったら桜と付き合いたいもん。
*
店を出て駅に着くとちょっとお金おろしてくるからここで待ってて、と言われたので素直にその場で待機していた。
「ねぇ~彼女一人?誰かと待ち合わせ?」
桜が離れてすぐに男に声をかけられた。
ギョッとして顔を上げると俺の苦手な臭いの香水を纏った品の無いホスト崩れみたいな見た目だなって思った。
自分に自信満々なのがありありと伝わってくる。
うわぁ…鳥肌たつぅ…
ちょっと移動してもついてくる、どうしようここで待っててって指定されたところから離れたくないのに。
「待ってるの俺でしょ?お待たせだよ~」
とか言ってくるのも全然面白くない。
「ねぇねぇ、マジで名前教えてよ、無視しないでなんか喋ってよ」とそいつが言いながら触れようとしてきた瞬間、そいつと俺の間に大きな長い手が伸びてくる。
「何お前」
と今まで聞いた事ない怒った低い声が桜から発せられていた。
桜は俺の肩を抱いて自分の体で男から俺を隠した。
俺に向けられたわけではないのにその声にビビって思わず桜のシャツを握りしめてしまった。
「す…すみません」と男は桜の威圧を浴びて慌てて退散していった。
ATMが混んでて時間かかっちゃった、一人にしてごめんねと眉を下げて桜が俺に謝る。
そのまま流れるように抱きしめてくるのやめてくんない?
さっきのナンパのせいもあって結構注目浴びてんの。
いやしかし全然桜悪くないし、俺もまさかナンパなんてされると思わなかったから仕方ない。
声出して追い払えばよかった。
桜は俺をきっちりと家の中まで送り届けてくれた。
おかげで無事に帰宅した俺は先に帰宅していた父さんと母さんに女装姿をご披露することとなり、父さんは「俺娘欲しい」とか言ってるし。
幻の娘で我慢しておいてくれ。
母さんは興奮して笑いながら写真おばあちゃんに送るとか言ってるしもう好きにしてくれ…
スマホで母さんが菜奈ちゃんに動画通話し初めて速攻で黄色い声を上げながら菜奈ちゃんとグンナーおじさんがやってきて、全員でご飯を食べる事になったので俺が許されて女装解除出来たのは夜遅くだった。
「あーん海君可愛い~!シグルドのお嫁さんなったらいいのに!」
とか菜奈ちゃんがずっと笑顔で言ってくるので半笑いになってしまった。
いや俺どれだけ可愛くてもチンコついてますから。
5
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる